4. 【元銀行員の視点】窓口で多かったのは「非課税の意味が分からない」という相談
ここからは、資産運用の窓口にいた立場から、統計の数字の周りで起きやすいことを補足します。
筆者は元銀行員で、窓口業務と預金のほか、投資信託などの資産運用の相談も担当していました。
4.1 「何が非課税になるのか」でつまずく方が多かった
銀行員だった頃、「NISAという言葉は聞いたけれど、何が非課税になるのかが分からない」という声を聞くことがありました。
非課税になるのは運用で得た利益のほうで、預けた金額が所得控除されるわけではありません。掛金が全額所得控除になるiDeCoと混同されることもありました。
4.2 元本が保証されない商品を初めて持つときの確認
投資信託は預金と違い、元本が保証されている商品ではありません。窓口では、その点を確かめる時間が最も長くかかりました。
口座を開くことと、自分に合う商品を選ぶことは別の話です。統計で口座数が増えていても、それがそのまま活用につながっているとは限らないと考えます。
5. 【9月30日と10月1日】NISAの金融機関を変えるには期限がある
ここからは、いまの時期に関わる手続きの話です。NISA口座を持っている金融機関は変更できますが、その手続きには期限があります。
5.1 変更したい年の前年10月1日から、その年の9月30日まで
国税庁によると、変更後の金融機関にNISA口座を設けようとする年分の前年10月1日から、その年の9月30日までの間に「金融商品取引業者等変更届出書」を提出する必要があります。
つまり、2026年分の変更を考えている方は2026年9月30日までに、2027年分の変更を考えている方は2026年10月1日から手続きができることになります。
5.2 その年に買付があると、その年分の変更はできない
注意したいのは、変更前の金融機関のNISA口座で一度でも上場株式等の「買い付け」をしていると、その年分についての変更ができないという点です(※保有商品の売却のみであれば変更可能です)。
つみたての設定を入れたままにしていると、年の初めに買付が入っていることもあります。その場合は翌年分からの変更になります。
5.3 同じ年に2つの枠を重複して設けることはできない
国税庁は、同一年分に複数の「つみたて投資枠」および「成長投資枠」を重複して設けることはできないとしています。
手続きは、現在の金融機関に「金融商品取引業者等変更届出書」を提出して「勘定廃止通知書」を取り寄せたうえで、新しい金融機関に提出する流れになります。2か所とのやり取りや書類の郵送に1〜2週間かかるため、9月30日の期限ぎりぎりに動くと間に合わないリスクがあります。
5.4 変更しても、それまでの年分の口座は元の金融機関に残る
国税庁の資料には、令和6年分は金融機関A、令和7年分は金融機関B、令和8年分は金融機関Cと、年分ごとに別の金融機関にNISA口座がある例が示されています。
つまり金融機関を変えても、それまでの年分の口座は元の金融機関に残ります。口座が分かれると管理の手間は増えますので、変更する必要が本当にあるのかを確かめてから動くのが安全だと考えます。
6. 【見落としやすい届出】住所が変わったとき、名義人が亡くなったとき
NISAには、買付以外にも届出が必要になる場面があります。長く口座を持っている方ほど関わりが出てくる部分です。
6.1 氏名・住所・マイナンバーが変わったら非課税口座異動届出書
国税庁によると、NISA口座を開設した後に氏名、住所またはマイナンバーの変更があった場合は、遅滞なくNISA口座を開設している金融機関に「非課税口座異動届出書」を提出する必要があります。
提出の際には、住民票の写しやマイナンバーカードなどの本人確認書類の提示等も必要になります。
6.2 複数の金融機関に口座があるならすべてに提出が必要
前の章で見たとおり、金融機関を変更すると年分ごとに口座が分かれることがあります。
国税庁は、複数の金融機関でNISA口座を開設している場合、そのすべての金融機関に非課税口座異動届出書の提出が必要だとしています。1か所だけ出して済んだと思い込みやすい部分です。
6.3 名義人が亡くなったときは相続人が死亡届出書を出す
NISA口座を開設していた方が亡くなったときは、相続人が、死亡したことを知った日以後遅滞なく、その口座がある金融機関へ「非課税口座開設者死亡届出書」を提出する必要があります。
こちらも、複数の金融機関に口座があればすべてに提出が必要です。銀行員だった頃、相続の手続きは口座がどこにいくつあるかを確かめるところから始まることが多く、そこで時間がかかりました。
ご家族がどの金融機関にNISA口座を持っているかを、元気なうちに共有しておくと手続きは進みやすくなります。
7. 【令和8年度税制改正】NISAで選べる投資信託の範囲が広がる
もう一つ、制度そのものが動いている点にも触れておきます。
政府・与党が決定した令和8年度税制改正大綱の主要項目には、NISAに関する見直しが並んでいます。
7.1 つみたて投資枠の対象商品の要件を「株式又は公社債」へ
つみたて投資枠の対象となる公募株式投資信託のうち、指定指数に連動しないものについて、要件を「主に株式に投資するもの」から「主に株式又は公社債に投資するもの」に見直すとされています。
金融庁は、リスク許容度が高くない若年層や高齢層などが投資の第一歩を踏み出せるよう、債券中心あるいはバランス型の投資信託の選択肢の充実を図るものと説明しています。
7.2 定期売却サービスの手数料徴収が可能になる
現在、つみたて投資枠における売買手数料はゼロとされていますが、定期売却サービスに限り、通常必要と認められる手数料の徴収を可能とするとされています。
金融庁は、資産を運用しながらその成果を活用したいというニーズに応える観点から、定期売却サービスの普及に取り組む金融機関のシステム負担に配慮するものと説明しています。取り崩しを考える年代には関わりの大きい見直しです。
7.3 10年ごとの所在地確認は廃止される
これまで金融機関は、NISA口座の開設から10年経過時、その後は5年経過ごとに、顧客の氏名と住所を郵送などで確認することとされていました。確認ができない場合は新規の買付が停止されます。
大綱では、この定期的な確認に係る措置を廃止するとされています。ただし住所等の変更の可能性がある方から一定期間内に非課税口座異動届出書の提出等がなかった場合には、その口座に上場株式等を受け入れないという運用上の対応が取られます。
引っ越しをしたまま届出をしていない方は、確認が必要になる可能性があります。
シニア世代の貯蓄全体のなかで預貯金や有価証券がどう動いているかは、こちらの記事で確認できます。65歳以上無職夫婦「家計赤字と貯蓄2494万円の実態」を最新統計で深掘り。介護サービスは月20万6300円へ
8. まとめにかえて
2025年12月末時点のNISA口座2820万6434口座のうち、60歳代以上の3つの年代が31.4%を占めていました。金額でも6兆1140億円で、全年代の3割超にあたります。
一方で使い方には違いがあり、70歳代は買付額の84.1%が成長投資枠でした。1年間まったく買付がなかった口座も、70歳代では約半分にのぼります。
口座を持っていること自体は、活用できていることとイコールではありません。まずはご自身の口座がどの金融機関にあり、いまどの枠をどれだけ使っているのかを確かめるところからだと考えます。
金融機関の変更を考えている場合は9月30日という期限があります。商品の選び方や手続きの進め方に迷う場合は、取引のある金融機関の窓口で確かめてみてください。
参考資料
- 金融庁「NISA口座の利用状況に関する調査結果(令和7年12月末時点)の公表について」
- 金融庁「NISA特設ウェブサイト 利用状況調査」
- 国税庁「NISA口座の新規開設又は変更に関する手続等について」
- 金融庁「令和8(2026)年度税制改正について 税制改正大綱における金融庁関係の主要項目」
- 金融庁「NISAの利用状況の推移(グラフ)」
中本 智恵