5. 家賃と人件費が、5期かけて売上比で軽くなった
路面店やファッションビルに店を構えるアパレルは、家賃という重い固定費を抱える。一般にはそう見られる業態だ。
金額だけを見れば、そのとおりではある。2026年3月期の地代家賃は216億円で、5期前の192億円から膨らんだ。1Q末のグループ店舗数は280店に達しており、店が増えているのだから当然といえば当然だ。
ところが売上高との比で見ると、景色が変わる。2022年3月期の地代家賃は売上高の16.2%を占めていたが、2026年3月期は13.1%まで下がっている。
人件費も同じだ。169億円から204億円へ増えながら、売上比では14.3%から12.4%へ軽くなった。
固定費は、売上が伸びればそれだけ1単位あたりの負担が薄まる。この5期のユナイテッドアローズに起きたのは、まさにその効果である。
営業利益率が1.4%から5.5%まで上がった背景には、粗利率の改善だけでなく、この希薄化が確かに効いている。
重い固定費を抱える業態だという見方と、その固定費が売上比で軽くなり続けているという事実。この2つは矛盾せず、同時に成り立っている。
6. 費用の重心は、店舗からデジタル側へ移っている
軽くなった費用がある一方で、明らかに重くなった費用もある。
業務委託費と支払手数料の合計は、2022年3月期の63億円から2026年3月期は116億円へ、5期でほぼ倍になった。売上比では5.3%から7.1%へ上昇している。
広告宣伝費も20億円から42億円へ増え、売上比は1.8%から2.6%になった。
これらはEC・決済・システム運用といった、デジタル側に紐づく費用だ。会社は商品管理基幹システムを軸に在庫配分を最適化し、OMO戦略と人的資本投資を重要な経営基盤に位置づけているという。
1Qでネット通販の既存店売上高が113.1%と伸びたのは、その投資が数字として表に出てきたということだろう。
つまりこの会社の費用構造は、減ったのではなく入れ替わった。店舗の固定費を売上比で軽くした分を、デジタル側の費用と投資に振り向けている。
ここには論点も残る。業務委託費や支払手数料は、取引が増えれば増える性質を持つ。店舗の家賃のように、売上が伸びれば自動的に薄まる費用ではない。
売上の伸びが鈍った局面で、この費用がどう振る舞うか。そこが次の試金石になるだろう。
7. 投資は先行、還元も動く。厚い自己資本をどう使うか
2026年3月期の設備投資額は103億円で、前期の60億円から大きく増えた。営業キャッシュフローは55億円、投資キャッシュフローは▲96億円で、フリーキャッシュフローはマイナスに沈んでいる。
数字だけ見ると気になるが、中身は出店と物流倉庫の設備増強、そしてシステム投資である。1Qでも有形固定資産が4億円増えており、投資フェーズはなお続いている。
財務の余力は厚い。自己資本比率は2026年3月期末で58.9%、1Q末で59.7%。小売業の中央値48.76%を10ポイント以上上回る。
ただし、自己資本比率の高さをそのまま健全さの証拠として片づけるのは早い。負債をほとんど使わない財務が資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点だ。ROE15.3%という水準は、その問いを投げかけるだけの高さがある。
その一方で、資本の使い道は動き始めている。2026年9月30日を予定日として、上限100万株の自己株式を消却することが決議された。消却前の発行済株式総数(自己株式を除く)に対して3.6%にあたる規模だ。
長期の絵も示されている。2033年3月期を最終年度とする長期ビジョンのもと、2029年3月期を最終年度とする中期経営計画2026-2028が初年度に入った。2027年3月期の経営方針は「Quality First」である。
そのうえで、2032年度に売上高2,500億円、年平均成長率6.8%という長期の数値目標を掲げている。2026年3月期の1,646億円から見れば、5割強の上積みが要る計算だ。海外では中国と台湾を重点エリアに据え、1Qには中国で1店舗を新規出店している。
8. 筆者コメント
地代家賃の売上比と、業務委託費の売上比。この2つを5期並べると、この会社が何をしてきたかがはっきり見えてくる。
片方は下がり、片方は上がった。店舗という装置の負担を売上の成長で薄め、浮いた分をデジタルに投じる。言葉にすれば単純だが、5期かけてやり切った会社はそう多くない。
興味深いのは、この入れ替えが「店を減らす」形で起きていない点だ。店舗数はむしろ増えている。閉めて軽くしたのではなく、売上を伸ばして相対的に軽くした。ここがコスト削減型の縮小均衡と決定的に違う。
ただ、この構図には前提がある。売上が伸び続けることだ。固定費の希薄化は成長の副産物であって、成長が止まれば逆回転する。通期予想の売上高が控えめな伸びで置かれているのは、その意味で見逃せない。
数字を追うなら、利益の伸び率ではなく、費用項目それぞれの売上比を縦に並べてみることをおすすめしたい。会社の意思は、そこに一番はっきり出る。
参考資料
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石津 大希