6. 【2026年度から順次スタート】高額療養費と在職老齢年金、何がどう変わる?

シニア世代に関わる公的制度は、2026年度から2028年度にかけて段階的に見直しが進められています。まずは、すでに動き出している「高額療養費制度」と「在職老齢年金」の変更点を見ていきましょう。

6.1 高額療養費制度の自己負担限度額が見直され、年間上限も新設

高額療養費制度とは、1カ月に支払った医療費の自己負担額が、年齢・所得に応じた上限額を超えた場合に、その超過分が支給される制度です。2026年8月からは、月単位の自己負担限度額が見直されるほか、新たに「年間上限」も設けられました。

  • 例:年収約260万~約370万円の人は、月額の自己負担上限が5万7600円から6万1500円へ引き上げ。年間上限は53万円

さらに2027年8月からは所得区分がより細かく設定され、所得が高い人ほど自己負担限度額も段階的に高くなる見込みです。

長期療養者向けの「多数回該当」の自己負担上限は基本的に維持される一方、年収約200万円未満の課税世帯については2027年8月から、多数回該当の上限額を4万4400円から3万4500円程度(約22%の引き下げ)に見直す方向で調整が進められています。
だし2026年9月時点でこの金額は確定しておらず、今後の審議で変更される可能性があります。

6.2 在職老齢年金の支給停止基準額が65万円に引き上げ

厚生年金を受給しながら働く場合、賃金と老齢厚生年金の合計額が一定基準を超えると年金の一部・全部が支給停止となる仕組みが「在職老齢年金」です。この基準額(支給停止調整額)は、2025年に成立した年金制度改正法による引き上げを受け、2026年度(令和8年度)からは51万円(令和7年度)から65万円に引き上げられています。

在職老齢年金制度の見直し9/10

在職老齢年金制度の見直し

出所:厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」

「賃金+老齢厚生年金」の合計額が65万円以下であれば、在職老齢年金による支給停止の対象にはなりません。ただし65万円まで無条件に年金を受け取れる制度ではなく、あくまで支給停止が始まる基準額が引き上げられたという点を理解しておく必要があります。

7. 【2028年4月施行予定】遺族厚生年金の男女差、こう解消されます

2025年6月に成立した「年金制度改正法」では、いわゆる「106万円の壁」の撤廃に向けた社会保険の適用拡大に加え、遺族年金の仕組みを見直す内容も盛り込まれました。働き方や家族のあり方が多様化してきたことを踏まえた変更です。

現在の遺族厚生年金には、受給者の性別によって次のような違いがあります。

遺族厚生年金の見直し10/10

遺族厚生年金の見直し

出所:厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」

  • 女性:30歳未満で死別は5年間の有期給付、30歳以上で死別は無期給付
  • 男性:55歳未満で死別は給付なし、55歳以上で死別は60歳から無期給付

こうした男女差の解消に向けた見直しが、2028年4月から施行される予定です。

  • 女性:施行直後に原則5年間の有期給付の対象となるのは「18歳年度末までの子がいない、2028年度末時点で40歳未満」の方(すでに受給している方や2028年度に40歳以上になる女性は対象外)
  • 男性:新たに5年間の有期給付を受けられるのは「18歳年度末までの子がいない60歳未満」の方
  • 子がいる場合:18歳年度末になるまでは現行制度と同じ。その後さらに5年間、増額された有期給付・継続給付の対象になる

有期給付には新たに「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金額の約1.3倍になります。5年間の有期給付終了後も、障害状態にある方や収入が十分でない方は増額された遺族厚生年金を継続受給できます。単身の場合、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下なら継続給付が全額支給され、概ね月額20~30万円を超えると全額支給停止となります。

また「遺族基礎年金」についても制度変更が行われます。これまでは同一生計の父または母が受給できなかった場合、子が単独で受給できないケースがありましたが、2028年4月からはこうした場合でも子自身が「遺族基礎年金」を受け取れるようになります。

8. まとめにかえて|使える公的制度を知り、暮らしの負担を軽くしよう

今回紹介した制度以外にも、自分から申請や手続きをしなければ受け取れない公的な支援制度は少なくありません。加給年金や高年齢雇用継続給付のように、条件を満たしていても自動的には振り込まれない制度も多く、まずは自分が対象になり得るかどうかを知ることが第一歩です。

2026年度から2028年度にかけては、高額療養費制度や在職老齢年金、遺族厚生年金など、家計に関わる制度の見直しも続きます。年金事務所やハローワーク、お住まいの自治体の窓口、日本年金機構の「ねんきんネット」などを定期的に確認し、利用できる制度を見逃さないようにしましょう。

物価上昇が続くなかでは、貯蓄や資産運用など「お金を増やすこと」に目が向きがちです。しかし、国や自治体が用意している制度を正しく知り、自分が受け取れる支援を確実に活用することも、老後の暮らしを安定させるための大切な方法の一つといえるでしょう。

9. 監修者からのコメント

熊谷 良子

遺族年金の見直しの背景には、共働き世帯の増加や働き方の多様化があります。あわせて押さえておきたいのが、2025年の年金制度改正で決まった「106万円の壁」の撤廃を含む社会保険の適用拡大です。

政府広報によれば、これまで年収の壁を意識して働く時間を抑えてきたパート・アルバイトの方も、企業規模などの要件緩和により社会保険に加入しやすくなり、将来の年金額を増やせる可能性があります。

遺族年金や老齢年金の上乗せ制度とあわせて、こうした働き方に関する制度変更もセットで確認しておくと、老後の家計設計がより具体的になるはずです。制度の詳細は今後も更新される可能性があるため、最新情報は厚生労働省や日本年金機構の公式サイトで確認することをおすすめします。

参考資料

池上 翠