公的年金は偶数月に支払われる仕組みのため、来月10月は年金の定期支払日がある月にあたります。支給月を前に手元に入るお金をどう振り分けるかを考える機会が増える時期です。
近年は副業を認める勤務先も増えました。本業以外の収入が毎月いくらか入るようになると、「そのまま置いておくのか」「住まいの借入の返済に回すのか」「積立に振り向けるのか」と、使い道の判断で立ち止まる方が少なくありません。
判断の材料になるのが、老後にどれくらいの収入が見込めるのかという土台の金額です。この記事では、厚生労働省の資料をもとに厚生年金と国民年金の平均年金月額を確認し、都道府県ごとにどれくらいの開きがあるのか、そしてその差がどこから生まれるのかを整理します。
なお、厚生年金・国民年金の平均受給額や、受給額が決まる仕組みに関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
- 厚生年金の平均年金月額は全体で15万289円。国民年金は全体で5万9310円で、いずれも加入状況によって個人差が生じます。
- 都道府県別に見ると、厚生年金の平均年金月額は神奈川県の17万457円が最も高く、青森県の12万8129円が最も低くなっています。
- 増えた収入を「手元」「返済」「積立」のどこに振り向けるかで20年後の金額は変わりますが、有利さは借入金利と想定利回りの関係で入れ替わります。
1. 厚生年金の全国平均|受け取っている人全体では月15万289円
老後の収入の土台がどのあたりにあるのかを知るには、すでに年金を受け取っている人の平均額が手がかりになります。全国平均の水準について、【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説から要点を引用して確認します。
厚生年金の平均年金月額は〈全体〉15万289円、〈男性〉16万9967円、〈女性〉11万1413円(いずれも国民年金の金額を含む)。国民年金は〈全体〉5万9310円、〈男性〉6万1595円、〈女性〉5万7582円です。
年金の受給額はこれまでの加入状況によって決まるため、人によって大きな差が生じる点には注意が必要です。
厚生年金の全体平均である15万289円は、国民年金の金額を含んだうえでの1カ月あたりの金額です。ここから税金や社会保険料が差し引かれるため、実際に口座へ入る金額はこれより少なくなります。
ただし、平均という1つの数字は、その内側にある広がりを見せてくれません。同じ厚生年金でも、加入していた期間と現役時代の報酬によって金額は上下します。次の章で見ていくように、地域という切り口で並べ替えるだけでも、平均の内側にある幅の大きさが見えてきます。
2. 都道府県別に見る厚生年金|平均月額が高い地域と低い地域
厚生年金の平均年金月額は、住んでいる地域によってどれくらい違うのでしょうか。厚生労働省年金局の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、都道府県別の金額を高い順・低い順に並べて確認します。
2.1 平均年金月額が高い都道府県【上位5都県】
- 神奈川県:17万457円
- 千葉県:16万5103円
- 東京都:16万3892円
- 奈良県:16万2292円
- 埼玉県:16万1752円
2.2 平均年金月額が低い都道府県【下位5県】
- 青森県:12万8129円
- 沖縄県:12万8819円
- 宮崎県:12万9224円
- 秋田県:12万9503円
- 山形県:13万1169円
47都道府県すべての金額は次のとおりです。
- 北海道:14万1069円
- 青森県:12万8129円
- 岩手県:13万2943円
- 宮城県:14万4920円
- 秋田県:12万9503円
- 山形県:13万1169円
- 福島県:13万6880円
- 茨城県:15万2963円
- 栃木県:14万9631円
- 群馬県:14万8666円
- 埼玉県:16万1752円
- 千葉県:16万5103円
- 東京都:16万3892円
- 神奈川県:17万457円
- 新潟県:13万8683円
- 富山県:14万4644円
- 石川県:14万1792円
- 福井県:14万787円
- 山梨県:14万4665円
- 長野県:14万4668円
- 岐阜県:14万9910円
- 静岡県:15万1960円
- 愛知県:16万766円
- 三重県:15万1949円
- 滋賀県:15万4456円
- 京都府:15万1483円
- 大阪府:15万6272円
- 兵庫県:15万9086円
- 奈良県:16万2292円
- 和歌山県:14万5933円
- 鳥取県:13万3459円
- 島根県:13万3918円
- 岡山県:14万6429円
- 広島県:15万745円
- 山口県:14万8166円
- 徳島県:13万4131円
- 香川県:14万4026円
- 愛媛県:14万301円
- 高知県:13万2202円
- 福岡県:14万5822円
- 佐賀県:13万4191円
- 長崎県:13万6825円
- 熊本県:13万2740円
- 大分県:13万6507円
- 宮崎県:12万9224円
- 鹿児島県:13万3343円
- 沖縄県:12万8819円
- その他:13万3788円
最も高い神奈川県と、最も低い青森県とを比べると、1カ月あたりの開きは4万円を超えます。年間に置き換えると50万円以上の差になりますので、地域による違いは小さいとはいえない大きさです。
ただし、この数字は「その地域に住むと年金が増える」ことを示すものではありません。差が生まれる理由は、金額の決まり方そのものにあります。
3. 厚生年金の受給額が決まる仕組み|報酬と加入期間の掛け算
厚生年金の計算には、現役時代に受け取った報酬(給与や賞与)と、制度に加入していた期間の長さが使われます。この2つの掛け算で積み上がるため、人によって金額の差が出やすい仕組みです。
報酬に応じて変わる部分(報酬比例部分)は、次の2つの合計で求められます。
- A(2003年3月以前):平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの加入期間の月数
- B(2003年4月以降):平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以降の加入期間の月数
式を見ると、金額を押し上げる要素は「報酬の水準」と「加入していた月数」の2つだとわかります。この2つが地域ごとにばらつくため、平均年金月額にも差が生まれます。
賃金の水準は都市部で高くなりやすく、また自営業として働く人の割合や、共働き世帯の多さも地域によって異なります。現役時代の働き方の違いが、そのまま平均年金月額の違いとして表れているわけです。
裏返せば、これから受け取る金額を動かせる余地は、働き方と加入期間のなかにあります。そして、公的年金の外側で自分なりの上乗せを用意する場合も、「毎月いくらを、何年続けるか」という積み上げの構図は変わりません。
4. 国民年金の平均月額|地域による開きが小さい1階部分
国民年金(老齢基礎年金)は、保険料を納めた月数だけで金額が決まります。報酬の多い少ないが反映されないため、厚生年金と比べると個人差も地域差も小さくなります。実際の数字を見ておきましょう。
4.1 都道府県別で見る国民年金(老齢基礎年金)の平均年金月額
- 北海道:5万8435円
- 青森県:5万7137円
- 岩手県:6万720円
- 宮城県:5万9532円
- 秋田県:5万9147円
- 山形県:6万827円
- 福島県:5万9922円
- 茨城県:5万9395円
- 栃木県:5万9544円
- 群馬県:6万564円
- 埼玉県:5万9007円
- 千葉県:5万9354円
- 東京都:5万8313円
- 神奈川県:5万9342円
- 新潟県:6万1957円
- 富山県:6万2989円
- 石川県:6万1923円
- 福井県:6万2290円
- 山梨県:5万9275円
- 長野県:6万2030円
- 岐阜県:6万1248円
- 静岡県:6万1150円
- 愛知県:6万34円
- 三重県:6万1403円
- 滋賀県:6万1172円
- 京都府:5万8206円
- 大阪府:5万7122円
- 兵庫県:5万9138円
- 奈良県:5万8961円
- 和歌山県:5万7784円
- 鳥取県:6万1502円
- 島根県:6万2287円
- 岡山県:6万1564円
- 広島県:6万991円
- 山口県:6万1120円
- 徳島県:5万8797円
- 香川県:6万1718円
- 愛媛県:5万9792円
- 高知県:5万7926円
- 福岡県:5万8300円
- 佐賀県:6万1084円
- 長崎県:5万8617円
- 熊本県:5万9907円
- 大分県:5万8397円
- 宮崎県:5万9234円
- 鹿児島県:5万9659円
- 沖縄県:5万4217円
- その他:3万785円
金額はおおむね5万円台から6万円台に収まっており、全国平均は5万9431円です。厚生年金のように4万円を超える開きは見当たりません。1階部分は納付月数だけで決まる仕組みなので、地域によって大きく変わらないわけです。
もっとも、この水準だけで日々の生活費をまかなうのは、多くの家計にとって簡単ではありません。厚生年金と国民年金を合わせて月15万円以上を受け取っている人がどれくらいいるのかは、【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイントで確認できます。
2階部分の上乗せが少ない働き方をしてきた方ほど、現役のうちから自分で用意しておく部分の役割が大きくなります。だからこそ、副業などで手元に入るようになった収入をどこへ振り向けるかという判断が、そのまま将来の差につながっていきます。
世帯ごとの貯蓄額がどのあたりに分布しているのかについてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」
5. 【独自試算】増えた収入を「手元」「返済」「積立」に振り分けると、20年後はどう変わるか
副業などで毎月いくらかの収入が増えたとき、その使い道は大きく3つに分かれます。手元にそのまま置いておくか、住まいの借入の返済に充てるか、積立に回すかです。20年という時間を置いたとき、この3つの結果がどう違いうるのかを試算してみます。
5.1 3つの振り分け方に置いた前提
前提は次のとおりです。
- 毎月振り向ける金額:2万5000円
- 期間:20年(240カ月)/振り向けた元本の合計は600万円
- 手元に残す場合:年0.1%で置いておくものとして計算
- 借入の返済に充てる場合:借入金利を年1.5%と置き、返済に回した分だけ将来の利息負担が軽くなる効果を、年1.5%で増えたものとみなして計算
- 積立に回す場合:想定利回りを年3%として計算
- 計算方法:毎月末に一定額を振り向け、月利で複利計算。税金・手数料・繰り上げ返済にかかる費用・インフレの影響は考慮しない
月利は年利を12で割るのではなく、年利から12乗根を用いて求めています(月利=(1+年利)の12分の1乗-1)。年3%の場合、月利は約0.2466%です。
5.2 20年後の金額を並べてみる
- 手元に残した場合(年0.1%):約606万円(元本600万円との差は約6万円)
- 借入の返済に充てた場合(年1.5%相当):約698万円(差は約98万円)
- 積立に回した場合(年3%):約817万円(差は約217万円)
同じ毎月2万5000円でも、20年後の金額には約210万円の幅が出ます。手元に置いておく形は金額がほとんど動かない一方、いつでも使えるという性質があります。返済に充てる形は将来の利息負担が軽くなる効果を見込めますが、いったん返した分は原則として手元に戻りません。積立に回す形はこの試算では最も大きな金額になっていますが、想定利回りが実現する保証はありません。
5.3 有利さは借入金利と想定利回りの関係で入れ替わる
この並びを見て「積立が有利」と受け取るのは早計です。上の試算は、借入金利を年1.5%、想定利回りを年3%と置いた場合の結果にすぎません。
たとえば借入金利が年3.5%だった場合、返済に充てた効果は同じ条件で約862万円に相当し、年3%で運用した場合の約817万円を上回ります。借入金利が想定利回りを上回れば返済に充てる形が前に出て、下回れば積立に回す形が前に出る、という関係です。どちらが有利かは、この2つの数字の大小で入れ替わります。
さらに、運用側の結果は上下に動きます。年3%という数字は期間中ずっと同じ利回りが続いたと仮定した目安であり、実際には想定を下回る年も、積立元本を割り込む局面もありえます。一方の返済側は、金利が固定であれば効果の見通しが立ちやすいという違いがあります。同じ「増えた分」でも、確からしさの度合いが違う数字を並べている点は意識しておきたいところです。
また、3つのうち1つを選ばなければならないわけでもありません。急な出費に備える資金を手元に確保したうえで、残りを返済と積立に分ける、という配分も考えられます。手元・返済・積立に均等に振り分けた場合、この前提での20年後は約707万円という計算になります。
※上記は利回り・金利が期間中一定であると仮定した目安の試算です。実際の運用成果は市場環境によって変動し、想定を下回ることも、積立元本を割り込むこと(元本割れ)もあります。将来の運用成果を保証するものではありません。借入の条件や繰り上げ返済の取り扱いは契約によって異なり、税制上の取り扱いも改定されることがあります。実行にあたっては、借入先の窓口や専門家にご確認ください。
6. 監修者コメント:配分に唯一の正解はなく、比べるべきは2つの数字
増えた収入の使い道を考えるとき、「どれが一番得か」という問いから入ると答えが出にくくなります。記事の試算が示しているとおり、順位は借入金利と想定利回りという2つの数字の大小で入れ替わるためです。まずご自身の借入金利が何%なのかを確認するところからでも、判断の材料はずいぶん増えます。
もう1つ、性質の違いも比べる軸になります。返済によって軽くなる利息は、金利が固定であれば見通しの立つ金額です。運用によって増える見込みの金額は、前提を置いた推計であり、上下に動きます。同じ表に並べて眺めるときは、確からしさが違う数字が並んでいるという前提で見ていただくとよいかと思います。
手元に置いておく資金についても、金額が増えないという理由だけで低く評価する必要はありません。急な出費が生じたときに、運用している資産を値下がりした状態で取り崩さずに済む、という役割があります。生活費の何カ月分を手元に置くかは、収入の安定度や家族の状況によって変わりますので、一律の目安をあてはめるより、ご自身の事情から考えていただく形になります。
なお、住まいの借入に関わる税制上の取り扱いは、適用される期間や条件が個々の契約や制度改正によって変わります。繰り上げ返済のタイミングを検討する際は、ご自身の契約内容を確認したうえで、関連する窓口や専門家に確認していただく形になります。配分の答えは家計ごとに違いますので、記事の数字は考える順番の見取り図として使っていただければと思います。



