2. 現金と運用、どうバランスをとる?
種類別の内訳からは、シニア世帯が「すぐ使えるお金」と「育てるお金」を、無理のない範囲で分けている様子が見えてきます。ここからは、これからのお金の置き場所を考えるうえで、心にとめておきたいことを整理していきましょう。
お金を「使う時期」で3つに分ける考え方2/2
※目的(使う時期)に合わせて置き場所を分けるイメージ。LIMO編集部作成
2.1 すぐ使うお金は、預貯金でしっかり確保する
まず大切なのは、当面の生活費や、医療・介護などいざというときに備えるお金を、値動きのない預貯金で確保しておくことです。年金を受け取りながらの暮らしでは、必要なときにすぐ引き出せる安心感が、何より支えになります。内訳で預貯金が6割を占めているのも、この安心を大切にしている世帯が多いからだと考えられます。
目安としては、日々の生活費に加えて、数年分の余裕を預貯金で持っておくと、あわてずにすみます。ここは「増やす」ことより「守る」ことを優先してよい部分です。
たとえば、毎月の生活費に加えて、旅行や趣味、家の小さな修繕といった予定を思い浮かべ、1年から数年のあいだに使いそうな金額を、預貯金にまとめておくと安心です。ここが用意できていると、急な出費があっても、運用しているお金をあわてて動かさずにすみます。土台がしっかりしているほど、その先のお金は落ち着いて育てていけます。
2.2 物価の上昇に、少しずつ備える
いっぽうで、すべてを預貯金にしておくと、物価がゆるやかに上がり続けたとき、同じ金額でも買えるものが少しずつ減っていきます。これは、預貯金の額が減るわけではなく、お金の値打ちがゆっくり目減りしていく、という意味です。
そこで、当面使う予定のないお金の一部を、新NISAのような税制優遇のある制度を使って運用に回す選択肢があります。内訳で有価証券が2割を占めているのも、こうした備えの一つのあらわれといえます。とはいえ投資には値動きがともない、タイミングによっては元本を割り込むこともあります。生活に必要なお金をしっかり確保したうえで、余裕のある範囲で、無理なく続けるのが安心です。
少し視野を広げてみましょう。日本銀行が公表する「資金循環の日米欧比較」(2026年3月末)によると、日本の家計全体でも、金融資産のおよそ半分にあたる47.2%が現金・預金で持たれています。株式等(16.7%)と投資信託(6.9%)を合わせても2割強にとどまり、株式等が4割を超えるアメリカ(43.4%)とは、お金の持ち方が大きくちがいます。日本では「まず預貯金で守る」という考え方が広く根づいているといえそうです。今回みたシニア世帯で預貯金が6割ほどを占めていたのも、その延長線上にある姿だといえます。だからこそ、預貯金でしっかり守りを固めたうえで、余裕のある部分だけ少しずつ運用も、という順番が、無理なく続けるコツになります。
運用というと身構えてしまいますが、毎月決まった額をコツコツ積み立てる方法なら、値動きに一喜一憂しにくく、長く続けやすいのが特長です。一度に大きく動かすのではなく、少額から時間をかけて。この「無理のなさ」が、シニア世代の運用ではとくに大切になります。
2.3 保険や、それぞれの目的に合わせて考える
生命保険などが1割7分を占めているように、貯蓄には、万が一の備えや、家族へ引き継ぐためのお金も含まれます。大切なのは、それぞれのお金に「いつ、何のために使うか」という目的を持たせて、置き場所を分けて考えることです。すぐ使うお金は預貯金で、当分使わないお金は一部を運用で、備えのお金は保険で、というように分けておくと、家計の全体像がすっきり見えてきます。
また、保険や、家族へ引き継ぐお金は、いざというときに残された人が困らないよう、どこに何があるかを元気なうちに共有しておくと安心です。証券や保険の書類のありか、連絡先などを一枚にまとめておくだけでも、家族の負担はぐっと軽くなります。お金の「持ち方」を整えることは、自分のためだけでなく、大切な人への思いやりにもつながっていきます。
4000万円という大きな数字を持つ世帯も、その中身は預貯金・運用・保険の組み合わせでできています。金額の大きさそのものより、目的に合わせた「持ち方」を整えることが、これからの暮らしの安心につながっていきます。
3. まとめにかえて
65歳以上・夫婦世帯(無職)の貯蓄2494万円の内訳は、定期性預貯金778万円、通貨性預貯金766万円、有価証券510万円、生命保険など426万円でした。預貯金が全体のおよそ6割を占めつつ、有価証券や保険にも無理のない範囲で分けられているのが、平均的な姿です。
大切なのは、貯蓄額の多い少ないではなく、その金額を「どんな形で持つか」を、自分の暮らしに合わせて考えることです。すぐ使うお金は預貯金で守り、当分使わないお金は一部を運用で育て、備えのお金は保険で用意する。目的に合わせて置き場所を分けることが、安心の土台になります。
今日からできる一歩は、いまある貯蓄を「すぐ使う」「しばらく使わない」「万が一のため」の3つに、ざっくり分けて書き出してみること。それぞれにいくらあるかが見えると、これから何を増やし、何を守ればよいかが、自然とはっきりしてきます。
この「3つに分ける」という作業は、特別な知識がなくても、紙とペンがあればすぐに始められます。金額を細かくそろえる必要はなく、おおまかで十分です。分けてみるだけで、いま自分の家計がどんなバランスになっているのかが見えて、次の一歩が考えやすくなります。
物価がゆるやかに上がる時代は、預貯金で守りながら、一部を運用で育てるという組み合わせが力になります。あわてず、自分たちのペースで、お金の置き場所をていねいに整えていきましょう。その一つひとつが、これからの暮らしを静かに支えてくれます。
4. 元証券会社社員の執筆者コメント
証券会社で個人のお客様の資産づくりをお手伝いしてきたなかで、退職後のお客様から「貯蓄は何度もいただきました。私がいつもおすすめしていたのは、手元のお金を役割ごとに分けて考えることです。今回の内訳でいえば、あるけれど、どう使っていけばよいのか」というご相談を預貯金は「すぐ使うお金」、有価証券は「しばらく先のためのお金」、保険は「万一に備えるお金」というように、それぞれに出番があります。分けてみると、我が家はどの役割に厚く、どこがこれからかが、はっきりしてきます。
ご相談のなかで感じたのは、不安の多くは金額の大小ではなく、「使い道が整理できていないこと」から来るということでした。すぐ使うお金が預貯金で確保できていれば、値動きのある部分も気持ちに余裕を持って向き合えます。物価が上がる時期は、当分動かさないお金の一部を無理のない範囲で運用にまわし、値打ちの目減りにそなえておくと安心です。そして備えや引き継ぐお金は、その在りかをご家族に伝えておくだけでも、いざというときの支えになります。持ち方を少し整えるだけで、同じ貯蓄でも、暮らしの見通しはずっと明るくなります。
参考資料
宮野 茉莉子
