「もし自分が先に亡くなったら、この子(愛犬・愛猫)はどうなるのだろう」。年金生活を送りながら、家族の一員としてペットと暮らす方の中には、そう考えたことがある方も多いのではないでしょうか。

子どもや配偶者に頼れる場合はまだしも、単身高齢者やご夫婦だけで暮らしている場合、大切なペットのその後を誰にどう託すかは、決して小さな問題ではありません。

この記事では、遺言による「負担付遺贈」との違いを整理しながら、「ペット信託」という仕組みの相場と、年金収入の中からどれくらい準備しておくとよいのかを、具体的な試算とともに見ていきます。

ココがポイント
  • 犬・猫の生涯飼育費用は、犬で約290万円、猫で約210万円が目安
  • 「ペット信託」は遺言による「負担付遺贈」と異なり、信託監督人を置くなど飼育状況をチェックできる仕組みがある
  • 小型犬(5歳)を例にすると、信託財産として263万〜378万円程度が目安になり、10年で準備する場合は月2万〜3万円程度の積立が一つの目安

1. 「自分が先に亡くなったら」に備える3つの方法

ペットは、家族にとってかけがえのない存在です。それでも現在の法律上は「物(動産)」として扱われるため、そのままでは相続人にすることも、遺言で直接財産を受け取らせることもできません。だからこそ、家族同然に暮らしてきたペットの「その後」を、自分が先に亡くなった後も安心して託せるようにしておきたいと考えるのは、ごく自然なことです。飼い主に万が一のことがあった場合にペットの世話を引き継いでもらうための方法として、主に次の3つが挙げられます。

1.1 遺言で条件を付ける「負担付遺贈」

1つ目は「負担付遺贈」です。遺言によって、ペットの飼育を条件に財産を特定の人に遺す方法で、遺言書一本で完結する手軽さがあります。

1.2 生前に契約を結んでおく「負担付死因贈与契約」

2つ目は「負担付死因贈与契約」で、飼い主の死亡を条件とした贈与契約をあらかじめ結んでおく方法です。

1.3 資金管理と監督の仕組みを作る「ペット信託(民事信託)」

3つ目が「ペット信託(民事信託)」で、信託の仕組みを使ってペットの飼育資金を管理・給付してもらう方法です。

それぞれ特徴が異なるため、次の章で「負担付遺贈」と「ペット信託」の違いを詳しく見ていきます。

2. 「負担付遺贈」と「ペット信託」、何が違う?

負担付遺贈は、遺言書に「ペットの世話をすることを条件に、財産を渡す」と記載するだけで済むため、手続きの手軽さが大きなメリットです。一方で、財産を受け取る人(受遺者)は、その遺贈を放棄することができます。また、いったん財産を受け取った後、実際にペットの世話を続けているかどうかを確認する仕組みが用意されていないため、口約束に近い部分が残ってしまうという弱点があります。

これに対してペット信託は、信頼できる人(受託者)に財産を託し、その財産をペットの飼育費用として計画的に給付してもらう仕組みです。信託契約で目的を「ペットの飼育」に限定しておけば、託した財産は他の目的には使えなくなります。さらに、「信託監督人」を設定することで、実際にペットが契約どおりに飼育されているかを第三者にチェックしてもらうことも可能です。負担付遺贈が「渡したらそれっきり」になりやすいのに対し、ペット信託は生前から発動でき、飼育状況を継続的に見守れる点が大きな違いといえます。

和田 直子

「遺言書に一言書いておけば安心」と思われがちですが、負担付遺贈は財産を受け取った人がその後どう振る舞うかを縛る力が弱いという点は、意外と見落とされがちです。大切な家族の「その後」を託すからこそ、特にペットの世話を頼みたい相手が親族ではなく、知人や施設などの場合は、口約束だけに頼らず、信託のように資金使途と監督の仕組みをセットにしておく方が、飼い主自身も安心できるのではないでしょうか。

もちろん、家族間で信頼関係がしっかり築けていて、費用もそれほどかからない場合は、負担付遺贈や負担付死因贈与契約で十分というケースもあります。大切なのは、費用や手間だけで選ぶのではなく、「本当に最後まで面倒を見てもらえるか」という視点で仕組みを選ぶことです。

3. 信託銀行が扱う「ペット向けの遺言サービス」という選択肢

個人間で契約を結ぶペット信託のほかに、信託銀行が提供するペット向けの遺言サービスを利用するという方法もあります。

三井住友信託銀行が提供する「遺言信託(ペット安心特約付)」はその一例で、犬・猫を対象に、飼い主が元気なうちに遺言書の作成・保管・執行までを任せられるサービスです。ペットの世話をしてくれる人へ引き渡す手続き(死後事務委任契約)をあらかじめ結んでおけるほか、ペットの年齢や性格、持病、好みのフードなどを記す「ペット手帳」も預けておける点が特徴です。

同社の公表資料によると、料金体系は基本手数料を抑えたプラン(基本手数料等44万円、遺言保管料は毎年6600円、遺言執行時の執行報酬は最低110万円)と、支払い総額を抑えたプラン(基本手数料等99万円、遺言保管料は無料、執行報酬は最低33万円)の2種類が用意されています。ペットが2頭目以降の場合は1頭ごとに5万5000円が加算されます。個人で信託契約を組成する場合と比べると、専門家探しの手間をかけずに済む分、まとまった費用がかかる仕組みといえるでしょう。こうした金融機関のサービスも選択肢の一つに入れながら、ご自身に合った方法を比較検討してみるとよいと思います。