セレクトショップという業態は、値引きを抑えて高い粗利を確保する商売だ。そう理解している人は多いだろう。
ところがユナイテッドアローズ(7606)の直近決算は、粗利率が下がりながら営業利益が大きく伸びている。稼ぎ方の主軸が、少し違うところへ移りつつあるのかもしれない。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- ①2027年3月期1Qの営業利益は32億円で前年同期比+27.5%。売上高は397億円で+4.2%にとどまった
- ②売上総利益率は54.6%へ0.6ポイント低下した一方、販管費率は46.5%へ2.1ポイント改善した
- ③店舗の固定費が売上比で軽くなり、費用の重心がデジタル側へ移りつつある
1. 2,400円台から2,600円台へ、8月の株価が描いた行って来い
7月下旬のユナイテッドアローズの終値は2,400円台だった。7月24日は2,401円である。
そこから水準を切り上げ、8月10日には2,613円まで到達した。この1カ月の終値では最も高い水準だ。
ただし、そこが折り返し点になった。8月中旬以降は2,500円台での推移が続き、直近8月24日の終値は2,504円。前営業日の2,559円からは下押ししている。
1カ月前と比べれば100円強の上昇だが、8月中旬の水準からは100円あまり戻した格好で、行って来いに近い。
バリュエーションは、直近時点でPER(株価収益率)11.19倍、PBR(株価純資産倍率)1.64倍。後述する資本効率の水準と並べると、市場がこの衣料品小売に織り込んでいる期待は、そこまで前のめりではないようにみえる。
2. 粗利率が下がったのに営業利益が+27.5%伸びた構造
2027年3月期1Qの売上高は397億円で、前年同期比+4.2%。営業利益は32億円で+27.5%、経常利益は33億円で+22.6%、親会社株主に帰属する四半期純利益は21億円で+44.8%となった。
売上の伸びは1桁台前半にとどまるのに、利益は2桁の後半で伸びている。この差はどこから来たのか。
素直に考えれば粗利の改善を疑いたくなるが、実際は逆だった。売上総利益率は54.6%で、前年同期から0.6ポイント低下している。売上総利益そのものも217億円で+3.0%と、売上の伸び率に届いていない。
効いたのは費用側である。販売費及び一般管理費は185億円で、前年同期比▲0.4%。売上が増えているのに費用は減った。その結果、売上高に対する販管費率は46.5%となり、2.1ポイント改善した。
会社の説明によると、既存店売上高は前年同期比105.9%、客単価は104.5%と堅調に推移した。商品管理基幹システムを活用して店舗と通販の在庫配分を適正化したことで、ネット通販の既存店売上高は113.1%まで伸長したという。
販管費率の改善については、連結体制の見直しによる収益構造の改善、売上成長、生産性向上の3つが寄与したとしている。
普通、セレクトショップと聞けば、値引きを抑えて高い粗利を確保する商売という理解が先に立つ。実際この会社の粗利率は5割を超え、小売業の中央値47.67%を大きく上回っている。
ところが直近の1Qに限れば、利益を押し上げたのは粗利ではなく費用の効率だった。高感度・高付加価値という看板と、実際に増益を作った要因は、必ずしも同じ方向を向いていない。この2つが同時に成り立っているのが今の姿だろう。
3. 通期予想の営業利益100億円に対し、1Qで3割超を積み上げた
会社は2027年3月期の通期予想を、売上高1,661億円(+1.0%)、営業利益100億円(+9.6%)、親会社株主に帰属する当期純利益61億円(+1.0%)としている。1Q時点でこの予想に変更はない。
1Qの営業利益32億円は、通期予想に対して32.3%にあたる。単純に4等分した25%より前倒しの進捗だ。一方で売上高の進捗は24%弱にとどまり、利益だけが先行している。
もっとも、衣料品小売は季節性が強く、1Qの進捗をそのまま4倍しても意味は薄い。前期の姿がそれを教えてくれる。
2026年3月期は上期の営業利益が前年同期比▲19.5%と落ち込みながら、3Q累計で+9.1%、通期では+14.3%まで戻した。四半期ごとの振れは、この会社ではかなり大きい。
その2026年3月期通期は、売上高1,646億円、営業利益91億円、当期純利益61億円だった。5期前の2022年3月期は売上高1,183億円、営業利益16億円で、営業利益率は1.4%にすぎない。
そこから4.9%、5.0%、5.3%、5.5%と、営業利益率は毎期切り上がってきた。コロナ禍からの回復という追い風だけでは説明しきれない、階段状の改善である。
小売業の営業利益率の中央値は3.69%。ユナイテッドアローズはこれを1.8ポイントほど上回る。ROE(自己資本利益率)も2026年3月期は15.3%で、中央値7.46%はもちろん、上位25%の目安である12.09%も超えた。
4. 筆者コメント
売上が4%しか伸びていないのに、利益は3割近く伸びる。この差はどこまで続くのだろうか。
鍵は費用の性質にある。今回効いたのは在庫配分の最適化と連結体制の見直しで、いずれも一度やれば水準が切り替わるタイプの改善だ。裏を返せば、来期以降も同じ幅で販管費率を下げ続けられる保証はない。
一方で、粗利率が0.6ポイント下がったことも軽く見ない方がいい。仕入コストの上昇が続くなら、粗利の側から利益を削る力は残る。費用の効率で押し返す構図が続くのか、それとも価格に反映させて粗利率を戻しにいくのか。
私はこの会社を見るとき、営業利益の伸び率よりも、粗利率と販管費率の差がどう動くかを追いたい。増益の中身が「売れたから」なのか「効率が上がったから」なのかは、この2つの並びにはっきり出る。
決算のたびに営業利益の前年比だけを眺めて安心する読み方は、そろそろ卒業してもいいのではないだろうか。

