7. 「もし判断できなくなったら、この資産は誰が管理するのか」ファイナンシャルアドバイザー・橋本優理に聞く、家族と共有しておく資産の整え方

70歳代を目前にした方とお話ししていると、お金を増やす方法よりも先に、「自分で判断や手続きができなくなったら、この資産はどうなるのか」というご不安をうかがうことが少なくありません。ここでは、ファイナンシャルアドバイザーの橋本優理さんに、相談の場で実際にお伝えしている整理の順番を伺いました。

7.1 ご相談で耳にするのは「認知症になったら、この資産を誰がどう管理するのか」

60代のお客様
個人年金保険や外貨建ての保険をいくつか持っていて、証券口座は開いたものの運用は手つかずのままです。少額でほったらかしにできるなら、NISAをやってみたい気持ちはあります。ただ、商品選びも画面の操作も自信がありません。それに、もし認知症になったら、この資産を誰がどう管理するのかも不安で、なかなか一歩を踏み出せないままでした。

商品の数が増えるほど、ご自身でも全体像が見えにくくなります。相談の場では、不安の正体が「わからないまま持ち続けている」状態にある、という整理に行き着くことが少なくありません。積立投資の考え方や、すでに加入している保険が物価上昇への備えとして働いていることを一つずつ確認していくと、次の一歩を落ち着いて考えられるようになる方もいらっしゃいます。

7.2 【ファイナンシャルアドバイザー・橋本優理が回答】増やす話に入る前に、まず「見える形」にする

橋本 優理
人生100年時代と言われるようになってから、介護や認知症の備えをより意識する方は増えています。
健康なうちに資産状況を整理し、家族にも状況を共有しておくことが大切です。
以前、親御さんが認知症になり、どんな契約をしているかどこにお金があるかわからない、とご相談を受けたことがあります。
利用できる窓口をご案内し、成年後見人の有無などをお伺いしましたが、ご家族の心理的な負担はすぐには消えません。
健康なうちに、ひとつずつ整理しておくことで、不安を解決できます。

7.3 ポイント1:持っている商品をすべて一覧に並べる

まず取りかかるのは、いま加入している保険や保有している資産を、もれなく一覧に並べることです。相談の場では、保険や預貯金、これから運用にまわす分を層のように積み重ねた図でお示しし、どの資産がどの役割を担っているのかを整理していきます。数を絞り込む前に全体像を描くと、重複している部分や手つかずのまま置かれている部分がはっきり見えてきます。

7.4 ポイント2:守る部分と増やす部分を分けて設計する

全体像が見えたら、次は資金の役割を分けて考えます。株式と債券では値動きの性質が異なるため、その違いを基礎からご説明し、性質の異なるものを組み合わせる考え方をお伝えしています。すでにお持ちの保険が物価上昇への備えとして働いている点も確認したうえで、足りない部分を少額の積立で補う形に整えていきます。元本の安定を優先する資金と、値動きを受け入れて収益を狙う資金とを、あらかじめ切り分けておくという視点です。

7.5 ポイント3:頼れる窓口を決め、整理した一覧をご家族と共有する

ご相談の場で最後まで残りやすいのが、判断や手続きが難しくなったときに資産の管理をどうするのか、という点です。手続きを一緒に進める窓口を決めておくこと、そして整理した一覧をご家族にも見ていただける状態にしておくこと。この二つを合わせておくと、ご本人が動きにくくなったときにも、資産の所在と役割が周囲に伝わります。一人で抱え込まない形をつくっておくことが、ここでは大きな意味を持ちます。

7.6 ポイント4:取り崩しが近い年代ほど、値動きと解約条件を確認しておく

投資信託や株式は預貯金と違い、値動きによって元本を下回る可能性があります。保険も途中で解約すると、受け取れる金額が払い込んだ額を下回ることがあります。取り崩す時期が近づく年代ほど、内容をご自身で納得できる範囲にとどめて選ぶことが大切です。運用の成果が約束されているものではない、という前提は、どの商品を選ぶ場合でも変わりません。

7.7 制度を利用する前に、最新の取扱いを窓口で確認してください

判断能力が低下したときの財産管理に関する公的な仕組みや、NISAをはじめとする税制優遇の制度は、利用できる要件や金額の上限、手続きの期限などが、個々の状況や制度の見直しによって変わります。この記事でご紹介しているのはあくまで一般的な考え方であり、確定した内容をお伝えするものではありません。実際に利用を検討される際は、金融機関の窓口や自治体・公的機関の相談窓口、税理士などの専門家に、最新の取扱いを必ずご確認ください。

必要な資金額や適した進め方は、資産の状況やご家族の事情によって一人ひとり異なります。契約内容や解約条件をご確認のうえ、個別の判断については専門家にご相談ください。

8. まとめにかえて

65歳以上の無職世帯は、夫婦のみで毎月約4万2000円、単身で2万9980円が不足していました。いずれも不足分は貯蓄から取り崩すことになり、夫婦では10年で約500万円、単身では約359万7600円という規模になります。

そして公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のうち、収入のすべてが年金という世帯は41.3%。年金が総所得の8割以上を占める世帯まで広げると58.4%に達します。年金を主軸に家計を組み立てている世帯が、大多数だということです。

受給額そのものには大きな幅があります。厚生年金の平均は15万289円ですが、男性16万9967円と女性11万1413円では6万円ほどの差があり、分布は1万円未満から30万円以上まで広がっていました。国民年金は6万円台に人が集中し、上へ伸びる余地は限られます。

年金額は原則として後から変えられません。だからこそ、額面ではなく手取りで収支を把握し、支出と資産の使い方で調整していくことになります。まずはねんきん定期便やねんきんネットで見込み額を確認し、振込通知書で天引きの内訳を見ておく。そのうえで、資産の所在と内容をご家族と共有しておくことが、この年代で着手できる備えになります。

参考資料

橋本 優理