「資産はあるはずなのに、すぐ動かせるお金が手元にない」――年金生活に入ってから、こうした不安を抱える方は少なくありません。この記事では、年金生活者支援給付金の制度を確認したうえで、医療費など急な出費に備えて、手元にいくら現金を置いておくべきかを試算していきます。
なお、年金生活者支援給付金の給付額・支給要件・請求手続きのデータについては、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
- 年金生活者支援給付金は2026年度に前年度比+3.2%。老齢・障害・遺族の3種類がある
- 給付金は請求手続きをしなければ受け取れない。65歳新規と既受給者で手続き方法が異なる
- 高額療養費制度には自己負担の上限があり、医療費は青天井に膨らむわけではない
1. 2026年度「年金生活者支援給付金」の給付額はどれくらいなのか
「年金生活者支援給付金」は、公的年金等の収入金額やその他の所得が一定基準に満たない場合に受け取れる給付金です。老齢年金、障害年金、遺族年金のそれぞれの年金に給付金が設けられており、2カ月に一度、公的年金に上乗せして支給されます。また、給付額は公的年金と同様に、年度ごとに見直しがおこなわれます。
1.1 年金生活者支援給付金「2026年度の給付額」はいくら
2026年度の「年金生活者支援給付金」の給付額は、前年度より+3.2%引き上げが決定しており、6月支給分の「4・5月分給付金」から増額率が適用されます。各給付金の2026年度月額は以下の通りです。
- 老齢年金生活者支援給付金(月額):5620円(※基準額)
- 障害年金生活者支援給付金(月額):1級7025円・2級5620円
- 遺族年金生活者支援給付金(月額):5620円
なお、老齢年金生活者支援給付金については、上記を基準額として、保険料納付済期間などをもとに実際の給付金額が計算されます。
2. 「年金生活者支援給付金」の対象者はどんな人なのか
「老齢」「障害」「遺族」、3種類ある年金生活者支援給付金には、それぞれの支給要件が定められています。一つひとつ整理していきましょう。
2.1 「老齢年金生活者支援給付金」の支給要件を確認
老齢年金生活者支援給付金の対象となるのは、下記の支給要件をすべて満たす方です。
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後に生まれた方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前に生まれた方は80万6700円以下(※2)
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は除く
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
2.2 「障害年金生活者支援給付金」の支給要件を確認
- 障害基礎年金の受給者である
- 前年の所得(※)が479万4000円以下である(扶養親族等の数に応じて増額される)
※ 障害年金等の非課税収入は除く
2.3 「遺族年金生活者支援給付金」の支給要件を確認
- 遺族基礎年金の受給者である
- 前年の所得(※)が479万4000円以下である(扶養親族等の数に応じて増額される)
※ 遺族年金等の非課税収入は除く
いずれの年金生活者支援給付金も、前年の所得額が支給要件に関わっています。なお、年金生活者支援給付金は、受給要件を満たしても自動では支給されません。受け取るためには、必ず「請求手続き」が必要です。
3. 年金生活者支援給付金の請求手続き
年金生活者支援給付金の支給対象となった人には、日本年金機構からお知らせを兼ねた請求書が郵送されます。請求書の送付時期や書類形式は、年金の受給状況により異なります。今回は該当する人が多い2つのパターンを見ていきましょう。
3.1 【パターン1】65歳の誕生日を迎え、老齢基礎年金を新規に請求する人
- 65歳になる3か月前に、年金受給に必要な「年金請求書(事前送付用)」に同封して送付
- 必要事項を記入し、受給開始年齢の誕生日の前日以降に、年金の請求書と併せて年金事務所に提出
3.2 【パターン2】基礎年金を受給中で、新たに年金生活者支援給付金を受け取ることができる人
- 毎年9月の第1営業日から「年金生活者支援給付金請求書(はがき型)」が順次郵送される
- 日本年金機構から「年金生活者支援給付金請求書(はがき型)」が届いた方は電子申請を利用できます
- 電子申請を利用しない場合は、必要事項を記載し、切手を貼ってポストに投函
なお、支給要件に当てはまるかどうかが確認できない人には「年金生活者支援給付金請求書(A4型)」および「所得情報等を確認するための所得状況届」が届きます。
3.3 年金生活者支援給付金の支給日はいつ?
年金生活者支援給付金は、年6回に分けて、偶数月の15日に支払われます。なお、15日が土日または祝日のときは、その直前の金融機関の営業日に前倒しとなります。年金の受取口座と同じ口座に、同日、年金とは別に振り込まれます(通帳にはそれぞれ別の振込として記載されます)。
各支払月には、原則、その前月までの2カ月分の年金生活者支援給付金が支払われます。例えば、10月に給付されるのは、8月分・9月分の給付金です。
4. 公的年金、受給額には個人差がある「平均」はどれくらいか
今のシニア世代の年金受給事情についても触れていきます。厚生労働省が公表している「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」のデータをもとに、60歳以上のすべての受給権者の男女差・個人差に着目してみましょう。
4.1 厚生年金・国民年金の平均月額を確認(額面)
4.2 厚生年金の平均年金月額はどれくらいか「全体・男女別」
〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
4.3 国民年金の平均年金月額はどれくらいか「全体・男女別」
〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
厚生年金(国民年金部分を含む)の平均年金月額は、男性の平均が16万9967円であるのに対し、女性の平均は11万1413円と、約6万円の開きがあります。この格差が生じる背景には、厚生年金の計算方法があります。厚生年金は、現役時代の給与や加入期間が年金額に反映されるため、平均勤続年数が長く、生涯賃金が高かった男性の受給額が大きくなる傾向があるのです。
一方で、国民年金は加入月数に応じて受給額が決まる仕組みのため、男女間の受給額に大きな差はありません。厚生年金受給額が月額2万円未満から30万円超までと幅が広いことからも、一人ひとりの働き方や加入期間が年金額に大きく影響していることがわかります。
4.4 高額療養費制度の自己負担上限はいくら?「青天井」ではない医療費
手元資金の不安の多くは、「医療費がいくらかかるか分からない」ことに起因します。しかし、公的医療保険には「高額療養費制度」があり、自己負担額には上限が設けられています。70歳以上・一般的な所得区分(年収約156万円〜約370万円)の場合の外来自己負担限度額を例に見てみましょう。
【70歳以上・一般所得区分の場合】
外来(個人ごと):月額1万8000円(年間上限14万4000円)
外来+入院(世帯ごと):月額5万7600円
つまり、大きな手術や長期入院があっても、月々の自己負担は世帯で5万7600円が上限です(食費・差額ベッド代等は別途)。医療費を「いくらかかるか分からない青天井の支出」ではなく、「月5万7600円が上限の支出」として捉え直すだけで、必要な手元資金の見積もりは変わってきます。
4.5 半年分の生活費+医療費上限3か月分、手元にいくら必要?
では、実際に手元に置いておくべき現金の目安を試算してみましょう。国民年金のみを受給する単身世帯(平均月額5万9310円受給、生活費を月12万円と仮定)を例に、生活費の半年分と、高額療養費の自己負担上限3か月分を確保する場合を計算します。
【生活費(月12万円)の半年分】
12万円 × 6カ月 = 72万円【高額療養費の自己負担上限(世帯・月5万7600円)の3か月分】
5万7600円 × 3カ月 = 約17万円【手元に確保しておきたい現金の目安】
72万円 + 約17万円 = 約89万円
「いくら手元に置けば安心か」という漠然とした不安は、生活費の半年分と医療費上限の見込み分を足し合わせるだけで、約89万円という具体的な数字に変わります。この金額を、値動きのある運用資産とは別に、普通預金などすぐに引き出せる形で確保しておくことが目安になります。なお、生活費や所得区分は世帯によって異なるため、この試算はあくまで一例です。
5. 【監修者コメント・安達さやか】高額療養費の上限額は、年齢と所得区分で変わる
この記事では、年金生活者支援給付金の給付額と支給要件、請求手続きの流れ、そして高額療養費制度をもとにした手元現金の目安をご紹介しました。2026年度の給付額は前年度から3.2%引き上げられ、老齢年金生活者支援給付金の基準額は月5620円、障害年金生活者支援給付金は1級7025円・2級5620円です。
なお、高額療養費制度の自己負担上限は、年齢と所得区分によって変わります。記事で取り上げた世帯ごと月5万7600円は、70歳以上・年収約156万円から約370万円の区分の金額です。同じ「上限額」でも区分によって水準が違いますので、ご自身がどの区分にあたるかを確かめてから金額を当てはめるとよいでしょう。
また、記事中の試算では、生活費の半年分72万円と自己負担上限の3か月分約17万円を合わせて、約89万円という目安が出ました。手元にいくら置くかが決まると、それ以外の資産をどこに置くかも決めやすくなります。老後の資金計画では、金額の大小より、すぐ使える資金とそれ以外を分けておくことが大切です。


