8. 60歳代に多い「口座をひとつにまとめたいが、どう進めればよいのか分からない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・橋本 優理が伝えたいこと
長く資産づくりを続けてこられた方から、取引のある会社が少しずつ増えて口座が分かれてしまった、というお話をうかがうことがあります。まとめたほうがよさそうだとは思うものの、では実際に何から手をつければよいのかが分からず、そのままになっているというご相談は少なくありません。
8.1 60歳代に多いお悩み相談は「口座をひとつにまとめたいが、どう進めればよいのか分からない」

こうしたお声は、資産づくりの期間が長い方ほど多くなります。きっかけごとに口座を開いてきた結果として分かれているだけで、何かを間違えたわけではありません。そのうえで、まとめる方向に気持ちが傾いているときにつまずきやすいのは、判断そのものよりも「では、どう進めるのか」という段取りの部分です。
8.2 【ファイナンシャルアドバイザー・橋本 優理が回答】まとめると決めたあとも、一度に全部やる必要はない
確かに、資産が複数の口座に分かれていると管理が面倒で、ひとつにまとめたいと思うかもしれません。
ですが、一気に整理を進める必要はありません。
まずは、どの口座にどんな資産がいくらあるのかを整理してみましょう。
そのうえで、どの口座から整理するかの優先順位を決め、ひとつずつ解決していくとスムーズです。
「早く片付けてしまいたい」という一心で、安易に資産を売却すると、不利益につながるケースもあります。
8.3 ポイント1:どの口座から動かすかの順番を決めて、一つずつ進める
まとめる方向で進めると決めたとき、すべての口座を同じ日に片づけようとすると、それだけで手が止まってしまいます。相談の場では、まず動かしやすいところから一つずつ、という順番を決めていただくことが多いです。たとえば、残っている金額が少ない口座や、しばらく使っていない口座は、手続きの流れをつかむ練習の意味でも先に取りかかりやすいところです。逆に、長く運用を続けてきた口座や、税制上の優遇がある制度を使って持っている口座は、別の会社へ移そうとすると所定の手続きが必要になったり、取り扱える時期や方法に制約がある場合があります。制度によっては、そのまま移せる範囲が決まっていたり、いったん売却してからでないと移せなかったりすることもあります。制度の取り扱いは改正されることがあるため、最新の内容は公的機関の情報や口座を開いている窓口でご確認いただければと思います。順番を先に決めておくと、途中で止まってもどこまで進んだかが分かるので、再開しやすくなります。
8.4 ポイント2:あとから不都合が出たときに戻せるのかを、動かす前に確かめる
進めてみたあとで「やはり分けておいたほうがよかった」と感じることもあります。ですから、動かす前に、元の状態に戻すことができるのか、戻せるとしたらどういう手順と時間がかかるのかを、口座を開いている窓口に聞いておくと、見通しを持って進めやすくなります。単に残高を移すだけであれば戻すことも比較的しやすい一方で、いったん売却をはさむ形になる場合は、同じ状態に戻すという意味では元どおりにはなりません。売却をはさむと、その時々の相場の影響を受けるため、投じた金額を下回った状態で手続きすることもあり得ますし、移した先でも価格の変動は続きます。また、制度を使って持っている口座は、閉じたあとに同じ条件で開き直せるとは限らないため、この点も窓口で確かめておきたいところです。戻せる範囲と戻せない範囲が分かっていれば、どこまで一気に進めてよいかの見当がつきます。
8.5 ポイント3:手続きそのものが負担に感じるなら、無理にまとめない選択も残す
見落とされやすいのが、手続きにかかる手間そのものを判断に入れる、という視点です。書類の取り寄せ、記入、本人確認、窓口とのやりとりと、まとめる作業にはいくつもの段階があり、年齢を重ねるほど、この一つひとつが思っていたより負担に感じられることがあります。管理を楽にするために始めたはずの作業で疲れてしまっては、目的と結果が入れ替わってしまいます。途中まで進めてみて重いと感じたら、そこでいったん止めて、残りは分かれたままにしておくという形でもかまいません。数を減らすことそのものが目的ではなく、ご自身とご家族にとって分かりやすい状態にすることが目的だと考えれば、分かれたまま一覧を作って把握しておく、というやり方も選択肢に入ります。ご家族や信頼できる方に手伝ってもらいながら少しずつ進める、という進め方もあります。
まとめると決めたあとにやることは、一気に片づけることではありません。順番を決めて一つずつ、戻せる範囲を確かめながら、負担を感じたら立ち止まる。この三つを押さえておけば、途中で止まっても困らない形で進めていけます。
9. まとめにかえて
口座をひとつにまとめるかどうかは、どちらが正しいと決まっているものではありません。まとめると決めた場合でも、その日のうちに終わらせなければならないものでもありません。動かす順番を決めて一つずつ進め、戻せるのかどうかを先に確かめ、手続きが重いと感じたところで立ち止まる。この進め方であれば、途中で状況が変わっても対応できます。運用している資産には価格の変動があり、移し替えの過程で売却をはさむ場合には、投じた金額を下回ることもあります。制度に関わる手続きや税の取り扱いはお一人おひとりの状況によって変わりますし、改正されることもありますので、最新の内容は公的機関の情報や口座を開いている窓口、関連する部署にご確認いただき、迷いが残る部分は個別にご相談いただくのがよいと思います。
参考資料
- 【70代の貯蓄・年金・家計のリアル】老後赤字を加速させないためには?投資に頼らない防衛策を徹底解説!
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
橋本 優理
