厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」で、繰下げ受給の選択率は国民年金2.6%・老齢厚生年金1.9%といずれも1桁台にとどまることが示されました。増額幅の大きい制度であるにも関わらず、選択肢として浸透していない状況です。

「本当に繰下げは得なのか、いつまで生きれば元が取れるのか」と迷ったことはありませんか。繰下げは1ヶ月で0.7%、最大10年(120ヶ月)で84%増となる強力な制度ですが、判断には損益分岐点と家計影響の両面での試算が必要です。

この記事では、繰下げ受給の増額率のしくみと、月額15万円のケースで生涯損益を計算する視点を、日本年金機構の一次資料をもとにFPの視点から整理していきます。

ココがポイント
  • 繰下げ受給は1ヶ月0.7%増、1年で8.4%増、5年で42%増、最大10年(75歳)で84%増
  • 月15万円の年金を10年繰下げると月27万6000円に。生涯損益の分岐点は繰下げ開始から11〜12年後が目安
  • 加給年金・遺族年金・在職老齢年金との併用制限があるため、FP視点で家計全体をシミュレーションしてから判断する

1. 繰下げ受給の増額率と仕組み

繰下げ受給は令和4年4月から上限が75歳まで拡大された制度です。まずは基本的な仕組みと増額率を整理していきましょう。

1.1 1ヶ月あたり0.7%増、上限は10年で84%増

繰下げ受給の増額率は、繰下げ月数×0.7%で計算されます。1年(12ヶ月)繰下げれば8.4%増、5年(60ヶ月)で42%増、10年(120ヶ月)で最大84%増となる仕組みです。増額は生涯継続するため、長生きするほど累積のメリットが大きくなる構造です。

令和4年3月以前は、繰下げ上限が70歳(最大42%増)でしたが、令和4年4月の改正で75歳まで拡大されました。この改正により、健康寿命が延びている実態に合わせた選択肢の幅が広がったといえます。

1.2 老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に選べる

繰下げ受給は、老齢基礎年金と老齢厚生年金のそれぞれで別々に選択できます。「基礎年金は65歳から、厚生年金は70歳から」といった組み合わせも可能です。ご自身の家計の状況や、加給年金の対象になっているかによって、最適な組み合わせが変わります。

繰下げ月数と増額率、繰下げ後の年金月額の関係を整理しています1/2

繰下げ月数と増額率、繰下げ後の年金月額の関係を整理しています

出所:日本年金機構「年金の繰上げ・繰下げ受給」よりLIMO編集部作成

2. 月額15万円のケースで生涯損益を計算する

制度の理解が進んだところで、具体的な数字でシミュレーションしていきましょう。65歳から月額15万円受給する予定の方が、繰下げを選んだ場合の生涯損益です。

2.1 5年繰下げ(70歳受給開始)の場合

65歳の月額15万円を5年繰下げると、70歳から月額21万3000円(15万円×1.42)で受給が始まります。5年間の受給しなかった分は、15万円×12ヶ月×5年=900万円です。

年間の増額分は21万3000円×12−15万円×12=75万6000円になります。900万円÷75万6000円=約11.9年で、82歳前後が損益分岐点の目安です。健康で長生きすれば繰下げのメリットが大きく、平均寿命の長期化を踏まえるとFP視点でも検討価値の高い選択肢です。

2.2 10年繰下げ(75歳受給開始)の場合

月額15万円を5年・10年繰下げた場合の生涯損益シミュレーションを整理しています2/2

月額15万円を5年・10年繰下げた場合の生涯損益シミュレーションを整理しています

出所:日本年金機構「年金の繰上げ・繰下げ受給」よりLIMO編集部作成

65歳の月額15万円を10年繰下げれば、75歳から月額27万6000円(15万円×1.84)で受給が始まります。受給しなかった分は、15万円×12ヶ月×10年=1800万円です。

年間の増額分は27万6000円×12−15万円×12=151万2000円になります。1800万円÷151万2000円=約11.9年で、87歳前後が損益分岐点となります。損益分岐点までの必要生活費を貯蓄で確保できるかが、選択の分岐点になります。