住民税非課税世帯かどうかは「所得」で判定されます。ここまでは多くの解説記事が書いていることです。

ところが、その「所得」という言葉が曲者です。住民税の世界には似た名前の所得が3つあり、しかも均等割と所得割の判定では、そのうち別々のものが使われています。

この違いを知らないと、「所得割は非課税だったのに、非課税世帯には該当しなかった」という結果に戸惑うことになります。3つの所得の違いと、判定がねじれる場面を確認します。

なお、住民税非課税世帯の収入基準に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。

 【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド
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ココがポイント
  • 住民税の判定に使う所得には「合計所得金額」「総所得金額」「総所得金額等」の3種類があります。
  • 均等割の非課税判定は合計所得金額、所得割の非課税判定は総所得金額等と、使う所得が異なります。
  • 繰越損失がある場合、所得割は非課税でも均等割は課税となり、非課税世帯に該当しないことがあります。

1. 非課税判定に使う「所得」は、年収そのものではない

まず前提を押さえます。住民税が非課税になるかどうかは、年収の額面ではなく、そこから一定の控除を差し引いた後の金額で判定されます。

1.1 収入から控除を引いた後が「所得」になる

給与収入の場合は給与所得控除、公的年金の収入の場合は公的年金等控除を差し引いた後の金額が所得です。控除の種類も金額も収入の性質によって異なるため、同じ年収でも所得は変わります。

そのため「年収いくらまでなら非課税」という言い方は、あくまで特定の収入だけで暮らしている人向けの換算値にすぎません。複数の収入がある人ほど、この換算値から離れていきます。

1.2 単身なら所得45万円以下、給与収入なら110万円以下

扶養親族がいない単身世帯の場合、1級地の自治体では所得45万円以下が非課税の基準です。給与収入だけであれば、令和8年度は給与収入110万円以下が目安になります。

この給与収入換算は年度によって動きます。令和8年度税制改正により、令和9年度分・令和10年度分は給与所得控除の最低保障額が74万円に引き上げられる時限特例があるため、同じ所得45万円でも給与収入119万円以下に変わります。

齊藤 慧
同じ所得45万円でも、年度によって対応する年収が変わります。数字を覚えるより、仕組みを押さえるほうが確実です。令和8年度は110万円、令和9・10年度は119万円と、たった数年でも基準がずれるので、「去年の年収基準」をそのまま今年に当てはめないよう気をつけてください。

2. 住民税の「所得」には3つの種類がある

ここからが本題です。住民税の世界には、名前がよく似た所得の概念が3つ存在します。荒川区・富田林市などの自治体が、それぞれの違いを公式に整理しています。

2.1 合計所得金額・総所得金額・総所得金額等

合計所得金額は、配当・不動産・事業・給与・雑所得などの総合所得を合計した金額で、土地建物の譲渡所得といった分離所得も含みます。純損失や雑損失などの繰越控除を適用する前の金額です。

総所得金額は、総合所得に損益通算や繰越控除を適用した後の金額を指しますが、分離所得を含まないため実務ではあまり使われません。総所得金額等は、合計所得金額から繰越控除を適用した後の金額で、分離所得も含みます。

2.2 分かれ目は「繰越控除を引く前か、後か」

3つの違いを整理すると、判断の軸は2つだけです。1つは分離所得を含むかどうか、もう1つは繰越控除を適用する前か後かです。

実務で登場するのは合計所得金額と総所得金額等の2つで、この2つは分離所得を含む点では同じです。違うのは繰越控除の扱いだけで、合計所得金額は控除前、総所得金額等は控除後になります。

2.3 【住民税で使われる3つの所得概念】

住民税で使われる3つの所得概念1/2

【住民税で使われる3つの所得概念】

出所:LIMO編集部作成

実務で登場する2つ

  • 合計所得金額:分離所得を含む/繰越控除を適用する前の金額
  • 総所得金額等:分離所得を含む/繰越控除を適用した後の金額

あまり使われない1つ

  • 総所得金額:分離所得を含まない/繰越控除を適用した後の金額
齊藤 慧
「合計所得金額」「総所得金額等」「総所得金額」、名前が似ているだけに、書類の欄名を読み飛ばしてしまいがちです。違いは分離所得を含むかどうか、繰越控除を適用した後かどうかの2点だけなので、その掛け合わせで整理すれば混乱しにくくなります。

3. 均等割と所得割で、使う所得が違う

そしてここが、この記事で最も伝えたい部分です。住民税の非課税判定は均等割と所得割の2本立てですが、それぞれ別の所得概念を使っています。

3.1 均等割は合計所得金額、所得割は総所得金額等

自治体の公表資料によると、均等割の非課税限度額は「合計所得金額」を基準に判定し、所得割の非課税限度額は「総所得金額等」を基準に判定します。

つまり均等割は繰越控除を引く前の金額で、所得割は繰越控除を引いた後の金額で見るということです。同じ人の同じ年の所得でも、判定に使う数字が2つ存在することになります。

3.2 両方が非課税でないと「非課税世帯」にならない

いわゆる住民税非課税世帯とは、世帯全員について均等割・所得割のいずれも非課税である世帯を指します。どちらか一方だけが非課税でも該当しません。

この「両方」という条件と、「判定に使う所得が均等割と所得割で違う」という事実が組み合わさると、直感に反する結果が生まれます。次の章で具体的に確認します。

4. 【編集者の視点】

制度の複雑化が生活者に不利益をもたらす典型が、この所得概念の使い分けです。名称が似ているうえ、どちらも「所得」で終わるため、書類上で並んでいても違いに気づきにくい構造になっています。

厄介なのは、この違いが問題になる人が限られている点です。繰越控除を使っていない大多数の人にとっては、合計所得金額と総所得金額等は同じ金額になります。だからこそ一般的な解説では省略され、当てはまる人だけが説明のない場所に取り残されます。

実務上の防衛策は、確定申告で純損失や雑損失の繰越控除を使った年について、住民税の判定がどうなるかを申告後に自治体の窓口で確認しておくことです。確定申告書の控えを持参し、「均等割と所得割それぞれの判定に使われた所得はいくらか」と具体的に尋ねると、話が早く進みます。

5. 繰越損失がある人に起きる、判定のねじれ

繰越控除がある場合に何が起きるのか、単身世帯を例に編集部で試算しました。前提は1級地、非課税限度額は所得45万円です。

5.1 所得割は非課税でも、均等割は課税になり得る

前年から繰り越した損失が10万円あり、その年の所得が繰越控除前で50万円だったとします。この場合、均等割の判定に使う合計所得金額は繰越控除前の50万円です。45万円を超えるため、均等割は課税になります。

一方、所得割の判定に使う総所得金額等は、繰越控除を適用した後の40万円です。45万円以下なので所得割は非課税になります。所得割は非課税、均等割は課税という、ねじれた状態です。

5.2 株式や不動産の売却損を繰り越している場合に起こりやすい

このねじれが起きるのは、繰越控除を使っている人です。上場株式等の譲渡損失や、事業の純損失を翌年以降に繰り越している場合が代表例になります。

本人の感覚としては「損失を差し引いたら基準以下なのだから非課税のはず」となりますが、均等割の判定はその損失を引く前の金額で行われます。結果として、住民税非課税世帯には該当しないことになります。

逆に言えば、繰越控除を使っていない人にとっては、合計所得金額と総所得金額等は同じ金額になります。多くの人にとって2つの違いが表に出てこないのは、このためです。

ただし、確定申告で損失を繰り越した年から数年間は、この状態が続く可能性があります。損失を使い切るまでの各年で、同じねじれが繰り返されることになるため、繰越の残高もあわせて把握しておく必要があります。

5.3 【繰越損失10万円がある単身世帯の判定(編集部試算)】

繰越損失10万円がある単身世帯の判定2/2

【繰越損失10万円がある単身世帯の判定(編集部試算)】

出所:LIMO編集部作成

それぞれの判定結果

  • 均等割:合計所得金額(繰越控除前)50万円で課税
  • 所得割:総所得金額等(繰越控除後)40万円で非課税

世帯としての結論

  • 住民税非課税世帯の該当:両方が非課税である必要があるため該当しない
齊藤 慧
損失を引いたら基準以下になるはず、そう考えるのが自然なだけに、この結果は納得しにくいところです。均等割の判定には繰越控除前の合計所得金額が使われるため、赤字を抱えていても住民税非課税世帯には該当しない、というねじれが実際に起こり得ます。

6. どの所得概念が、どの制度で使われるか

この使い分けは住民税の非課税判定だけの話ではありません。他の制度でも、どちらの所得を使うかが決まっています。

6.1 合計所得金額を使う制度

富田林市の整理によると、合計所得金額を使うのは、均等割の非課税限度額のほか、障害者・未成年者・寡婦・ひとり親の非課税限度額(135万円)、扶養控除や配偶者特別控除の判定、寡婦・ひとり親控除の所得要件(500万円以下)です。

扶養に入れるかどうかの判定に使われる点は、家族の働き方を考えるうえで重要です。繰越控除があっても、扶養の判定では控除前の金額で見られることになります。

6.2 総所得金額等を使う制度

総所得金額等を使うのは、所得割の非課税限度額のほか、雑損控除・医療費控除・寄附金控除の判定です。これらの控除は、所得の一定割合を超えた分が対象になる仕組みを含むため、繰越控除後の金額が基準になります。

同じ確定申告書のなかで、扶養の判定には繰越控除前の金額、医療費控除の計算には繰越控除後の金額と、使い分けが同時に発生することもあります。

医療費控除は、支払った医療費が10万円か、総所得金額等の5%のいずれか低い方を超えた分が対象になる仕組みです。総所得金額等が少ない人ほど、この5%の基準が下がって控除を受けやすくなります。

この点だけを見れば、繰越控除で総所得金額等が下がることは控除の面で有利に働きます。ところが同じ年の均等割の判定では、その繰越控除が反映されません。有利に働く場面と働かない場面が、同じ年のなかに混在することになります。

7. 【編集者の視点】

この一覧を見て気づくのは、「誰かを対象に含めるかどうか」を決める場面では合計所得金額が、「控除をいくら認めるか」を計算する場面では総所得金額等が使われる傾向があるという点です。

前者は扶養や非課税といった資格の判定で、繰越損失という過去の事情で資格が広がりすぎないよう、控除前の金額で線を引いていると読めます。後者は実際の負担能力に応じた控除額の計算なので、控除後の金額を使うほうが実態に合います。

とはいえ、この読み方は制度の趣旨を推し量ったものにすぎません。実際の判定は自治体が条例と地方税法に沿って行うため、自分のケースがどちらに当たるかは、確定申告書の控えを持って市区町村の税務担当窓口で確認するのが確実です。特に繰越控除を使った年は、判定結果を必ず自分で確かめてください。

8. 自分の所得を確認する手順

最後に、判定に使われた所得を自分で確認する方法を整理します。

8.1 課税・非課税証明書で結果を確認できる

市区町村が発行する課税・非課税証明書には、その年度の課税状況が記載されています。均等割と所得割それぞれについて課税か非課税かが分かるため、判定の結果を確認する起点になります。

給付金や支援制度の申請では、この証明書の提出を求められる場面が多くあります。世帯の状況を把握したい場合は、世帯全員分を取得しておくと判断しやすくなります。

8.2 繰越控除を使った年は窓口で確認する

繰越控除を使った年は、証明書の記載だけでは「なぜその判定になったのか」までは分かりません。均等割と所得割で違う所得が使われている以上、内訳の確認が必要になります。

確定申告書の控えを持参し、判定に使われた合計所得金額と総所得金額等をそれぞれ確認してください。翌年以降も繰越控除が続く場合は、同じねじれが繰り返される可能性があるため、見通しもあわせて聞いておくと安心です。

齊藤 慧
証明書の結果だけを見て終わらせず、内訳まで踏み込む。繰越控除がある年は、その一手間が効いてきます。判定に使われた2つの所得金額を確定申告書の控えで照らし合わせるだけで、なぜその結果になったのかが見えてきます。

※本記事は、編集部が総務省および荒川区・富田林市が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。

9. まとめ

  • 住民税の判定に使う所得には「合計所得金額」「総所得金額」「総所得金額等」の3種類があります。
  • 実務で使われるのは合計所得金額と総所得金額等で、違いは繰越控除を適用する前か後かです。
  • 均等割の非課税判定は合計所得金額、所得割の非課税判定は総所得金額等を使います。
  • 繰越損失がある場合、所得割は非課税でも均等割は課税となり、非課税世帯に該当しないことがあります。
  • 扶養控除や135万円基準は合計所得金額、医療費控除や寄附金控除は総所得金額等で判定されます。

「住民税非課税世帯は所得で決まる」という説明は正しいものの、その所得が1種類だと思って読むと、実際の判定と食い違うことがあります。特に均等割と所得割で使う所得が違うという点は、制度の設計を知らなければ気づけません。

繰越控除を使っている、あるいはこれから使う予定がある場合は、確定申告書の控えを持って市区町村の税務担当窓口で判定内容を確認することをおすすめします。

10. よくある質問

10.1 Q. 住民税非課税世帯の判定に使う「所得」は1種類ではないのですか。

A. 1種類ではありません。均等割の非課税判定には「合計所得金額」、所得割の非課税判定には「総所得金額等」が使われます。繰越控除を使っていなければ両者は同じ金額になりますが、使っている場合は金額が異なります。

10.2 Q. 合計所得金額と総所得金額等は何が違うのですか。

A. どちらも分離所得を含む点は同じで、違いは純損失・雑損失などの繰越控除を適用する前か後かです。合計所得金額は繰越控除を適用する前、総所得金額等は適用した後の金額になります。

10.3 Q. 繰越損失があると、非課税世帯になりにくいのですか。

A. 場合によっては該当しにくくなります。所得割は繰越控除後の金額で判定されるため非課税になり得ますが、均等割は繰越控除前の金額で判定されるため課税になることがあります。住民税非課税世帯は両方が非課税である必要があるため、この場合は該当しません。

10.4 Q. 扶養に入れるかどうかの判定は、どちらの所得で見ますか。

A. 扶養控除や配偶者特別控除の判定は合計所得金額で行われます。繰越控除を使っていても、判定はその控除を適用する前の金額で見られる点に注意が必要です。

参考資料

LIMO編集部家計解説班