9月は、会社員の給与から差し引かれる社会保険料が切り替わる時期です。4月から6月に支払われた給与をもとに標準報酬月額が決め直され、9月から翌年8月までの1年間、その金額が使われます。
この標準報酬月額は、毎月の手取りを左右するだけの数字ではありません。将来受け取る厚生年金の額そのものを決める土台にもなります。実際の受給者を見ると、厚生年金の平均年金月額は15万289円です。
この記事では、2026年度に改定された年金額と、厚生年金の受給額が実際にどう分布しているのかを、厚生労働省の最新統計をもとに確認していきます。
なお、2026年度の年金額改定と厚生年金の受給額分布に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
- 2026年度の標準的な夫婦2人世帯の年金額は月23万7279円。前年度から4495円の増額
- 厚生年金の平均年金月額は15万289円だが、人数がいちばん多いのは月10万円台の層
- 月30万円以上を受け取る人は全体の約0.12%。平均額だけを基準に老後を考えると実態を見誤る
1. 2026年度の厚生年金はいくら増えた?夫婦2人で月23万7279円
公的年金の額は毎年度見直されます。2026年度は増額改定となり、その金額は2026年6月15日の支給分から反映されました。
まずは、国が示すモデル世帯の水準を確認します。
- 国民年金(老齢基礎年金(満額・1人分)):7万608円(+1300円)
- 厚生年金(夫婦2人分):23万7279円(+4495円)
年金は2カ月分をまとめて受け取る仕組みですので、この世帯であれば1回の振込額は47万4558円という計算です。
ただし、これは「男性の平均的な収入で40年間就業した会社員と、専業主婦」を想定したモデルにすぎません。共働き世帯や、途中で働き方が変わった人の受給額は、この金額とは別の水準になります。
1.1 増えた分がそのまま生活の余裕にならない理由
2026年度は国民年金が前年度比1.9%、厚生年金が同2.0%の増額でした。数字だけを見ると家計が楽になりそうですが、実感としてはそうなりにくい面があります。
年金額は本来、賃金や物価の動きに合わせて改定されます。ただし現行制度では、そこから一定の調整率を差し引いて伸びを抑える「マクロ経済スライド」が働きます。
2026年度がまさにその年度です。物価変動率は3.2%でしたが、年金の改定率は1.9〜2.0%にとどまりました。額面は増えていても、購買力ベースでは目減りしていることになります。
これは制度の不具合ではなく、将来世代の給付水準を確保するために設計された自動調整の仕組みです。増額のニュースを見たときは、伸び率と物価上昇率の関係までセットで確認しておきたいところです。
2. 厚生年金の平均は月15万289円。人数がいちばん多いのは「月10万円台」
モデル世帯の金額を見たところで、次は実際の受給者のデータを確認します。厚生労働省の最新の集計では、平均額と分布の両方が公表されています。
2.1 厚生年金の平均月額と受給額ごとの受給権者数
まず平均額です。国民年金部分を含んだ金額として、次のように公表されています。
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
男女で約6万円の差があります。厚生年金の額は加入期間と現役時代の報酬で決まるため、就業期間の長さや働き方の違いがそのまま反映されます。
続いて、1万円刻みの分布です。
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
この一覧を合計すると、受給権者は1608万5696人です。ここから読み取れることが3つあります。
1つ目は、人数がいちばん多い層が「10万円以上11万円未満」だという点です。111万2828人が該当し、全体の約6.9%を占めます。平均の15万289円とは5万円近い開きがあります。
2つ目は、月15万円未満の人が合計で約50.2%にのぼる点です。平均額に届かない人が半数を占めており、平均を自分の目安として使うと過大に見積もることになります。
3つ目は、高額受給者の少なさです。月30万円以上は1万9283人で、全体の約0.12%にとどまります。1000人に1人強という水準で、事実上の例外的なケースといえます。
月15万円という水準に届く人がどれくらいいるのか、私的年金での補い方まで含めた解説はこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント 日本の公的年金制度の仕組みをおさらい!ライフイベント別の年金手続き(転職・退職・住所変更・死亡)も
2.2 【試算】9月に標準報酬月額が1等級上がると、将来の年金はいくら増えるのか
冒頭で触れたとおり、9月からは新しい標準報酬月額が適用されます。ここが上がると保険料は増えますが、将来の年金も増えます。どの程度の関係になるのか、一定の前提を置いて試算してみます。
前提は、標準報酬月額が30万円から32万円へ1等級上がり、その状態が12カ月続く場合とします。賞与は考慮せず、厚生年金保険料率18.3%(労使折半で本人負担9.15%)、給付乗率は平成15年4月以降の期間に用いる5.481/1000を使います。
標準報酬月額が1等級上がると将来の年金はいくら増えるか4/6
出所:LIMO編集部作成
- 本人が負担する保険料の増加:2万円×9.15%=月1830円。12カ月で年2万1960円
- 将来受け取る老齢厚生年金の増加:2万円×5.481/1000×12カ月=年1315円(月約110円)
- 1年分の負担増を、増えた年金で取り戻すまで:2万1960円÷1315円=約16.7年
65歳から受け取り始めるとすると、82歳前後で負担分を回収する計算です。数字だけを見ると効率が悪く感じるかもしれません。
ただし、この保険料は会社が同額を負担しています。さらに、増えた記録は障害厚生年金や遺族厚生年金の計算にも反映されます。老齢年金だけで損得を測ると、実態より不利に見える点には注意が必要です。
なお、これは一定の前提を置いた目安の試算であり、実際の年金額を保証するものではありません。
3. 「払い損」と感じる前に。公的年金をめぐる3つの誤解
受給額の分布を見たあとは、制度そのものへの不安に触れておきます。年金については実態と異なる受け止め方が広まりやすく、そこが判断を誤らせる原因になります。
ここでは、よく耳にする3つの見方を整理します。
3.1 ①「年金制度はいずれ破綻する」は本当か
結論から言えば、現行制度は破綻を前提とした設計にはなっていません。
日本の公的年金は、現役世代が納める保険料で高齢者の給付をまかなう賦課方式が基本です。財源はそれだけでなく、国庫負担と積立金の運用益も組み込まれています。
加えて、5年ごとの財政検証で人口や経済の前提を置き直し、給付水準と制度の持続可能性を確認する仕組みがあります。
「破綻」という言葉が使われる背景にあるのは、少子高齢化への不安です。ただしそれは制度が消滅するという意味ではなく、給付水準が調整されうるという話と考えるほうが実態に近いといえます。
3.2 ②「保険料はこれからも上がり続ける」は本当か
厚生年金の保険料率は、2004年の制度改正で段階的に引き上げられてきましたが、現在は18.3%で固定されています。制度上の上限に達しているため、率そのものが青天井で上がる構造にはなっていません。
では財政はどう調整されるのかというと、保険料の引き上げではなく給付水準の調整によって均衡が図られます。
したがって、今後の負担感は保険料率よりも、受け取る年金額や受給開始時期、働き方との関係のほうに表れやすいと考えられます。
3.3 ③「払った分は戻ってこない」は本当か
払った額と受け取る額を比べたくなる気持ちは自然なものです。ただし、公的年金は金融商品ではなく社会保険である点は押さえておきたいところです。
厚生年金には、老後に受け取る老齢厚生年金だけでなく、障害を負ったときの障害厚生年金、亡くなったときに家族が受け取る遺族厚生年金も含まれます。
長生きすれば老齢年金を長く受け取れますし、早くに亡くなった場合でも要件を満たせば遺族年金が家族の生活を支えます。いつまで生きるか、いつ働けなくなるかは誰にも予測できません。
損得だけで評価すると、この保険としての機能を見落とすことになります。

