3. 残高が減った理由は「収入が減って取り崩した」が47.7%
ここからが今回の調査で目を引く部分です。1年前と比べて金融資産が減った世帯に、その理由を聞いた結果を見ていきます。
3.1 50歳代の25.6%から急に増える
60歳代で残高が減ったと答えたのは176世帯でした。その理由は次のとおりです(3つまでの複数回答)。
- 定例的な収入が減ったので金融資産を取り崩したから:47.7%
- 株式・債券価格の低下により評価額が減少したから:23.9%
- 旅行・レジャー費用の支出があったから:15.9%
- 耐久消費財の購入費用の支出があったから:15.3%
- こどもの教育費用・結婚費用の支出があったから:5.7%
- 土地・住宅購入費用の支出があったから:2.8%
- その他:15.9%
同じ質問で50歳代は「収入が減ったので取り崩した」が25.6%でした。60歳代で47.7%へと、ほぼ倍に増えています。
3.2 評価額の下落による減少も4分の1近い
2番目に多いのが「株式・債券価格の低下により評価額が減少した」の23.9%です。前の章で見たとおり60歳代は有価証券を4割近く持っていますので、相場の動きが残高に直接効いてくる年代でもあります。
使って減ったのか、値下がりで減ったのか。この2つは性質がまったく違います。減った理由を分けて把握しておくことが、次の判断につながります。
60歳代で取り崩しが始まるのは、想定どおりの動きです。問題は、それが計画のうえでの取り崩しなのか、成り行きなのかという点にあります。年間いくらまでなら取り崩してよいのかを一度計算しておくと、判断の基準ができます。
4. 取り崩しそのものは想定された動き
資産が減ったと聞くと悪い話に見えますが、老後の資産は使うために貯めたものです。減っていくこと自体は設計どおりです。
4.1 年金だけでは足りない分を埋めている
60歳代で取り崩しが増えるのは、給与収入が減る一方で生活費が同じだけ減らないためです。その不足分がどれくらいなのかは、LIMOの記事「【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説」で数字が示されています。
総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入の合計が25万4395円(うち公的年金などの社会保障給付が22万8614円)、支出は消費支出26万3979円と非消費支出3万2850円を合わせて29万6829円。単純計算で毎月約4万2000円が不足し、この収支差が続くと1年間で約50万円、10年間で約500万円の不足となります。
出所:【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説
4.2 問題は速度のほう
毎月4万2000円の不足であれば、年間およそ50万円です。中央値の1400万円から取り崩していくと、単純計算で28年分にあたります。
ただしこれは平均的な支出の場合です。医療費や介護費、住宅の修繕といった数年に一度の大きな支出が重なると、想定より速く減っていきます。金額そのものより、1年あたりいくら減っているかを見るほうが実態に近くなります。
5. 【FP1級・CFPの視点】取り崩し額を先に決めておく
筆者は生命保険会社で保険実務と社内教育に携わったのち、独立してファイナンシャルプランナーとして家計相談やマネースクールの講師を務めてきました。公的年金や社会保障の相談を受けることが多く、定年前後の方とお話しする機会もたびたびありました。
5.1 「なんとなく減っている」がいちばん怖い
ご相談で多いのが、減っていることは分かっているけれど、いくら減ったかは把握していないというケースです。取り崩しは日々の生活のなかで少しずつ進むので、明細を見る機会がないと気づきにくくなります。
年に1回、同じ月に全口座の残高を書き出すだけでも十分です。前年との差額が、その1年で取り崩した金額になります。この数字が出れば、あと何年もつかも計算できます。
5.2 値下がりと支出は分けて記録する
今回の調査でも、収入減による取り崩しと評価額の下落は別々の選択肢になっていました。家計の記録でも同じように分けておくと、対応が変わってきます。
支出が多いなら生活費の見直し、評価額の下落なら資産配分の見直しです。合算した金額だけを見ていると、どちらに手を打つべきかが判断できません。
6. 【落とし穴】数字を読むときに気をつけたいこと
今回の数字を自分に当てはめるときの注意点を挙げておきます。
6.1 この数字は二人以上世帯のもの
平均2683万円・中央値1400万円は、二人以上世帯の数値です。同じ調査で60歳代の単身世帯を見ると、平均1364万円・中央値300万円、金融資産非保有は30.4%でした。世帯の形によって水準がまったく違います。
6.2 商品別の内訳は保有していない世帯も含む平均
預貯金1087万円、株式629万円といった内訳は、金融資産を持っていない世帯も分母に入れた平均です。株式を持っている世帯だけで見れば、1世帯あたりの金額はもっと大きくなります。
6.3 減少理由は「残高が減った世帯」だけの回答
47.7%という数字の分母は、60歳代のうち残高が減ったと答えた176世帯です。60歳代全体ではありません。「60歳代の半分近くが収入減で取り崩している」と読むと過大になります。
7. 【対応策】確かめておきたい3つのこと
金額の大小より、動きをつかむところから始めましょう。
7.1 1年間の増減額を出す
全口座の残高を年に1回書き出して、前年との差を出します。減っているなら、その金額が1年の取り崩し額です。何年もつかは、残高をこの金額で割れば概算できます。
7.2 預貯金のうちすぐ使える分を把握する
定期性預貯金と普通預金を分けて確認します。急な支出に充てられるのは後者です。医療費や修繕費に備える分をここに確保しておくと、値動きのある商品を慌てて売らずに済みます。
7.3 公的年金の見込額と並べる
ねんきんネットやねんきん定期便で年金の見込額を確認し、毎月の生活費と並べます。差額が毎月の取り崩し額の目安です。数字がそろわないときや制度の適用に迷うときは、年金事務所やお住まいの市区町村の窓口でご確認ください。
8. まとめにかえて
60歳代の二人以上世帯の金融資産は平均2683万円、中央値1400万円でした。3000万円以上が27.2%を占める一方、非保有も12.8%あり、分布は上と下に分かれています。
中身は預貯金1087万円と有価証券1000万円がそれぞれ4割前後。残高が減った世帯の47.7%が「収入が減ったので取り崩した」と答えており、50歳代の25.6%から大きく増えていました。
取り崩しが始まること自体は想定どおりです。確かめておきたいのは、1年でいくら減っているのかという速度のほうです。
参考資料
村岸 理美
