2026年度の年金額は4月分から改定され、6月の支払い分から新しい金額が反映されています。改定後の振込を何度か受け取り、通知に記された金額と実際の入金額を見比べた方も多い時期です。
手元の数字を確かめたあとに出てくるのが、「老後までにいくら用意しておけばよいのか」という問いです。そして、いったん目標額を決めて積立を始めた方からは、「この金額を途中で変えてもよいものか」という迷いをよく聞きます。生活も収入も年単位で動くのに、目標だけを最初のまま持ち続けるのは、実はかなり難しいことです。
この記事では、厚生労働省の資料をもとにライフコース別・受給額階級別の年金一覧を確認し、老後の収入の土台がどこにあるかを整理します。そのうえで、途中で毎月の金額や目標額を見直した場合に到達額がどう動くかを独自に試算します。
なお、公的年金の仕組み、2026年度の年金額改定、ライフコース別・受給額階級別の年金一覧に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 年金一覧表の読み方|国民年金と厚生年金という2つの層で金額が組み立てられる
年金の一覧表を眺めると、同じ年齢でも受け取る金額に相当な幅があることに気づきます。この幅は、公的年金が性質の異なる2つの制度を重ねた形になっていることから生まれます。制度の全体像については、【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説に整理があります。要点を引用します。
公的年金制度は、しばしば「2階建て構造」に例えられます。これは、日本の年金制度が「1階」の国民年金(基礎年金)と、「2階」の厚生年金という2つの制度で構成されているためです。
1階部分の国民年金は、原則として日本国内に居住する20歳以上60歳未満のすべての人が加入対象で、保険料は所得にかかわらず一律(2026年度は月額1万7920円)。保険料を40年間(480カ月)すべて納付すると、満額(2026年度は月額7万608円)を受け取ることができます。
2階部分の厚生年金は、会社員や公務員のほか、パートタイマーなどで特定適用事業所に勤務し一定の要件を満たす人が国民年金に上乗せして加入します。保険料は収入に応じて変動し、受給額は加入していた期間や納付した保険料額によって個人差が生じます。
言い換えると、1階の金額を左右するのは「納めた月数」だけで、到達できる上限は全員に共通です。2階の金額は「加入していた期間」と「そのときの収入」の掛け算で積み上がるため、人によって差が開きます。一覧表に並ぶ金額の広がりは、その大半が2階部分の違いによるものと見てよいでしょう。
ここで押さえておきたいのは、老後の目標額は、この土台の高さを確かめてからでないと決めようがないという点です。土台が高い人と低い人では、同じ生活費を想定しても埋めるべき差額がまったく違ってきます。
2. 一覧表の数字がいつの時点のものか|2026年度改定を反映した金額を確認する
年金額は毎年度、物価や賃金の動きに応じて見直されます。一覧表の数字を読むときは、どの年度の改定を反映したものかを先に確かめておく必要があります。2026年度の改定内容を、【2026年最新】60歳~89歳の年金一覧表!年代別の平均受給額と「手取り・非課税世帯」のリアル!年金口座の「凍結リスク」とは?から引用します。
2026年度の年金額は、国民年金が前年度比1.9%増、厚生年金(報酬比例部分)が同2.0%増の増額改定となりました。国民年金(満額・1人分)は月額7万608円、厚生年金(モデル夫婦世帯・2人分)は月額23万7279円です。
ただし「ねんきん定期便」などに記載された金額は税金や社会保険料が引かれる前の「額面」であるため、実際の手取り額はこれより少なくなります。
増額改定と聞くと安心材料に思えますが、金額が増えたことと、同じ量の買い物ができることは別の話です。改定率は物価や賃金の動きに連動して決まるもので、生活のゆとりが増える方向の増額とは限りません。
もう1つ、額面と手取りの違いもあります。年金からは介護保険料や国民健康保険料などが差し引かれるため、一覧表の金額がそのまま生活費に回るわけではありません。目標額を置くときは、この差を織り込んでおくと数字が現実に近づきます。
そして、年金額が毎年度見直されるということは、老後の収入の見込みも毎年度動くということです。目標額のほうも同じ頻度で確かめ直してよい、という考え方が成り立ちます。
3. 5つのライフコース別に見る年金月額|土台の高さが違えば目標額も変わる
厚生労働省は、2026年度の年金額改定にあわせ、現役時代の加入状況や年収に応じた年金額の例を「多様なライフコースに応じた年金額」として公表しています。2026年度に65歳になる人について、公的年金の加入履歴の類型と男女別に、5つのパターンの概算が示されました。
自分がどのパターンに近いかを見ておくと、老後の収入の土台がどのあたりかがつかめます。年収別の厚生年金受給額の目安とあわせて確認していきましょう。
3.1 類型1:男性・厚生年金の期間が中心
ひと月あたり:17万6793円
- 平均厚生年金期間:39.8年
- 平均収入:50万9000円※賞与含む月額換算。以下同じ。
- 基礎年金:6万9951円
- 厚生年金:10万6842円
3.2 類型2:男性・国民年金(第1号被保険者)の期間が中心
ひと月あたり:6万3513円
- 平均厚生年金期間:7.6年
- 平均収入:36万4000円
- 基礎年金:4万8896円
- 厚生年金:1万4617円
3.3 類型3:女性・厚生年金の期間が中心
ひと月あたり:13万4640円
- 平均厚生年金期間:33.4年
- 平均収入:35万6000円
- 基礎年金:7万1881円
- 厚生年金:6万2759円
3.4 類型4:女性・国民年金(第1号被保険者)の期間が中心
ひと月あたり:6万1771円
- 平均厚生年金期間:6.5年
- 平均収入:25万1000円
- 基礎年金:5万3119円
- 厚生年金:8652円
3.5 類型5:女性・国民年金(第3号被保険者)の期間が中心
ひと月あたり:7万8249円
- 平均厚生年金期間:6.7年
- 平均収入:26万3000円
- 基礎年金:6万9016円
- 厚生年金:9234円
5つを横に並べると、最も低い類型4の6万1771円と、最も高い類型1の17万6793円との間には11万円を超える開きがあります。厚生年金の加入期間が長く、収入が高いほど金額が大きくなる傾向が読み取れます。
もう1つ目を引くのは、国民年金と厚生年金のどちらを中心に加入してきたかが、水準を大きく左右している点です。厚生年金の期間が7年前後にとどまる類型2・4・5は、いずれも6万円台から7万円台に収まっています。
この差は、そのまま目標額の差になります。土台が月17万円台の人と月6万円台の人が、同じ生活費を想定して同じ目標額を置いたら、どちらかの数字が実態と合わなくなります。
4. 厚生年金と国民年金の受給額分布|平均の前後にどれだけの人が並んでいるか
ライフコース別の例は、これから65歳を迎える人についての概算でした。ここからは、すでに年金を受け取っている60歳から90歳以上までの受給権者について、実際の金額がどう散らばっているかを見ていきます。
4.1 厚生年金|平均は15万円台、男女で開きがある
厚生年金の平均年金月額は、全体で15万289円でした。男女別に分けると次のようになります。
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※上記の金額は1階部分の老齢基礎年金を含んだ数字です
金額帯ごとの受給者数(厚生年金)
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
全体では15万円台ですが、男性は16万円台、女性は10万円台と、男女の間には5万円台後半の開きがあります。現役時代の働き方や収入の違いが、そのまま受給額に表れた形です。
金額帯ごとの人数を上から下まで追うと、月額1万円未満の層から30万円以上の層まで、実に広い範囲に人が分布していることがわかります。「平均15万289円」という数字は、この広がりの中心付近を示しているにすぎません。目標額を平均値だけを頼りに置くと、実際の見込み額とずれる可能性があるということです。
4.2 国民年金|男女差は小さく、6万円台に人数が集まる
国民年金の平均年金月額は、全体で5万9310円でした。男女別の内訳は次のとおりです。
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
金額帯ごとの受給者数(国民年金)
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
国民年金は男女とも5万円台で、厚生年金ほどの男女差はありません。人数が最も集まっているのは「6万円以上~7万円未満」の階級で、満額に近い水準の人が多数を占めています。
他方で、月額1万円未満にとどまる人も一定数います。1階部分は納めた月数だけで金額が決まるため、未納や免除の期間があれば、その分が満額から差し引かれるからです。
想定する利回りの置き方によって積立の結果がどう変わるかについてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【月3万円×20年】預金と新NISAの資産差はいくら?「利回り5%の積立投資 VS 金利0.3%の銀行預金」シミュレーションで徹底比較
5. 【独自試算】途中で積立投資の金額を見直すと、25年後の到達額はどこまで動くか
ここまでの一覧表は、老後の収入の土台を示すものでした。土台に上乗せする分を自分で用意する場合、最初に決めた毎月の金額を途中で変えると、到達額はどのくらい動くのでしょうか。前提を置いて試算してみます。
前提は次のとおりです。
- 想定利回り:年3%(税金・手数料・インフレの影響は考慮しない)
- 積立期間:25年(300カ月)
- 当初の毎月の積立額:3万円
- 見直しのタイミング:積立開始から10年目、または15年目
- 計算方法:毎月末に一定額を積み立て、月利で複利運用したものとして計算
なお、月利は年利を12で割るのではなく、年利から12乗根を用いて求めています(月利=(1+年利)の12分の1乗-1)。年3%の場合、月利は約0.2466%です。
5.1 当初の金額のまま25年続けた場合
- 毎月3万円を25年:積立元本900万円 → 約1330万円(増えた分は約430万円)
これが比較の基準になります。以下は、この計画を途中で変えた場合です。
5.2 10年目に毎月の金額を変えた場合
- 毎月3万円 → 10年目から毎月2万円に減らす:積立元本720万円 → 約1104万円
- 毎月3万円 → 10年目から毎月4万円に増やす:積立元本1080万円 → 約1557万円
当初のまま続けた約1330万円と比べると、減らした場合は約226万円少なく、増やした場合は約226万円多いという結果です。減らす方向と増やす方向で差額がそろうのは、どちらも「毎月1万円を15年分」という同じ大きさの調整だからです。
注目したいのは、毎月の金額を3分の2に減らしても、到達額は約83%にとどまっている点です。すでに10年分を積み上げたあとであれば、その部分は運用を続ける前提なので、途中の減額がそのままの比率で結果に効くわけではありません。
5.3 見直しの時期を15年目にずらした場合
- 毎月3万円 → 15年目から毎月2万円に減らす:積立元本780万円 → 約1191万円
- 毎月3万円 → 15年目から毎月4万円に増やす:積立元本1020万円 → 約1470万円
減額を5年遅らせると到達額は約87万円多くなり、増額を5年遅らせると約87万円少なくなります。見直しの時期を5年動かした影響は、この試算ではおよそ87万円分ということになります。
増額を検討している場合は、早い時期に踏み切るほど結果に反映されやすいという見方ができます。逆に減額の場合、遅らせれば結果は良くなりますが、無理を重ねて途中で完全に止めてしまえば元も子もありません。続けられる金額に下げることは、計画を守るための調整でもあります。
5.4 目標額そのものを修正した場合の毎月の金額
毎月の金額ではなく、目標額のほうを置き直す場合も考えてみます。同じ前提で、25年かけて目標額に届かせるために必要な毎月の金額は次のとおりです。
- 目標1200万円:毎月約2万7000円
- 目標1000万円:毎月約2万2500円
- 目標900万円:毎月約2万300円
次に、すでに毎月3万円で10年続けてきた人が、残り15年で目標に届かせる場合です。10年目時点の残高を約418万円として計算すると、必要な毎月の金額はこうなります。
- 目標1200万円:毎月約2万4200円
- 目標1000万円:毎月約1万5400円
- 目標900万円:毎月約1万1000円
目標額を1200万円から900万円に置き直すと、残り15年で必要な毎月の金額は約2万4200円から約1万1000円へと下がります。目標額の修正は、毎月の負担に直結する調整だということです。
ここまでの数字を並べると、「毎月いくら積み立てるか」「何年続けるか」「いくらを目指すか」の3つが互いに結び付いていることが見えてきます。1つを動かせば残りの2つも動くので、どれか1つだけを固定したまま持ち続けなければならない理由はありません。
※上記は想定利回りが期間中一定であると仮定した目安の試算です。実際の運用成果は市場環境によって変動し、想定を下回ることも、積立元本を割り込むこと(元本割れ)もあります。将来の運用成果を保証するものではありません。税金・手数料・インフレの影響は考慮していません。
6. 監修者コメント:目標額の修正は、計画を捨てることではない
年金の一覧表と積立の試算は、確からしさの性質が異なる数字です。一覧表は制度の仕組みから導かれる金額で、ある程度の見通しが立ちます。積立の到達額のほうは、前提の置き方しだいで大きく動く推計値です。同じ毎月3万円・25年でも、想定利回りを2%に置けば結果は小さくなり、5%に置けば大きくなります。この2つを同じ重みで並べないほうが、判断を誤りにくいように思います。
目標額についても同じことが言えます。目標額は、置いた時点の生活費・働く期間・住まいの見通しから逆算した数字です。前提のどれかが動けば、目標額のほうも動くのが自然です。修正が必要になったこと自体は、計画のつくり方が誤っていたことを意味しません。
相談の場では、目標額を下げることに抵抗を感じる方と、上げることに気後れする方の両方に出会います。判断の材料としては、記事の試算のように、変えた場合と変えなかった場合を並べて差額を見るという方法があります。差が数十万円なのか数百万円なのかがわかると、その調整が今の家計にとって受け入れられる範囲かどうかを考えやすくなります。
上乗せの用意の仕方についても、選択肢は1つではありません。元本の安定を優先する資金と、値動きを受け入れて収益を狙う資金では役割が異なります。保障とセットになっている仕組みは、利回りだけで横並びに比べられる性質のものでもありません。それぞれの役割を確かめたうえで、ご自身の優先順位に合う配分を考えていく形になります。運用には価格変動リスクがあり、積立元本を下回る期間が生じることもあるという点は、前提として押さえておきたいところです。
なお、必要な金額は個々の状況で変わりますし、制度や税制の取り扱いも改定されることがあります。手続きや税務に関わる部分は、関連する窓口や専門家に確認のうえで進めていただくのが確かです。




