4. PBR1倍割れからの脱却シナリオと今後の投資スタンス
配当の安全性は確認できたものの、企業としての本質的な価値向上には別の課題があります。それが「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」という状況からの脱却です。
4.1 ROIC10%目標と企業価値の創造
現在のホンダの株価水準では、PBRは約0.48倍にとどまっています。PBRが1倍を割っている状態は、株式市場から「企業が持っている純資産(解散価値)よりも、事業を継続する価値の方が低い」と評価されていることを意味します。
この状況を打破するため、ホンダは中期的な経営目標として「2031年3月期にROIC(投下資本利益率)10%」を掲げています。ROICとは、事業に投じた資金を使ってどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。
泉田氏はこの目標の重要性について、株主が企業に期待する利回りである「WACC(加重平均資本コスト)」との関係から次のように解説します。
「WACCとROICのバランスなんだけど、ROICで10%出るんだったらPBRは1倍を超えてくるっていうのが株式市場の普通の状態だよね」
ホンダのWACCは7〜8%程度と想定されています。企業が投じた資本から得られるリターン(ROIC)が、資金調達のコスト(WACC)を上回って初めて「企業価値が創造された」と見なされます。
つまり、ROIC10%という目標を達成できれば、自然とPBRも1倍を超えて正当に評価されるようになるというロジックです。
4.2 泉田氏が考える今後の投資判断
では、個人投資家は現在のホンダ株にどう向き合うべきでしょうか。泉田氏は、市場がホンダの戦略転換をどう受け止めているかを次のように分析します。
「株主からすると、一応戦略転換でEVに大きく舵を切ってた状態からハイブリッド、いわゆる競争力のあるところだね、競争力あるところでしばらく戦ってきますよというところの安心感で株価が上がっていると思うんだけれども」
ホンダはこれまでEVに特化する姿勢を見せていましたが、市場環境の変化を受けて、自社の強みであるハイブリッド車に再び注力する方針を示しました。この「競争力のある領域での戦い」への回帰が、足元の株価を支えています。
しかし、これはあくまで短期的な安心感に過ぎません。長期的に見れば、ハイブリッド車でどれだけ利益水準を維持・延命できるか、そして再び訪れるであろうEV普及期にどう対応するのかという難しい舵取りが求められます。
こうした状況を踏まえ、泉田氏は今後の投資判断について慎重な姿勢を示して締めくくります。
「ちょっと時間かかるから、もうちょっと時間経って、それこそアップデートじゃないけど、その話聞いてからでもいいかなっていう気がします」
ホンダは現在、急激な環境変化に対応するため、戦略を根本から練り直している最中です。
技術力や過去の実績は十分に評価できるものの、経営陣がどのような具体的な次の一手を打ってくるのか。その詳細な情報が出てくるのを待ってから投資判断を下しても遅くはない、というのが元機関投資家ならではの冷静な視点です。
なお、本記事は決算内容の解説を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。
参考資料
- 本田技研工業株式会社「2026年3月期 決算短信」(2026年5月14日)
- 本田技研工業株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月14日)
- 本田技研工業株式会社「2026ビジネスアップデート」(2026年5月14日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年2月21日