3. 年収別シミュレーション:医療費100万円の月はいくら変わる?
具体的にどれくらい負担が増えるのか、1か月の医療費(保険診療の総額)が100万円かかったケースで比べてみましょう。年収約370万〜約770万円の方(区分ウ)の場合、計算式の基準額も見直され、自己負担額は以下のようになります。
- 2026年7月まで:8万100円+(100万円−26万7000円)×1%=8万7430円
- 2026年8月から:8万5800円+(100万円−28万6000円)×1%=9万2940円
- 差額:+5510円(約6.3%の負担増)
年収約770万〜約1160万円、約1160万円〜の各区分についても、定額部分だけでそれぞれ1万1700円、1万7700円の引き上げとなっており、所得が高い区分ほど引き上げ幅が大きい設計です。一方、住民税非課税世帯の引き上げは1500円にとどまっており、低所得層への配慮がなされています。
4. 新設「年間上限」とは何か
これまでの高額療養費制度は「1か月単位」の上限のみで、直近12か月に3回以上上限に達すると4回目から負担が軽くなる「多数回該当」の仕組みはあるものの、月をまたいで少しずつ医療費がかかるケースでは、多数回該当の対象にならず、負担が積み重なる問題がありました。
そこで新設されたのが「年間上限」です。2026年8月から2027年7月までの1年間の自己負担合計が、所得区分ごとに定められた年間上限額(例:年収約370万〜約770万円の区分で53万円)に達した場合、それ以上の自己負担は不要になります。厚生労働省の試算では、これまで多数回該当に届かなかった長期療養者について、年間で数万円規模の負担減になるケースが示されています。
5. 【注意】マイナ保険証があっても一部「償還払い」が発生する
ここが今回の改正で見落とされがちなポイントです。
月額の自己負担上限については、マイナ保険証を提示して限度額情報の提供に同意すれば、従来どおり限度額適用認定証の申請なしで、窓口での支払いを上限額までに自動的に抑えられます。
一方、新設された「年間上限」は、厚生労働省の資料で「まずは患者本人からの申出を前提とした運用で開始する」と明記されています。つまり、年間上限は月額上限のように窓口で自動的に適用される仕組みではなく、当面は本人による申出があって初めて反映される運用でスタートします。年間上限を超えて支払った自己負担額は、保険者(協会けんぽや健康保険組合など)から「償還」、つまり後日の払い戻しという形で戻ってくる仕組みです。
さらに、年収約200万円未満の区分に該当する方に適用される年間上限41万円の特例については、令和9年(2027年)8月以降にまとめて償還払いされる運用が示されており、実際に手元にお金が戻るまでにタイムラグが生じる点にも注意が必要です。
マイナ保険証があるから安心」と思いがちですが、今回新設された年間上限は、当面は自分から申し出る運用です。長期の治療が続きそうな方は、待っているだけでなく、加入している健康保険に一度確認の連絡を入れておくと安心です。
「マイナ保険証があるから何もしなくても自動で安くなる」と思い込まず、長期の治療が続く見込みがある場合は、加入している医療保険(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村の国民健康保険窓口など)に年間上限の申出方法を確認しておくと安心です。
6. まとめにかえて
2026年8月から、高額療養費制度は月額上限の引き上げと、長期療養者を支える「年間上限」の新設という2つの大きな変更を迎えました。所得が高い区分ほど月額負担の増加幅は大きくなる一方、年間を通じた医療費の天井が明確になったことは、長期治療が必要な方にとって一定の安心材料といえます。
ただし、年間上限は月額上限と異なり、当面は本人からの申出を前提とした「償還払い」の運用です。マイナ保険証があるからと安心せず、ご自身の所得区分と年間上限額、申出の方法を加入医療保険の窓口で確認しておきましょう。
参考資料
- 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(リーフレット)」
- 厚生労働省保険局「高額療養費制度の見直しについて」令和7年12月25日、第209回社会保障審議会医療保険部会・第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会資料
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
村岸 理美

