公的年金は偶数月に2カ月分がまとめて振り込まれる仕組みで、8月も定期支払いのある月です。通帳に記載された金額をひと月あたりに割り戻してみると、毎日の暮らしにかかる費用との距離が見えてきます。

2026年度の年金額は、国民年金(基礎年金)が前年度より1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%引き上げられました。ただし、増えた金額で暮らしが賄えるかどうかは別の話です。とくに一人暮らしで仕事から離れたシニア世帯では、収入と支出の差をどう埋めるかが家計の中心的な問いになります。

この記事では、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から65歳以上の単身無職世帯の家計収支を確認し、続いて2026年度の年金額例と、厚生労働省が示した多様なライフコースに応じた年金額を順に見ていきます。

田中 友梨
ファイナンシャルアドバイザーの田中です。老後の家計を考えるとき、年金がいくら受け取れるかという一点だけで話が終わってしまうことがあります。ただ、知りたいのはその先、つまりその金額で日々の暮らしがどう回るのかという部分ではないでしょうか。この記事では、先に支出の水準を押さえ、そのうえで年金額の例と突き合わせていく順番で進めます。支出から見たほうが、数字の意味を受け止めやすくなります。

なお、65歳以上の無職世帯の家計収支やライフコース別の年金額に関する詳しい解説は、下記の2記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説
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ココがポイント
  • 65歳以上の単身無職世帯は、ひと月の実収入13万1456円に対して支出が16万1435円。差し引き2万9980円が不足する計算になる
  • 2026年度の年金額は国民年金が1.9%、厚生年金の報酬比例部分が2.0%の引き上げ。老齢基礎年金の満額は1人分で月7万608円
  • 厚生労働省が示す多様なライフコースの年金額例は、ひと月6万1771円から17万6793円まで幅がある
  • 【独自試算】支出16万1435円と並べると、ひと月の差は1万5358円のプラスから9万9664円の不足まで開く

1. 65歳以上・ひとり暮らしの無職世帯、実収入13.4万円と支出16.1万円の差をどう埋めるか

まずは、ひとり暮らしのシニア世帯が実際にどのような収支で暮らしているのかを確認します。65歳以上の世帯の貯蓄額や家計の姿については、LIMOの記事「【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説」でも詳しく取り上げられています。

ここでは、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」をもとにした要点を、冒頭に挙げた年金早見表の記事から引用して見ていきましょう。

65歳以上の無職単身世帯では、実収入13万1456円(うち社会保障給付12万212円)に対し、支出は消費支出14万8445円と非消費支出1万2990円を合わせて16万1435円。毎月2万9980円が不足している計算になります。

1.1 収入の柱は公的年金|実収入のうち社会保障給付が12万212円

実収入13万1456円のうち、社会保障給付が12万212円を占めています。割合にすると約9割で、ひとり暮らしのシニア世帯の家計は、その大部分を公的年金が支えている姿が浮かびます。

裏を返すと、年金以外の収入は月1万円あまりということになります。就労による収入や個人年金などが加われば、この構成は変わってきます。

1.2 支出16万1435円の中身|消費支出と非消費支出に分けて見る

支出合計16万1435円の内訳は、食費や住居費など日々の暮らしにかかる「消費支出」が14万8445円、税金や社会保険料などの「非消費支出」が1万2990円です。

非消費支出が計上されているとおり、仕事から離れたあとも税や社会保険料の負担は続きます。多くの方がこれらを年金からの天引きという形で納めているため、額面の年金額をそのまま生活費に充てられるわけではない、という点は押さえておきたいところです。

1.3 ひと月2万9980円の差|この差を埋めているもの

実収入13万1456円に対して支出が16万1435円ですから、差し引き2万9980円が毎月足りない計算になります。この差は、それまでに準備してきた貯蓄の取り崩しや、働いて得る収入などで埋められていることになります。

ただし、これは全国の対象世帯を平均した数字であって、どこかに実在する一世帯の家計簿ではありません。住まいが持ち家か賃貸か、健康状態がどうかによって、支出の水準は上にも下にも動きます。数字を自分の家計に当てはめるときは、どの項目が自分と違うのかを一つずつ確かめていく作業が欠かせません。

田中 友梨
この2万9980円という差額を見て、思ったより小さいと受け止める方もいれば、毎月これが続くのかと感じる方もいらっしゃいます。相談の場でお伝えしているのは、この数字は努力の結果を評価したものではなく、収入と支出という2つの前提から出てきた計算結果にすぎない、ということです。前提が変われば差額も変わります。住居費が家賃として毎月かかるのか、それとも固定資産税と修繕費が中心なのか。この一点だけでも金額は動きます。まずはご自身の家計で、収入と支出のどちらの側に平均との違いがあるのかを分けて書き出してみると、次に何を確かめればよいのかが見えやすくなります。

2. 国民年金は満額で月7万608円、厚生年金は夫婦2人分で月23万7279円

現役時代の年金加入状況によって、老後の受給額は一人ひとり異なります。加えて年金額は、物価や現役世代の賃金の動きを踏まえて毎年改定される仕組みです。

2026年度の年金額は前年度より国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%引き上げられており、日本年金機構は以下の年金額について公表しています。

2.1 2026年度に示されている2つの年金額

  • 国民年金(老齢基礎年金(満額):1人分):7万608円(+1300円)
  • 厚生年金(夫婦2人分):23万7279円(+4495円)

※昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金の満額は月額7万408円(対前年度比+1300円)
※厚生年金は「男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)」で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準

国民年金の保険料は全員一律である一方、厚生年金は会社員や公務員などが加入し、収入に応じた保険料を納める仕組みです。そのため、受け取る段階になったときの金額にも個人差が表れやすくなります。

ここで前の章の支出と並べてみると、国民年金の満額7万608円は、単身無職世帯の支出16万1435円の半分にも届きません。厚生年金の23万7279円は夫婦2人分の合計として示された金額ですので、ひとり暮らしの家計にそのまま当てはめると見通しを取り違えることになります。どの金額が誰の何を指しているのかを区別しておくことが、次の章を読むうえでの土台になります。

田中 友梨
ここに並んでいる金額は、いずれも額面です。実際には介護保険料や国民健康保険料、所得税や住民税が差し引かれたうえで手元に届きます。前の章で見た非消費支出1万2990円が、まさにその部分にあたります。相談の場では、額面の話と手取りの話が混ざったまま老後の見通しを立ててしまい、あとから金額が合わないというお声を伺うことがあります。年金額の改定率が何%だったかという話題と、自分の口座にいくら入るかという話題は、別の階層の話として整理しておくと、必要な準備額の見積もりがぶれにくくなります。なお、保険料や税の計算方法は改正されることがありますので、最新の内容は日本年金機構やお住まいの自治体など公的機関の情報でご確認ください。

3. 働き方で変わる年金。5つのパターンで見る目安

働き方や生き方が多様化するなかで、自分はどのくらいの年金を受け取ることになるのだろうと気になっている方は多いのではないでしょうか。

厚生労働省は、年金額改定の発表とあわせて、多様なライフコースに応じた年金額の例も示しています。年金の加入経歴を5つのパターン(男性2パターン、女性3パターン)に分け、「2026年度に65歳になる人」を想定した年金額の概算が提示されています。

多様なライフコースに応じた年金額1/1

多様なライフコースに応じた年金額

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」

3.1 パターン①|男性・厚生年金期間が中心のケース

ひと月あたり17万6793円

  • 平均厚生年金期間:39.8年
  • 平均収入:50万9000円※賞与含む月額換算。以下同じ。
  • 基礎年金:6万9951円
  • 厚生年金:10万6842円

3.2 パターン②|男性・国民年金(第1号被保険者)期間が中心のケース

ひと月あたり6万3513円

  • 平均厚生年金期間:7.6年
  • 平均収入:36万4000円
  • 基礎年金:4万8896円
  • 厚生年金:1万4617円

3.3 パターン③|女性・厚生年金期間が中心のケース

ひと月あたり13万4640円

  • 平均厚生年金期間:33.4年
  • 平均収入:35万6000円
  • 基礎年金:7万1881円
  • 厚生年金:6万2759円

3.4 パターン④|女性・国民年金(第1号被保険者)期間が中心のケース

ひと月あたり6万1771円

  • 平均厚生年金期間:6.5年
  • 平均収入:25万1000円
  • 基礎年金:5万3119円
  • 厚生年金:8652円

3.5 パターン⑤|女性・国民年金(第3号被保険者)期間が中心のケース

ひと月あたり7万8249円

  • 平均厚生年金期間:6.7年
  • 平均収入:26万3000円
  • 基礎年金:6万9016円
  • 厚生年金:9234円

5つを並べると、厚生年金に加入していた期間が長く、その間の報酬が高かったケースほど、示されている年金月額が大きくなっている様子が読み取れます。最も大きいパターン①の17万6793円と、最も小さいパターン④の6万1771円では、ひと月あたり11万円を超える開きがあります。

現役時代に国民年金の期間が中心だったのか、厚生年金の期間が中心だったのかによって、示される水準が変わってくるわけです。これは、働いてきた期間や受け取っていた報酬の違いが、受け取る年金額に反映される仕組みになっているためだと説明されています。

もっとも、ここに並んでいるのは概算の例であり、どのパターンが望ましいという性質のものではありません。加入期間や報酬の記録は人それぞれで、示された5つのどれかにぴったり当てはまる方のほうが少ないでしょう。ご自身の見込み額は、ねんきん定期便やねんきんネットで確かめるのが確実です。なお、年金の受給要件や計算の詳細は改正されることがあるため、最新の内容は日本年金機構などの公的機関の情報でご確認ください。

受け取っている年金額の分布や、月15万円以上を受け取っている方がどのくらいの割合なのかについてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント

田中 友梨
5つのパターンをご覧になるとき、金額そのものより先に目を向けていただきたいのが、平均厚生年金期間の欄です。パターン①は39.8年、パターン④は6.5年と記されています。この欄の違いが、示されている金額の違いにつながっている、という読み方ができます。相談の場では、自分はどれに近いのかを探そうとして手が止まってしまう方が少なくありません。そのときは、5つのどれかを選ぶのではなく、ご自身の記録を確かめるほうへ切り替えていただくことが多いです。ねんきん定期便には、これまでの加入期間と標準報酬の記録が載っています。例と自分の記録は別のものですので、まず自分の欄を埋めてから例と見比べる、という順番のほうが、数字の受け止め方は落ち着きます。

4. 【独自試算】働いてきた経歴が違うと、ひと月の生活費との差はどこまで開くか

ここまでに、65歳以上の単身無職世帯のひと月の支出16万1435円と、ライフコース別の年金月額という2種類の数字が出てきました。この2つを並べると、年金額とひと月の暮らしにかかる費用のあいだに、どのくらいの距離があるのかを見ることができます。ここでは、その距離が経歴の違いによってどこまで動くのかを試算します。

4.1 計算にあたって置いた前提

  • 支出は、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」による65歳以上単身無職世帯の支出合計16万1435円を用いる
  • 年金額は、厚生労働省が示した多様なライフコースに応じた年金額例(2026年度に65歳になる人を想定した概算)の5パターンを用いる
  • ライフコース別の金額は単身世帯を前提として示されたものではなく、支出のデータとは調査も対象も異なる。両者を単純に並べた目安として読む
  • 税や社会保険料の控除、加給年金などの加算、就労による収入、私的年金は考慮しない
  • 金額はいずれも目安であり、実際の受給額や家計の姿を保証するものではない

4.2 5つのパターンを支出16万1435円と並べる

  • パターン①(男性・厚生年金期間が中心)17万6793円 → ひと月1万5358円のプラス
  • パターン③(女性・厚生年金期間が中心)13万4640円 → ひと月2万6795円の不足
  • パターン⑤(女性・第3号被保険者期間が中心)7万8249円 → ひと月8万3186円の不足
  • パターン②(男性・国民年金期間が中心)6万3513円 → ひと月9万7922円の不足
  • パターン④(女性・国民年金期間が中心)6万1771円 → ひと月9万9664円の不足

5つのうち、単身無職世帯の平均的な支出を年金額だけで賄える計算になるのはパターン①のみでした。それも余裕はひと月1万5358円ほどですので、賃貸の家賃が毎月かかる場合や、医療・介護の費用が加わる場合には、この余裕は残らない水準です。

4.3 年に置き直すと差はどう見えるか

  • パターン③:ひと月2万6795円の不足 → 1年で約32万1540円
  • パターン⑤:ひと月8万3186円の不足 → 1年で約99万8232円
  • パターン②:ひと月9万7922円の不足 → 1年で約117万5064円
  • パターン④:ひと月9万9664円の不足 → 1年で約119万5968円

年に置き直すと、パターン③とパターン④のあいだには約87万円の開きが生まれます。同じ「毎月足りない」という状態でも、その規模は経歴によってまったく違う、ということになります。

4.4 家計調査に表れているひと月2万9980円の差と比べる

前の章で見たとおり、65歳以上単身無職世帯の平均では、ひと月2万9980円が足りない計算でした。この金額を1とすると、それぞれのパターンの不足額は次のような倍率になります。

  • パターン③:約0.9倍
  • パターン⑤:約2.8倍
  • パターン②:約3.3倍
  • パターン④:約3.3倍

パターン③の13万4640円は、家計調査に表れている実収入13万1456円とほぼ同じ水準です。つまり、平均として示されている「ひと月2万9980円の不足」は、特別な状況を映したものではなく、この水準の年金額で暮らす場合に生じうる姿だと読むことができます。一方、国民年金の期間が中心だったパターン②・④では、その3倍を超える規模になります。

4.5 差の大部分はどこから生じているか

最も大きいパターン①と最も小さいパターン④では、年金月額に11万5022円の差があります。この差を、示されている内訳ごとに分けてみます。

  • 厚生年金の部分:10万6842円 - 8652円 = 9万8190円
  • 基礎年金の部分:6万9951円 - 5万3119円 = 1万6832円

11万5022円の差のうち、9万8190円、割合にして約85%が厚生年金の部分から生じている計算になります。示されている平均厚生年金期間はパターン①が39.8年、パターン④が6.5年、平均収入は50万9000円と25万1000円ですので、働いてきた期間の長さと、その間の報酬の水準の違いが、受け取る額に反映される仕組みになっていることが読み取れます。

ここで気をつけたいのは、この試算がどの経歴を選ぶべきかを示すものではない、という点です。働き方は、家族の事情や健康、その時々の雇用の状況など、さまざまな条件のなかで決まっていくものです。また、生活費の側も住まい方によって大きく動きますので、年金額が小さいパターンだから家計が立ち行かない、と一対一で決まるわけでもありません。ここで示したのは、あくまで公表された数字を並べたときに見える距離の違いです。

なお、年金の受給要件や年金額の計算方法は改正されることがあります。ご自身が受け取れる見込み額や、その計算の考え方については、最新の内容を日本年金機構などの公的機関の情報でご確認ください。

※総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」の65歳以上単身無職世帯の支出合計と、厚生労働省が示す多様なライフコースに応じた年金額例を単純に並べた目安です。ライフコース別の金額は2026年度に65歳になる人を想定した概算であり、単身世帯を前提としたものではありません。税・社会保険料の控除、加給年金などの加算、就労収入は考慮していません。年換算および倍率は端数処理の関係で数字が前後する場合があります。

村岸 理美
この試算で並んでいるのは、調査も対象も異なる2種類の数字です。支出の側は全国の対象世帯を平均した家計調査の結果であり、年金の側は2026年度に65歳になる方を想定して示された概算の例です。ですので、ここで出てきた不足額は、どなたかの家計を写し取ったものではなく、2つの公表値を並べたときに見える距離だという受け止め方ができます。差の約85%が厚生年金の部分から生じているという計算も、示された内訳を引き算しただけのものです。そのうえで、ご自身の位置を確かめる手立てとしては、いくつかの道があります。ねんきん定期便やねんきんネットで加入期間と標準報酬の記録を見る、家計の側では住居費と医療・介護の見込みを平均の数字と入れ替えてみる、といった方法です。どちらを先に確かめるかはご事情によって変わりますし、両方を一度にそろえる必要もありません。なお、年金額の計算方法や受給の要件、税・社会保険料の扱いは改正されることがありますので、最新の内容については日本年金機構やお住まいの自治体など、公的機関の情報にあたっていただくのが確かなところです。