10. 50歳代に多い「積み立てているけれど、使うときのことをどこまで決めておくべきか分からない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・奥田 朝が伝えたいこと

老後に向けてお金を積み立てている方から、貯めることそのものよりも、そのあとについて迷っているという声が寄せられることがあります。積み立てが続いている状態は、いわば入り口が動いている状態です。一方で、そのお金をいつ、どんなふうに使っていくのかという出口の側は、まだ何も決めていないという方が少なくありません。この出口を今のうちから決めておくべきなのか、それとも使う時期が近づいてから考えれば足りるのか。ここでは、ファイナンシャルアドバイザーが日頃の面談でよく受けるご相談のひとつを、個人が特定されないよう内容を一般化したうえで取り上げます。

10.1 50歳代に多いお悩み相談は「積み立てているけれど、使うときのことをどこまで決めておくべきか分からない」

50歳代(ご相談者)
毎月の積み立ては続けていますし、当面は使う予定のないお金も別に置いています。ただ、それを将来どう使っていくのかとなると、何も決まっていません。使うときのことを今のうちからどこまで決めておくべきなのか、それともそのときになってから考えれば足りるのか、自分では判断がつかずにいます。

似たご相談は、50歳代の方から数多く寄せられます。この年代は、積み立てそのものはある程度続いてきて、手元にもいくらかまとまった資金がある一方で、それを使う時期はまだ先という位置にあります。だからこそ、出口のことを考える必要は感じているのに、何をどこまで決めておけばよいのかという線引きが見えず、そのまま手つかずになってしまう方も多くいらっしゃいます。

10.2 【ファイナンシャルアドバイザー・奥田 朝が回答】そのお金の役割を書き分け、金額や方法は動かせる余地を残し、決めたことを節目ごとに書き直す

奥田 朝
「使うときのことは、そのときになってから考えればよい」と決めつける前に、まずその積み立てたお金が将来どんな役割を担うのかを具体的に書き分けてみましょう。そのうえで、金額や引き出し方法といった細かい部分は状況に合わせていつでも動かせる余地を残し、固めすぎないことが重要です。決めた方針はそのまま放置するのではなく、ライフステージが変わる節目ごとに何度も設計しなおしていくことが大切です。少しずつ更新しながら自然な流れで出口へと近づいていくことが、最も落ち着いた進め方になります。

10.3 ポイント1:先に決めておくと後が楽になるのは、金額や方法よりも「そのお金が担う役割」

出口を先に決めるといっても、いつ、いくら、どうやって使うのかまでを今のうちに固めるという意味ではありません。相談の場で先に決めておくとその後が楽になると感じるのは、もっと手前にあるもの、つまりそのお金がどんな役割を担うのかという区分けです。たとえば、毎年生まれる余りをためていくお金と、老後の暮らしそのものを支えるお金とでは、使う時期も、途中でどれだけ値動きを受け入れられるかも変わってきます。同じ「将来のためのお金」とひとまとめにしていると、そもそも何を決めればよいのかがぼやけたままになり、出口を考えようとしても手がかりが見つかりません。役割ごとに分けておけば、そのお金は何のために置いているのかという問いに、あとから自分で答えられるようになります。相談の場では、口座や商品を分けるかどうかより先に、まず紙の上で役割を書き分けてみることをおすすめしています。書き分ける作業のなかで、思っていたよりも近い時期に使う予定のあるお金が混じっていたと気づかれる方もいらっしゃいます。

10.4 ポイント2:細かいところまで決めきらない。前提が動くので、決めすぎると身動きが取りにくくなる

一方で、出口をどこまでも細かく決めておけばよいかというと、そうとも言い切れないところがあります。積み立てている時期と実際に使い始める時期のあいだには、まだかなりの隔たりがあるのが普通です。そのあいだに、働き方も、家族の状況も、住まいのことも動きます。公的な制度の内容も、改正によって変わることがあります。そして値動きのある資産を持っているのであれば、その資産の価格も上下します。値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性もありますから、いま見えている金額がそのまま将来の金額になるとは限りません。こうした前提が動くにもかかわらず、いまの前提だけで細部まで固めてしまうと、状況が変わったときに決めたとおりにできないことが増え、かえって迷いが大きくなることがあります。ですから相談の場では、先に決めるのは大きな枠組みまでにとどめて、金額や方法といった細かい部分は、そのときの状況に合わせて選び直せる余地を残しておきましょう、というお話をよくさせていただきます。決めることと決めないでおくことのどちらが正しいという答えはなく、どこまでを先に決めておくと自分が落ち着くかという、線引きの問題として考えていただくとよいと思います。

10.5 ポイント3:いま決めたことを書き留めて、節目ごとに書き直す

役割を書き分け、細かい部分は残しておく。この二つを踏まえると、いまの時点で手元に残るのは、完成した計画ではなく途中経過のようなものになります。それで構わないと考えています。大切なのは、その途中経過を頭の中だけに置かず、書き留めておくことです。何のためのお金として置いているのか、どのくらい先に使う想定なのか、いま決めていないのはどの部分か。この三つを書き留めておくと、時間が経ってから見返したときに、当時の自分が何を考えていたのかがたどれます。そのうえで、暮らしや働き方に変化があったときや、年に一度といった区切りで、書いた内容を置き直していただくとよいと思います。相談の場では、こうして書き直しを重ねていくうちに、はじめは決めきれなかった部分が自然と決まっていく、という整理に行き着くことが少なくありません。出口を先に決めるかどうかという問いは、ある時点で一度きり答えを出すものというより、積み立てを続けながら少しずつ輪郭をはっきりさせていく作業として受け止めていただくほうが、実際の進み方に近いように思います。なお、税や公的な制度の取り扱いは改正によって変わることがありますので、最新の内容は公的機関の情報や、関連する窓口でご確認ください。

使うときのことをどこまで先に決めておくかという線引きは、その方が何をどれだけ決めておきたいかによって変わります。この記事でお伝えしたのは考え方の枠組みですので、実際にご自身の資金へ当てはめる段になりましたら、状況を確かめながら専門家とご一緒に整理していただければと思います。

11. まとめにかえて

積み立てを続けている途中で、そのお金を将来どう使うのかまで決めておくべきかどうかは、判断の分かれるところです。先に決めておけば、いざ使う段になったときに迷いが少なくなります。一方で、使い始めるまでには時間があり、そのあいだに前提が動きますから、細かいところまで固めてしまうと、かえって身動きが取りにくくなることもあります。

この記事では、先に決めておくと後が楽になるのは金額や方法よりもそのお金が担う役割であること、細かい部分は前提が動くことを見込んで決めきらずに残しておくこと、そしていま決めたことを書き留めて節目ごとに書き直していくことの三点を、相談の現場でよく交わされる整理として取り上げました。

値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性もあります。また、税や公的な制度の取り扱いは改正によって変わることがありますので、最新の内容は公的機関の情報や、関連する窓口でご確認ください。ここでお伝えしたのは考え方の大枠であり、どこまでを先に決めておくとよいかは個々の状況によって変わります。ご自身の判断については、関連する部署や専門家に確かめながら進めていただければと思います。

参考資料

奥田 朝