「退職して国民健康保険に切り替えたら、保険料がこんなに高いとは思わなかった」——実際に切り替えた経験がある人なら、一度は感じたことがあるはずです。給与も変わっていないのに保険料だけ上がったように感じるのには、はっきりとした理由があります。
この記事では、国民健康保険料がどのように決まるのか、そして退職後に保険料が高く感じられる理由を、編集部で整理します。
1. 国民健康保険料は「前年の所得」をもとに計算される
まず、国民健康保険料がどのように計算されるのか、基本の仕組みを確認します。
1.1 所得割・均等割を中心に、医療分・支援金分・介護分を合算する
国民健康保険料は、医療給付費分・後期高齢者支援金分・介護納付金分(40〜64歳のみ)という3つの区分ごとに計算され、それぞれ「所得割額」(前年の所得に応じて計算)と「均等割額」(世帯の加入者数に応じて計算)を合算する仕組みになっています。自治体によっては、これに世帯単位で定額の「平等割額」が加わる場合もあります。
これに加えて、令和8年度からは新たに「子ども・子育て支援金分」という区分が加わり、4区分構成になりました。全世代・全世帯で子育て施策の財源を支え合う仕組みとして新設されたもので、他の区分と同じく所得割・均等割を合算して計算されます。
所得割は前年(1月〜12月)の所得をもとに計算されるため、退職した年の国保保険料は、在職中の給与水準をもとにした前年所得で決まります。退職して収入が減った直後でも、前年に会社員として得ていた所得に応じた保険料が請求されるという点は、見落とされやすいポイントです。
保険料率・均等割額は市区町村ごとに設定されており、同じ所得・世帯人数でも、住んでいる自治体によって保険料額は異なります。正確な保険料を知りたい場合は、自分が住んでいる市区町村の国民健康保険料の計算方法を確認する必要があります。
1.2 【国民健康保険料の構成要素】
前提:国民健康保険制度の一般的な仕組みに基づく編集部整理1/2
出所:東大阪市「国民健康保険料の決め方」、世田谷区「令和8年度より国民健康保険料に子ども・子育て支援金分が加算されます」などを基にLIMO編集部作成
- 医療給付費分:所得割+均等割(+平等割)
- 後期高齢者支援金分:所得割+均等割(+平等割)
- 介護納付金分(40〜64歳のみ):所得割+均等割(+平等割)
- 子ども・子育て支援金分(令和8年度〜):所得割+均等割(+平等割)
2. 退職後に国保へ切り替えると高く感じる、本当の理由
ここからが本題です。多くの人が「国保は高い」と感じる、構造的な理由を整理します。
2.1 会社員時代の「労使折半」がなくなり、全額自己負担になる
会社員が加入する健康保険(協会けんぽや健康保険組合)では、保険料を会社と本人が半分ずつ負担する「労使折半」という仕組みが採用されています。給与明細に表示される健康保険料は、実際にかかっている保険料の半分にすぎません。
一方、国民健康保険には労使折半という仕組みがなく、計算された保険料の全額を自分で負担します。会社員時代と同じ所得水準であっても、国保に切り替わった瞬間に、実質的な負担額は単純計算で2倍近くになる可能性があります。「給与が変わっていないのに保険料だけ上がった」と感じる正体は、この労使折半の有無という構造的な違いにあります。
3. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、退職直後の国保保険料が「前年所得×全額自己負担」という、在職中とは異なる2つの要因が重なって計算される点です。単に保険料率だけを比べて「国保は高い」と結論づけるのではなく、労使折半の有無と課税のタイミングという、2つの構造的な違いを分けて理解しておくことが大切です。
特に退職直後は、前年の所得(会社員時代の給与水準)で計算されるため、実際の収入が下がっている実感と保険料額が一致しないことがあります。翌年度以降は、退職後の実際の所得をもとに再計算されるため、初年度だけ特に高く感じやすいという点も押さえておくとよいでしょう。
4. 退職後2年間は、会社の健康保険に残れる「任意継続」という選択肢
国民健康保険への切り替え以外に、もう一つの選択肢も確認しておきます。
4.1 在職時の保険料が基本だが、上限額が設定されている
退職後も一定の条件を満たせば、それまで加入していた会社の健康保険に、最長2年間「任意継続被保険者」として残ることができます。任意継続の保険料は、原則として在職時の標準報酬月額をもとに計算されますが、労使折半がなくなるため、会社負担分も含めた金額を全額自己負担することになります。
ただし、任意継続被保険者の標準報酬月額には上限が設定されています。協会けんぽの場合、令和8年度の上限は32万円です。これは、前年(一部の期間は前々年)9月30日時点における全被保険者の標準報酬月額の平均額(令和7年9月30日時点で31万8100円)をもとに決められています。給与水準が高かった人ほど、この上限額によって保険料が頭打ちになる恩恵を受けやすくなります。
つまり、標準報酬月額が上限を超えていた人にとっては、任意継続の方が国民健康保険より保険料を抑えられる可能性があります。一方、標準報酬月額がもともと上限以下だった人は、労使折半がなくなる分だけ、在職時のおよそ2倍の保険料になる点に変わりはありません。どちらが有利かは、退職前の給与水準や家族の扶養状況によって変わるため、両方の見積もりを比較しておくことをおすすめします。
4.2 【国民健康保険と任意継続被保険者制度の比較】
前提:協会けんぽ「令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について」等に基づく編集部整理2/2
出所:全国健康保険協会「令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について」などを基にLIMO編集部作成
- 国民健康保険:前年所得に応じた所得割+均等割等。給与水準に比例しやすい
- 任意継続被保険者制度:在職時の標準報酬月額ベース(上限32万円・令和8年度)。最長2年間
5. 国民健康保険には「扶養」という考え方がない
会社の健康保険と国民健康保険を比較する際、もう一つ見落とされがちなのが「扶養」の扱いです。
5.1 家族の人数が多いほど、国保では均等割が積み上がる
会社の健康保険では、一定の要件を満たす配偶者や子どもを「扶養」に入れることで、扶養家族分の保険料が別途発生しない仕組みになっています。何人を扶養に入れても、本人の保険料だけで家族全員が保険給付を受けられるのが、会社の健康保険の特徴です。
一方、国民健康保険には扶養という考え方そのものが存在しません。世帯に加入者が何人いても、加入者一人ひとりに均等割額がかかる仕組みになっています。子どもが多い世帯や、配偶者を扶養していた世帯が国保に切り替わると、それまで発生していなかった扶養家族分の均等割が新たに加算されるため、世帯全体の保険料が大きく増える可能性があります。
この「扶養の有無」という違いは、単身世帯であれば影響が小さいものの、家族の人数が多い世帯ほど、国保への切り替えによる負担増を実感しやすいポイントです。退職を検討する際は、扶養家族の人数も含めて、国保と任意継続それぞれの保険料を見積もっておくことをおすすめします。専業主婦・主夫の配偶者や、就学中の子どもが複数いる世帯ほど、この違いによる影響が大きくなる傾向があります。
6. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、扶養家族が多い世帯ほど、任意継続被保険者制度を選ぶメリットが大きくなりやすい点です。任意継続では、会社員時代と同じように、要件を満たす家族を扶養に入れたまま保険給付を受けられます。国保に切り替えた場合との差額を試算する際は、本人の保険料だけでなく、扶養家族分の均等割がどれだけ増えるかもあわせて計算することが欠かせません。
ただし、任意継続は最長2年間という期限があるため、2年後には結局、国民健康保険への切り替えや、新しい勤務先の健康保険への加入を検討する必要があります。目先の保険料だけでなく、2年後の見通しも含めて選択することが大切です。再就職の見込み時期とあわせて、任意継続の期限をカレンダーに書き留めておくと、切り替え忘れを防ぎやすくなります。
7. 所得が下がった場合は、保険料の軽減制度も確認する
最後に、保険料負担を軽くする軽減制度についても触れておきます。
7.1 前年所得が一定基準以下なら、均等割等が自動的に軽減される
世帯の前年の所得が一定基準以下の場合、国民健康保険料の均等割(および平等割)が段階的に軽減される制度があります。この軽減は、原則として申請不要で、所得の申告(確定申告や住民税の申告)をしていれば、自治体側で自動的に判定・適用される仕組みです。
退職して収入が大きく減った場合は、翌年度以降の保険料がこの軽減制度の対象になる可能性があります。また、倒産や解雇など会社都合による離職の場合は、離職理由によって国民健康保険料が軽減される「非自発的失業者に対する軽減制度」が別途用意されています。該当する可能性がある場合は、自治体の窓口で軽減制度の対象になっているかを確認しておくことをおすすめします。
なお、住民税非課税世帯であれば、国民健康保険料以外にも高額療養費・介護・修学支援など複数の優遇措置を受けられる場合があります。退職後に所得が大きく下がった年は、あわせて確認しておく価値があります。
※本記事は、編集部が全国健康保険協会・自治体が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
8. まとめ
- 国民健康保険料は、前年の所得をもとにした所得割と、世帯人数に応じた均等割等を合算して計算されます。
- 会社員時代の労使折半がなくなり全額自己負担になることが、国保が高く感じられる主な理由です。
- 退職後2年間は、会社の健康保険に残る「任意継続被保険者制度」という選択肢もあります(標準報酬月額の上限は令和8年度で32万円)。
- 前年所得が一定基準以下の場合、均等割等が自動的に軽減される制度があります。
- 会社都合退職の場合は、別途「非自発的失業者に対する軽減制度」の対象になる可能性があります。
国民健康保険料が高く感じられる背景には、「前年所得ベースの計算」と「労使折半の解消」という、2つの構造的な要因があります。仕組みを理解しておくことで、単なる「高い・安い」の印象ではなく、自分にとって国保と任意継続のどちらが有利かを、具体的に比較検討できるようになります。
退職を控えている場合は、国民健康保険料の見積もりと、任意継続被保険者制度の保険料を、どちらも自治体・協会けんぽ等の窓口で確認し、比較しておくことをおすすめします。
退職後の家計を考えるうえでは、老後資金の正しい「内訳」と不足額のあぶり出しもあわせて確認しておくと、国保・任意継続の保険料負担を含めた、より現実的な資金計画につながります。
9. よくある質問
9.1 Q. 国民健康保険料はどうやって計算されますか。
A. 医療給付費分・後期高齢者支援金分・介護納付金分(40〜64歳のみ)に加え、令和8年度からは子ども・子育て支援金分も含めた4区分ごとに、前年の所得に応じた「所得割」と、世帯の加入者数に応じた「均等割」(自治体によっては「平等割」も)を合算して計算されます。
9.2 Q. なぜ退職すると国民健康保険料が高く感じるのですか。
A. 会社員時代は労使折半で保険料の半分を会社が負担していましたが、国民健康保険にはこの仕組みがなく、全額を自分で負担することになります。また、退職直後は前年(会社員時代)の所得をもとに保険料が計算される点も、負担感につながります。
9.3 Q. 任意継続被保険者制度とは何ですか。
A. 退職後も最長2年間、それまで加入していた会社の健康保険に残れる制度です。保険料は在職時の標準報酬月額をもとに計算されますが、労使折半がなくなるため全額自己負担になります。標準報酬月額には上限があり、協会けんぽの場合、令和8年度は32万円です。
9.4 Q. 国民健康保険料が軽減される場合はありますか。
A. 世帯の前年所得が一定基準以下の場合、均等割等が自動的に段階的に軽減されます。また、倒産・解雇など会社都合で退職した場合は、別途「非自発的失業者に対する軽減制度」の対象になる可能性があります。
9.5 Q. 国民健康保険と任意継続、どちらを選べばよいですか。
A. 一律に決まるものではありません。退職前の給与水準が高かった人は、標準報酬月額の上限がある任意継続の方が有利になる場合があります。逆に給与水準がもともと上限以下だった人は国民健康保険の方が有利なこともありますが、扶養家族が多い場合は国民健康保険だと人数分の保険料が加算されて高くなる傾向があるため、両方の見積もりを比較することをおすすめします。
9.6 Q. 保険料の軽減を受けるために申請は必要ですか。
A. 均等割等の軽減は、原則として申請不要で、所得の申告(確定申告や住民税の申告)をしていれば自動的に判定・適用されます。ただし、所得の申告自体がされていないと判定が行われないため、収入が少なかった年でも申告だけは済ませておくことが必要です。
9.7 Q. 家族を扶養に入れていた場合、国保ではどうなりますか。
A. 国民健康保険には扶養という考え方がなく、加入者一人ひとりに均等割がかかります。会社の健康保険で扶養に入れていた配偶者や子どもも、国保では別々に均等割の対象になるため、家族の人数が多い世帯ほど、切り替え後の保険料が増えやすくなります。
9.8 Q. 任意継続の途中でやめることはできますか。
A. 保険料の納付期限までに納付しなかった場合等、一定の条件で資格を喪失します。就職して新しい勤務先の健康保険に加入した場合も、その時点で任意継続の資格を喪失し、新しい健康保険に切り替わります。
9.9 Q. 国民健康保険料はいつ・どうやって納めますか。
A. 自治体から送付される納付書や口座振替で、年間の保険料を分割して納付するのが一般的です。回数や納付月は自治体によって異なるため、正確な納付スケジュールは住んでいる市区町村の案内で確認することをおすすめします。
9.10 Q. 退職後、国保への切り替え手続きはいつまでに必要ですか。
A. 会社の健康保険の資格を喪失した日から原則14日以内に、住んでいる市区町村の窓口で加入手続きを行う必要があります。手続きが遅れても、資格喪失日にさかのぼって保険料が発生するため、早めに手続きを済ませておくことをおすすめします。手続きに必要な書類は自治体によって異なるため、事前に窓口やウェブサイトで確認しておくとスムーズです。
参考資料
齊藤 慧
