2024年5月10日に雇用保険法等の一部を改正する法律が成立しました。今回の改正では、雇用セーフティネットの拡大やキャリア形成に役立つ学び直しなどが強化されています。
しかし、今まで雇用保険の被保険者でなかった方や、受給手続きを行ったことがない方にはイメージしにくいかもしれません。そこで本記事では、具体的な改正ポイントや改正後に予想される問題点について解説します。
1. 雇用保険の一部改正が成立した背景
雇用保険法が改正されたポイントを解説する前に、改正に至る背景や目的について確認していきましょう。
1.1 多様な働き方を支えるセーフティネットの拡大
雇用保険の改正が成立した背景には、多様な働き方の進展が挙げられます。総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」では、パート・アルバイトの雇用形態が2022年度の前年比で11万人増加したことが確認できます。
また、2013〜2023年までの期間で週間就業時間が20時間未満の雇用者数が右肩上がりに増え続けているのもポイントです。雇用のセーフティネットを拡大するためにも雇用保険法の改正に踏み切ったことが予想されます。
1.2 教育訓練やリスキリング支援の充実化
労働者への公的支援を充実化させることにより、賃金の上昇や再就職への効果を高める狙いがあります。国は物価高を上回る所得の増加を実現するために、教育訓練給付の拡充以外にもさまざまな積極的な取り組みを行っています。
なお、今回の改正で特に注目したいのが教育訓練後に賃金が上昇したり、資格習得後に就職したりした場合に受講費用の10%が追加で支給される点です。専門スキルの習得や資格の取得を実現したい方などをさらに後押しする仕組みになっています。
1.3 育児休業給付の増加による財政基盤の強化
育児休業の取得者が増加したことによる財政基盤の強化も、雇用保険を改正した理由のひとつでしょう。厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」によれば、男性の育児休業取得率は年々増加していることが確認できます。
特に2019年から大幅に取得率が伸びており、安定的な財政運営を実現するためにも財政基盤の強化が急務であるといえるでしょう。では、次に具体的にどのような改正が実施されるのか確認していきます。
2. 雇用保険改正の主なポイント
雇用保険の改正ポイントを見ていきましょう。
2.1 1.雇用保険の適用拡大(施行期日:2028年10月1日)
被保険者の要件を週所定労働時間「20時間以上」から「10時間以上」に変更し、適応対象が拡大されました。総務省「労働力調査」によると2023年度では、週間就業時間10〜19時間に該当する方が約506万人確認されているため、大幅な拡大を行うことが確認できます。
2.2 2.自己都合離職者に対する失業保険の給付制限を解除(施行期日:2025年4月1日)
自己都合離職者が失業給付を受給するにあたって、現行法では待期満了の翌日から原則2ヶ月間の給付制限が設けられています。しかし、改正後は離職から1年以内に自ら職業訓練を受講した場合は、給付制限が解除されます。
職業訓練を受けない場合については、原則2ヶ月間の給付制限が1ヶ月間に短縮されるのもポイントです。なお、5年間で3回以上の自己都合離職に対しては、給付制限が3ヶ月になる点は留意しておきましょう。
2.3 3.教育訓練給付の拡充(施行期日:2024年10月1日)
教育訓練給付とは、専門スキルの習得や資格取得などを目的としている厚生労働大臣指定講座を受講した際に、受講費用が支給される制度のことです。現行法では上限受講費用が70%に設定されていますが、改正後には80%に引き上げられます。
今回は教育訓練給付制度のなかでも「専門実践教育訓練給付金」と「特定一般教育訓練給付金」の給付率が見直されており、それぞれ最大給付率が異なるので注意が必要です。
専門実践教育訓練給付金の最大給付率は、本体給付と追加給付を合わせて80%です。一方で特定一般教育訓練給付金の場合、本体給付と追加給付を合計しても最大給付率は50%になります。現行法と改正後では、それぞれ10%引き上げられている計算です。
2.4 4.教育訓練給付の創設(施行期日:2025年10月1日)
教育訓練の受講者がより専念できる環境作りを目的に、教育訓練給付が創設されます。教育訓練給付金の対象者や支給要件などは、以下の表をご覧ください。
- 対象者:雇用保険被保険者
- 支給要件:教育訓練のための休暇(無給)を取得すること、被保険者期間が5年以上であること
- 給付内容:離職した場合に支給される基本手当の額と同じ、給付日数は被保険者期間に応じて90日・120日・150日のいずれか
- 国庫負担:給付に要する費用の1/4または1/40(基本手当と同じ)
2.5 5.国庫負担割合を引き上げ(施行期日:公布日または2024年4月1日の遅い方)
男性の育児休暇取得数増加により、育児休業給付の支給額が増加しているため、国庫負担割合が引き上げられます。具体的な割合は、現行法の1/80から1/8となります。
厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」によると、育児休業支給額は2020年度から右肩上がりに上昇しており、2023年度は7780億円であると確認できます。一方、同じく2023年度の支出額は7996億円です。
2.6 6.育児休業給付の保険料率を調整する仕組みを導入(施行期日2025年4月1日)
育児休業給付を支える財政基盤の強化を目的に、雇用保険の保険料率を0.4%から0.5%に引き上げる改正を行いました。さらに、当面は0.4%に据え置くものの、保険財政の状況に応じて保険料率を弾力的に調整する仕組みを導入しています。
ここまで6つの改正ポイントについて解説しました。次章では、今後どういった影響が予想されるのか見ていきましょう。
3. 2025年に自己都合退職者が相次ぐと予想される理由
今回のさまざまな改正により、2025年に自己都合退職者が増加すると予想されます。主な理由としては、失業保険の給付制限や教育訓練給付の拡充などが挙げられます。
特にキャリアアップを検討している方であれば、退職後すぐに教育訓練を受講することで公的な給付金を受け取りながらキャリア形成に必要な専門知識や資格の取得を行えるのがポイントです。
総務省統計局の「労働力調査(詳細集計)2023年(令和5年)平均結果」によると、転職者数は328万人で前年の303万人から25万人増加していると確認できます。
さらに、転職希望者数は2016年から2023年までの7年間で右肩上がりに増え続けており、2023年度では1007万人になりました。どちらも前年比では増加傾向にあります。
また、厚生労働省「令和5年版 労働経済の分析」によると、2022年度の前職離職理由で「より良い条件の仕事を探すため」が増加しています。今後もキャリアアップを目指した転職活動は積極的に行われると予想され、今回の改正が転職希望者を後押しする結果になると見込めます。
4. まとめにかえて
今回の雇用保険法の改正では、さまざまな理由により週所定労働時間が20時間以上に満たない方でも雇用保険の加入対象者に該当する可能性があります。雇用保険に加入することで、失業給付や教育訓練給付などの公的支援を受けられるのがメリットです。
一方で、セーフティネットの拡大によって制度の改正後に自己都合離職者が増加する恐れもあります。多くの労働者を雇用している企業としては、退職者が増えたことによる対応を迫られるでしょう。法案が施行されるまでに期間の猶予があるため、今のうちに対策を実施してみてください。
参考資料
- 厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
- 首相官邸「物価高を上回る所得増へ」
- 厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」
- 総務省統計局「2023年(令和5年)平均結果の概要」
- 厚生労働省「令和5年版 労働経済の分析」
- 総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」
湯田 浩平