6. 40歳代に多い「以前決めた目標額が今の自分に合っているか分からない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・神田 翔平が伝えたいこと

老後資金の目標額は、一度決めるとそのまま置きっぱなしになりやすい数字です。よくあるご相談として、数年前に設定した金額を今も追いかけてはいるものの、その金額をどんな前提で計算したのかを思い出せないまま積立だけを続けている、という声が寄せられます。

6.1 40歳代に多いお悩み相談は「以前決めた目標額が今の自分に合っているか分からない」

40歳代(ご相談者)
以前、老後資金の目標額を数千万円規模と決めました。今も毎月、非課税で運用できる制度と、保障を兼ねた積立の両方で続けています。ただ、この金額が本当に必要なのか、今の積立額で間に合うのかが分かりません。目標額そのものを見直したほうがよいのか、どこから手をつければよいのかを知りたいです。

積立を止めているわけではなく、むしろきちんと続けている方ほど、こうした迷いを抱えやすいものです。続けてきた期間が長いぶん、決めた当時の前提と今の状況がずれていても気づきにくいためです。

6.2 【ファイナンシャルアドバイザー・神田 翔平が回答】目標額は前提の置き方で動く数字

神田 翔平
資産形成のプランは一度決めたら、常にそのプランを守り続けるわけではなく、資産状況の変化や、市場の変化によって形を最適化してあげる必要があります。
一度始めたら終わりというわけではなく内容をアップデートしながら進めていきましょう。
例えば、物価上昇率が想定よりも高くなってくることや、予定外の支出が見込まれそうなど、運用を計画した当初と実際の状況が異なることは多々あります。
5~10年スパンで見直しのタイミングを予定してあげてもいいかもしれませんね。

6.3 ポイント1:「受け取りながら運用を続ける」という前提に置き直す

目標額の計算でよく見かけるのは、退職する時点で必要な金額をすべて用意しておく、という前提です。この置き方をすると、老後に想定される支出をそのまま積み上げる形になり、目標額は大きく出ます。相談の場では、ここを「取り崩しながら、残った分は運用を続ける」という前提に置き換えて考えていただくことが少なくありません。使う分を引き出していきながら、まだ残っている資金は運用が続いている、という形です。ただし運用を続ける以上、価格変動によって元本割れが起こる局面もあります。生活費のうち値動きのある資金に任せる部分と、元本の安定を優先して持っておく部分は、分けて考えておく必要があります。

6.4 ポイント2:前提が変われば必要額も動くことを確かめる

前提を置き換えると、必要額そのものが動きます。取り崩している期間中も運用が続くと想定すれば、あらかじめ用意しておく金額は下がる可能性があります。反対に、想定した利回りに届かない年が続けば、必要額は増える方向に動きます。つまり目標額は一度出したら変わらない正解ではなく、前提しだいで上下する概算だという理解になります。相談では、以前の目標額をこの視点で置き直すところまでを一緒に行うことが多く、数字が動いた理由をご自身で説明できる状態になると、金額そのものへの不安は落ち着いていきやすいものです。

6.5 ポイント3:毎月出せる金額から逆算して案を複数そろえる

目標額が置き直せたら、次は毎月出せる金額のほうから見ていきます。目標額と期間が決まれば、毎月いくら必要かは逆算できます。その金額が今の家計から無理なく出せるようであれば、そのまま続けていただく形になります。出しにくいようであれば、積立の期間を延ばす、目標額をもう一度見直す、積立の中身を組み替える、といった方向が考えられます。相談の場では、毎月出せる金額をいくつかのパターンに分け、それぞれで何年後にどこまで届くかを並べてお見せするようにしています。案を1つに絞らず複数そろえておくと、家計の状況が変わったときに選び直せます。

前提と毎月の金額、この2つがそろうと、目標額は漠然と追いかける対象から、根拠を説明できる数字に変わります。なお、非課税で運用できる制度や保障を兼ねた仕組みは取り扱いが改正されることがありますので、組み替えを検討される段階では、最新の内容を所管の窓口や専門家にご確認いただければと思います。

7. まとめにかえて

60歳から90歳以上までの平均年金月額を追ってきました。厚生年金は65歳以降おおむね14万円台から16万円台、国民年金は5万円台から6万円台という水準でした。

ここから読み取っていただきたいのは、金額そのものよりも形の違いです。厚生年金は年齢や性別で差が出て、分布も9万円台から19万円台まで広く散らばります。国民年金は年齢による差がほとんどなく、6万円台に人が集中しています。この違いは、それぞれの制度で「何によって金額が決まるのか」が違うことから生まれています。

目標額が決まらないという声の多くは、意志の弱さではなく、引き算の材料が揃っていないことから来ています。生活費という一方の項は見当がついていても、公的年金というもう一方の項が空欄のままなら、差額は出ようがありません。ねんきん定期便やねんきんネットで自分の見込み額を確かめることが、目標額を決める作業の最初の一手になります。

そして目標額は、決めて終わりの数字ではありません。取り崩し方の前提、想定する利回り、働き方や家族構成が変われば、必要な金額も変わります。数年に一度は置き直すものだと考えておくと、一度決めた数字に縛られずに済みます。この記事の数字はあくまで全体の傾向であり、実際の必要額は一人ひとり異なります。ご自身の状況に当てはめて考える材料として使っていただければと思います。

参考資料