16. 「収入を増やすか、負担を抑えるか」。ファイナンシャルアドバイザー・神田翔平に聞く、年金世代の判断軸の決め方

日頃のご相談で判断が難しくなるのが、収入を増やす選択と、公的な負担を抑える選択がぶつかって見える場面です。増やせば増やすほどよいとも、抑えれば抑えるほどよいとも言い切れないため、迷いが生じます。ここでは、年金以外の収入について相談に訪れた方の一事例をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの神田翔平さんに伺った考え方を紹介します。

16.1 増やすほうがいいのか、抑えるほうがいいのか。年金世代が決めきれない理由はどこにあるのか

年金が家計の柱になると、それ以外にも安定した収入がほしいという思いが出てきます。一方で、所得が増えることで医療費の自己負担割合や、住民税の課税・非課税の区分が変わるのではないかという不安もあり、動けなくなってしまう。相談の場では、次のような声をうかがいます。

70代(ご相談者)
預金に置いておくだけでは増えないので、年金以外の収入がほしいと思っています。ただ、収入が増えたことで医療費の負担が重くなるのであれば、かえって手取りが減ってしまうのではないかと心配です。

迷いの原因は、増えた収入がどの判定にどう影響するのかが分からないことにあります。影響があるのかないのかを先に確認してから決める、という手順にすると判断がつきやすくなります。逆に言えば、確認しないまま「増やすと損らしい」という印象だけで決めてしまうことが、いちばん避けたい進み方です。

16.2 【ファイナンシャルアドバイザー・神田翔平が回答】感覚で決めるか、数字で確かめてから決めるか

神田 翔平

公的制度は明確に対象者が決められています。まずはご自身に当てはまる制度や、収入制限について調べてみましょう。
そのうえで、収入を増やしたことで、制度の対象外になってしまったり収入制限に該当してしまったりするのかどうかを比較してみましょう。

「収入を増やすか」「負担を軽減させるか」は明確に数字で比較ができます。そのうえで、ご自分の世帯条件にはどちらにメリット・デメリットがあるのかを考えていきましょう。

特に制度上の情報については一般論だけでは該当しない場合もありますので、改めてご自分の状況で考えていきましょう。

この判断は感覚では決まりません。数字で確認する手順を踏むことが近道です。ご相談のなかでは、次の三つの順序でお話しすることが多くあります。

16.3 ポイント1:どの制度に関わるのか、それとも関わらないのか。まず対象を絞る

医療費の自己負担割合、介護保険料、住民税の課税・非課税の区分など、影響先はそれぞれ判定のしくみが異なります。まずはご自身に関係する制度がどれかを絞り込むところからです。特に住民税が非課税かどうかの取り扱いは、収入の金額だけで決まるものではなく、収入の種類やご家族の構成、お住まいの自治体の定めによって異なります。ここを一般論で当てはめてしまうと判断を誤りやすいため、ご自身が該当するかどうかは、お住まいの自治体の窓口や税理士など、制度を扱う専門家にご確認ください。

16.4 ポイント2:判定に関わるのか、関わらないのか。試算して見比べる

対象が絞り込めたら、増える見込みの収入がその判定に関わるのかどうかを試算します。判定に関わらないのであれば、その制度を理由に収入を増やすことをためらう必要はありません。関わる場合は、増える手取りと増える負担の両方を並べて比べることになります。ここで大切なのは、負担が増えること自体を避けるべきものと考えないことです。負担が増えても手元に残る金額が上回ることもあれば、その逆になることもあり、どちらになるかはご家庭の収入や家族構成によって変わります。

16.5 ポイント3:一度に受け取るか、分けて受け取るか。受け取り方も選択肢になる

同じ運用でも、課税の取り扱いや受け取る時期によって、判定への影響の出方は変わります。一度にまとめて受け取るか、複数年に分けて受け取るかという選択肢も含めて検討すると、判断の幅が広がります。ここで挙げているのはあくまで考え方の選択肢であり、特定の商品や受け取り方をおすすめするものではありません。実際にどの方法が合うかは、必要な資金の時期やご家庭の状況によって変わります。

なお、医療費の自己負担割合、介護保険料、住民税の課税・非課税の区分といった各種の判定は、所得の種類やご家族の状況によって取り扱いが異なり、制度改正によって変わることもあります。この記事では具体的な金額の基準や控除の額には触れていません。ご自身が該当するかどうかや実際の金額は、お住まいの自治体や加入している医療保険の窓口、税務署、税理士などに必ずご確認ください。また、運用商品には元本割れの可能性があり、外貨建ての商品には為替変動の影響があります。前提となる収入や家族構成、必要な資金の時期は一人ひとり異なり、手元に残る金額がどう変わるかも個々の条件によって違ってきます。ご自身の状況に当てはめて考える際は、商品の内容や手数料、解約の条件もあわせて確認したうえで、個別に専門家へご相談ください。

参考資料