3. 10月15日に振り込まれるのは、8月分と9月分。今年の年金支給はあと2回
ここで年金支給日の仕組みも確かめておきます。
日本年金機構は、年金について、原則として年6回に分けて偶数月の15日に支払うと案内しています。15日が土日または祝日にあたるときは、その直前の平日に支払われます。2026年10月15日は木曜日にあたるため、前倒しはありません。
各支払月に振り込まれるのは、原則としてその前月までの2カ月分です。同機構は支払月と支払対象月の対応表も示しています。2月は12月分と1月分、4月は2月分と3月分、6月は4月分と5月分、8月は6月分と7月分、10月は8月分と9月分、12月は10月分と11月分です。2カ月ずつ後ろにずれていく形が、1年を通して続きます。
ここを知らないと、通帳の数字を月の収入と取り違えてしまいます。平均の15万289円は1カ月あたりの額なので、10月15日に入るのはその2カ月分にあたる金額ということになります。家計を月ごとに組む方は、入った額を2で割って考えるほうが実態に近くなります。
そして、奇数月には振り込みがありません。1月、3月、5月、7月、9月、11月は入らない月です。年6回という言い方は、裏を返せば1年の半分は入金がないということでもあります。
この2カ月ごとのリズムは、繰上げ・繰下げを選んでも変わりません。変わるのは1回に入る金額のほうです。60歳から受け取れば早く始まるかわりに毎回の額が減り、70歳まで待てば始まりは遅くなるかわりに毎回の額が増えます。次の章で、その増減の幅を確かめます。
4. 「75歳まで待てば84%増える」が、繰下げた人は1.9%(厚生年金)
繰下げの増額率から見ていきます。
日本年金機構によると、老齢基礎年金と老齢厚生年金は、65歳で受け取らずに66歳以後75歳までの間に繰り下げて、増額した年金を受け取ることができます。増額率は原則0.7%に、65歳に達した月から繰下げの申出をした月の前月までの月数を掛けて計算され、最大で84%です。増額率は一生変わりません。
早見表では、66歳で8.4%、67歳で16.8%、68歳で25.2%、69歳で33.6%、70歳で42.0%、そして75歳で84.0%となっています。1年待つごとに8.4%ずつ増えていく形です。
数字だけを見れば、待つほど有利に見えます。ところが実際の選択は違いました。
ここからは、同じ概況の中でも繰上げ・繰下げの状況をまとめた表を使います。平均額を見たときの表とは集計の対象が違うため、総数の数字も変わります。
この表では、令和6年度末時点の老齢厚生年金の受給権者が2869万7329人で、その内訳は繰上げが35万650人、本来の65歳受給が2779万8044人、繰下げが54万8635人です。割合にすると繰上げが1.2%、繰下げが1.9%になります。繰下げをしている人は52人に1人ほどということです。
ちなみに、この総数には特別支給の老齢厚生年金の受給権者が含まれていません。特別支給は繰下げができない仕組みのため、原典が集計から外しています。つまり1.9%は、繰下げを選べる人の中での割合です。選べない人を含めて薄まった数字ではありません。
図の右側が繰下げ、左側が繰上げです。増える幅のほうがはるかに大きく見えます。
年度末時点で70歳の方に限ると、繰下げ率は4.2%、繰上げ率は0.7%でした。全体よりは高いものの、それでも20人に1人には届きません。
次の章で見るとおり、繰上げは国民年金のほうがはるかに多いのですが、長く待つほうの選択は国民年金のほうが少なくなっています。
5. 実際に多いのは繰上げのほう。国民年金だけの方では23.2%
ここからが、もう一段はっきりする話です。
国民年金の側も同じ表で見ていきます。令和6年度末時点の受給権者は3439万5667人でした。この表は、旧法の老齢年金・通算老齢年金の受給権者と、新法の老齢基礎年金の受給権者を合わせて計上しています。平均額のところで挙げた3345万4617人より94万1050人多いのは、そのためです。
内訳は繰上げが347万9097人、本来が3003万5137人、繰下げが88万1433人でした。割合は繰上げ10.1%、繰下げ2.6%です。厚生年金とは違い、繰上げのほうが4倍近く多くなっています。
さらに、この中から「基礎のみ・旧国年」として再掲されている区分を見ると、差はもっと開きます。国民年金だけを受け取る方574万3133人のうち、繰上げが133万2240人、本来が427万1771人、繰下げが13万9122人でした。繰上げは23.2%、繰下げは2.4%です。
図にすると、3つの区分で濃い色の左端が伸びていくのが分かります。国民年金だけを受け取る方の帯だけ、左端が大きく張り出しています。
4人に1人近くが、65歳を待たずに受け取り始めている計算になります。繰上げは1カ月あたり0.4%の減額で、60歳から受け取ると24%減ります。昭和37年4月1日以前に生まれた方は1カ月あたり0.5%で、最大30%の減額です。減額率も一生変わりません。
ここで一つ確かめておきたいことがあります。国民年金だけの方の平均月額は5万9310円でした。仮に24%減れば、4万5000円ほどになります。それでも早く受け取ることを選ぶ方が23.2%いるという数字です。
増額率の大きさだけを見れば繰下げが有利に見えますが、それは待てる人の話です。待つあいだの生活費をどこから出すかなどという条件もあります。
なお、70歳時点の老齢基礎年金(基礎のみ)では、繰上げ率10.1%、繰下げ率5.5%でした。原典は、繰上げ率が低下傾向にある一方で繰下げ率は上昇傾向にある、としています。全体としては繰下げが増えつつある、という向きも押さえておきたいところです。
6. 繰上げと繰下げ、決める前に確かめておきたいこと
実際には繰上げ受給と繰下げ受給、どちらもメリット・デメリットや注意点があります。
年金について考える際、まずは自分の年金額をたしかめることが大切でしょう。ねんきんネットであれば、これまでの加入記録をもとに見込額を出せます。50歳以上の方なら、毎年の誕生月に届くねんきん定期便にも見込額が載っています。この額が分からないまま増減率の表だけを見ても、いくら変わるのかは出てきません。
次に、65歳から受け取り始めるまでの生活費を書き出します。66歳から受け取るなら1年分、70歳まで待つなら5年分です。給与、貯蓄の取り崩し、配偶者の収入、そのどれで埋めるのかを月ごとに並べてみてください。ここが埋まらない年があれば、その年までは待てないということになります。
そのうえで、戻せない条件を確かめます。繰下げは、増えた率が一生続くかわりに、待っているあいだは受け取れません。繰上げは、早く始まるかわりに減った率が一生続きます。しかも日本年金機構は、繰上げの請求は取り消せないこと、繰上げをすると国民年金の任意加入や保険料の追納ができなくなることを案内しています。どちらも、あとから戻す前提では選べません。
組み合わせも選べます。老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げられるので、片方だけを遅らせることもできます。いっぽう繰上げは、原則として2つ同時の請求になります。
加給年金など、ご自身の家族構成によって変わる部分もありますので、注意点も含めてよく調べ、総合的に考えましょう。
7. 元証券会社社員の執筆者コメント
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
- 日本年金機構「年金の繰上げ受給」
- 日本年金機構 年金Q&A「年金はいつ支払われますか。」
宮野 茉莉子
