2. なぜ戦略転換が必要だったのか?予測と実績の乖離
では、なぜホンダはこれほど巨額の損失を出してまで、急激な戦略の見直しを行う必要があったのでしょうか。その背景について、泉田氏はマクロ環境の変化、特に主戦場である米国市場における「予測と実績の大きな乖離」を指摘します。
ホンダがEV戦略を強力に推し進めようとしていた2021年当時、米国市場におけるEV比率は右肩上がりに急成長していくと予測されていました。しかし、現実の市場の動きはホンダの想定とは大きく異なっていました。
「26年の時にはざっくり15%ぐらいEV化が進んでると思ったんだけども、今だともう10%割れてますからね。ここの差が見通しを間違えたというか、前提が違ってきているっていうのがまずあります」
泉田氏が読み解く決算資料によれば、当初の予測と実際の実績との間には、年間で約150万台もの巨大なギャップが生じています。しかも、このズレは直近で急に起きたわけではなく、2024年からすでに明確に表れ始めていました。
前提条件がこれほどまでに崩れてしまった以上、これまで通りのEV一辺倒の戦略を続ければ、他社との差は開く一方になります。
傷口がさらに広がる前に、ガソリン車やハイブリッド車(HV)へ経営資源(リソース)を再配分する決断を下したのは、企業として必然の判断だったと言えるでしょう。
3. 地域ごとに異なるパワートレイン戦略の現在地
EV戦略を縮小し、軌道修正を図るホンダは、今後どのような方向へ向かうのでしょうか。泉田氏は、ホンダが打ち出した「地域別のパワートレイン(駆動装置)戦略」に注目します。
米国市場では、EVの普及が想定より遅れていることからハイブリッド車への回帰を図り、2029年に大型のハイブリッドモデルを投入する予定です。
一方で日本市場を見ると、軽自動車のEV拡充を掲げており、「N-BOX」を中心に2028年の発売を予定しています。日本では依然として小型EVで勝負する姿勢を崩していません。
また、インド市場についても2028年に向けて要件を再定義するとしています。
泉田氏はこの状況を、ライバルであるトヨタ自動車の戦略と比較して次のように分析します。
「トヨタみたいにマルチパスウェイみたいな感じで、ガソリン車、EVでハイブリッドっていうのでいろんなとこで全部戦略を考えてて、どれが波が来たとしても対応できるっていう風にしてたじゃないですか。ホンダは本当にもう今からゼロベースで考え直しますみたいなことで、ハイブリッドとか全然考えてなかったんだなっていう感じがしますよね」
トヨタが「マルチパスウェイ(全方位戦略)」として多様な選択肢を並行して準備していたのに対し、EVに大きく舵を切っていたホンダは、ここからハイブリッドの戦略をゼロベースで立て直さなければなりません。
実際、次世代ハイブリッドの商品技術戦略については「今年度中に改めて説明する(To be continued)」とされており、まだ具体的な姿は公表されていない状況です。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日