4. ペットの生涯飼育費用はどれくらい?
信託財産をいくら用意すればよいかを考えるには、まずペットの生涯にかかる費用の目安を知っておく必要があります。一般社団法人ペットフード協会の「2025年(令和7年)全国犬猫飼育実態調査」によると、1カ月あたりの支出総額の平均は、犬が1万6198円、猫が1万1004円でした。また、同協会の「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」による平均寿命は、犬が14.90歳、猫が15.92歳です。
犬・猫の生涯飼育費用は300万円前後が目安2/3
出所:一般社団法人ペットフード協会「2025年(令和7年)全国犬猫飼育実態調査」「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」をもとにLIMO編集部試算
この月額支出に平均寿命をかけて単純計算すると、生涯飼育費用の目安は犬で約290万円、猫で約210万円になります。もちろん、これは平均的な数字であり、持病の有無や犬種・猫種、住んでいる地域によって実際の金額は変わってきます。特に、高齢になってからの医療費は個体差が大きく、想定より膨らむ可能性がある点には注意が必要です。ペット信託で準備しておく金額を考える際は、この生涯費用のうち「ペットの現在の年齢からの残り年数分」を目安にするのが基本的な考え方になります。
5. ペット信託にかかる費用の相場
ペット信託を組成する場合、大きく分けて「信託契約に関する費用」「ペットの飼育費用」「世話をしてくれる人への謝礼」の3つの費用がかかります。家族信託サービスを提供するファミトラの解説によると、信託契約に関する費用の相場は次のとおりです。
弁護士や司法書士など専門家に信託の設計を依頼する場合の報酬は50万円〜100万円程度、信託契約書の作成費用は15万円〜30万円程度が目安とされています。加えて、弁護士や司法書士などの専門家を信託監督人に指定した場合は、月1万円〜2万円程度の費用が継続的に発生します。これに、ペットの飼育費用として信託財産に組み込む金額が別途必要になる、という構成です。
ここで注意したいのは、ペットの飼育費用は「毎月少しずつ渡す」のではなく、信託設定の時点で必要な金額をまとめて信託財産として渡しておく必要があるという点です。受託者は、その信託財産の中からペットの飼育費用を都度支出していく仕組みになるためです。
6. 【試算】年金からどれくらい準備しておけばいい?
それでは、実際にどれくらいの資金を準備しておけばよいのか、70歳で5歳の小型犬を飼っているケースを例に試算してみます。小型犬の平均寿命を14.9歳とすると、残りの飼育期間は約9.9年です。ファミトラの解説にある年間飼育費用の目安(小型犬で20万円〜25万円程度)をもとに計算すると、残りの生涯で必要な飼育費用は198万円〜247万5000円程度になります。これに、信託契約に関する専門家報酬や契約書作成費用(合計65万円〜130万円程度)を加えると、信託財産として準備しておきたい金額の目安は、263万円〜378万円程度という試算になります。なお、この金額には信託監督人への報酬は含んでいません。信託監督人を専門家に依頼する場合は月1万円〜2万円程度の費用が継続的にかかるため、残り9.9年分で見積もると別途119万円〜238万円程度が上乗せされる点には注意が必要です。
小型犬(5歳)を例にした信託財産の目安と月々の積立額3/3
出所:ファミトラ「ペットのための家族信託|ペット信託の料金やメリット・デメリット」、一般社団法人ペットフード協会のデータをもとにLIMO編集部試算
この263万円〜378万円という金額を、年金収入の中から少しずつ準備していく場合、準備にかける期間によって毎月の積立額は大きく変わります。仮に5年間で準備しようとすると、月々4万4000円〜6万3000円程度になります。一方、10年かけて準備する場合は、月2万2000円〜3万1000円程度と、期間を長く取るほど月々の負担は小さくなります。ペットがまだ若いうちから早めに準備を始めるほど、無理のない金額で備えられるということが、この試算からも見て取れます。
参考までに、厚生労働省年金局「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均受給月額は15万289円、国民年金は5万9310円です。月2万2000円〜3万1000円という積立額は、国民年金だけで生活している方にとっては受給額のおよそ4割〜5割にあたる計算になり、決して軽い負担ではありません。だからこそ、年金収入だけに頼るのではなく、貯蓄や退職金なども合わせてどう準備していくか、早めに家計全体で考えておくことが大切です。
「月々数万円をペットのために積み立てる」
年金収入だけで生活している方にとっては決して小さな金額ではありません。無理に信託財産全額を一度に準備しようとせず、まずは今のペットの年齢と平均寿命から「あと何年くらい飼育費用がかかりそうか」を大まかに把握し、そこから逆算して準備期間を決めるとよいと思います。
また、この試算はあくまで一般的な費用相場をもとにしたものです。実際に依頼する専門家によって報酬は異なりますし、ペットの持病や年齢によって必要な飼育費用も変わってきます。信託を検討する際は、複数の専門家やサービスに見積もりを取り、ご自身とペットの状況に合った金額感をつかむことをおすすめします。
7. まとめ
ペットは家族同然の存在であり、法律上のルールだけで割り切れるものではありません。それでも、財産を直接残すことができないという現実がある以上、「負担付遺贈」「負担付死因贈与契約」「ペット信託」、あるいは信託銀行が提供する遺言サービスといった方法を知っておけば、自分が先に亡くなった後もペットの世話を託す備えができます。中でもペット信託は、信託監督人によるチェック機能があるなど、確実性を重視したい方に向いた仕組みです。犬・猫の生涯飼育費用は300万円前後が目安になり、信託契約に関する費用も別途かかるため、必要な資金は決して小さくありません。ペットがまだ元気なうちから、年金収入や貯蓄の中でどれくらい準備できそうか、早めに考え始めておくことをおすすめします。
参考資料
- 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」
- ファミトラ「ペットのための家族信託|ペット信託の料金やメリット・デメリット」
- 三井住友信託銀行株式会社「自分にもしもの時・・・ペット飼育費などを遺したい。ペットのための「遺言サービス」提供開始」
- 厚生労働省年金局「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
和田 直子
