5. 巻き返しを図る中期目標と「トリプルハーフ」の挑戦
厳しい状況の中、ホンダはV字回復に向けた中期的な戦略目標を掲げています。
2029年3月期には調整後営業利益1兆4,000億円以上という過去最高水準を目指し、さらに2031年3月期にはROIC(投下資本利益率)10%の達成を目標としています。
ROICとは、企業が事業に投じた資金に対してどれだけの利益を生み出したかを示す指標であり、10%という数字は企業価値をしっかりと向上させていくための重要なラインとなります。
この野心的な目標を実現するため、会社側が「ものづくり体質の徹底強化」として打ち出したスローガンが「トリプルハーフ」です。
これは、車の開発にかかる「開発費」「開発期間」「開発工数」の3つを、2025年度比でそれぞれ半分にするという非常に高い目標です。
泉田氏は、この目標が開発現場に与えるプレッシャーの大きさを指摘します。
「EVにずっと特化してて、今のこの計画見るとハイブリッドを全然考えてなかったんだなっていう状況から、半分で、トリプルハーフで『新しいものを作ってこい』と。めちゃめちゃ大変だね現場は」
これまでEVに集中投資してきた体制から一転し、ハイブリッド車の開発をゼロベースで、しかも半分の期間とコストで進めなければなりません。
米国向けの大型ハイブリッドの投入が2029年、日本向けの軽EVが2028年と少し先の設定になっているのも、こうした開発の難しさと、戦略の巻き直しにかかる時間を物語っています。
6. まとめ:戦う地域を見極める今後の戦略論
激動の自動車産業において、ホンダは今後どのような道を選択すべきなのでしょうか。
泉田氏は、すべての国が同じタイミングでEV化や自動運転に進むわけではないと指摘します。エネルギー構成やインフラ整備の状況は国や地域によって大きく異なるため、世界で共通の技術がそのまま使える環境ではなくなっています。
「アメリカでの自動車産業をホンダがどう描くのかっていう宿題が今突きつけられている状態なので、そこって描きにくいんだったら自分たちで勝てる地域を探すしかないなっていうふうには思いますけどね」
トヨタのように全方位で戦うリソースを持たないのであれば、自分たちの技術や研究開発が最も活きる地域を見極め、そこに経営資源を集中させる「ローカル最適化」の戦略が求められます。
特に主戦場である米国市場での戦い方が難しくなっている今、ホンダの経営陣がどの地域で、どのようなパワートレインで勝負に出るのか。
今年度中に発表されるという次世代ハイブリッド戦略の詳細を含め、その戦略の全貌が明らかになったとき、ホンダの真の企業価値が問われることになるでしょう。
なお、本記事は企業の事業内容や決算の解説を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。
参考資料
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年2月21日