8. NISAの増額だけでは見えない、夫婦の老後資金。ファイナンシャルアドバイザー・菅原美優が示した世帯単位の見直し方

夫婦で老後の資金をどのように準備していくか、お互いの資産状況や運用方針をどうすり合わせるべきか。こうした悩みは、実際の相談の場でもよく聞かれます。それぞれが別々に管理していると、世帯全体でどれくらいの備えができているのかが見えにくくなるためです。ここからは、教育費の負担が一段落した40代の方の事例をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの菅原美優さんに伺った考え方をご紹介します。

8.1 教育費の山を越えた40代女性が、次に気づいたこと

40代のお客様
上の子が社会人になって教育費の負担が減ってきたので、このタイミングで自分のNISAの積立額を増やしたいと思っています。ただ、下の子の教育資金に備えて、手元の資金を大きく減らすことには慎重でいたくて。将来に向けて少しでも資産を増やしておきたい、という思いはあります。自分名義のNISAや保険での積み立ては着実に進めてきたのですが、夫が職場の制度で運用している分も含めた世帯全体の老後資金となると、まだ十分に整理できていません。自分一人の運用だけで老後に備えられるのか、夫婦としてどう資産形成を進めていけばよいのか、迷っています。

それぞれが別々に管理していると、世帯としてどれくらいの備えができているのかは見えにくくなります。相談の場では、片方の運用を整理し始めたところで、もう片方が見えていないことに気づく——という流れをよく目にします。

8.2 【ファイナンシャルアドバイザー・菅原美優が回答】自分の運用を整えたら、次は世帯で見る

菅原 美優
様々な金融商品や運用手段がございますが、運用において一番大切なことが、ご自身の目的や状況に合った方法を取り入れることです。そのため、まずは目的に応じて資産の性格を分けると良いでしょう。また、受け取るときの税金やコストまで踏まえた出口戦略を考えることも、最終的に受け取る手取り額を守るうえでは重要です。自分自身が保有している商品の特性を確認したうえで、夫婦で運用状況を含めた、世帯全体の資産のすり合わせをしていきましょう。そこで初めて、世帯で何が足りていて、何が足りていないのかが見えてくるでしょう。

8.3 ポイント1:目的に応じて、資産の性格を分ける

まず見直したいのは、目的に応じて資産の性格を分けることです。この方は当初、NISAの増額のみを検討されていました。しかし相談を通じて、「NISAでの運用を増やすだけでなく、値動きの安定したものも組み合わせて、将来の資金を確実に準備していきたい」という方向へ考えが移っていきました。

株式を中心とした運用だけに寄せるのではなく、値動きの穏やかな資産も組み合わせる。教育資金のように使う時期が決まっている資金と、老後資金のように時間をかけられる資金とでは、置き場所の選び方が変わってきます。

ただし、値動きが穏やかであることと、元本が保証されていることは同じではありません。振れ幅を抑えた資産は、その分だけ期待できるリターンも小さくなるのが一般的です。減らしたくない資金をどこまで守り、どこから増やしにいくのか。その線引きを目的ごとに決めておくことが、着実な準備につながります。

8.4 ポイント2:受け取り方まで含めて、商品の特性を確認する

そのうえで欠かせないのが、積み立てる商品の特性を理解し、将来の受け取り方まで見据える視点です。運用を続けるなかでこの方は、「分割で受け取ると税金やコストがかさむ場合があるので、一括で受け取る方が有利だと分かりました」と話されていました。ご自身の契約内容を確認した結果としての気づきです。

老後資金の準備には、非課税制度や保険など複数の手段を用いることが一般的ですが、受け取り時にかかる税金やコストの扱いは、制度や商品ごとに異なります。一括と分割のどちらが有利になるかも、加入している制度の種類や受け取る年齢、その年のほかの収入によって変わります。だからこそ、積み立てを始める段階から出口を意識し、自分の場合はどうなるのかを個別に確認しておくことが、最終的な手取り額を守るうえで欠かせません。

8.5 ポイント3:夫婦で制度と運用方針を共有する

また、ご自身の運用状況が整理できたことで、夫婦での情報共有という次の段階が見えてきました。「老後に向けたお金の準備は、夫婦でしっかり話し合っていく必要があると感じました」。夫の運用状況を含めた世帯全体の資産をすり合わせる必要性に、気づかれたのです。夫婦それぞれが別々に運用していると、世帯として見たときにリスクを取りすぎていたり、逆に保守的になりすぎていたりすることが少なくありません。互いに似た資産へ寄せていて、気づかないうちに偏りが生まれているケースもあります。

加入している制度の種類、積み立てている金額、どの程度の値動きなら受け入れられるか。この三つを共有するだけでも、世帯全体の姿はかなり見えるようになります。どちらか一方が管理を抱え込むのではなく、二人で把握しておくことが、将来の安心につながります。

夫婦の老後資金は、どちらか一方が管理を抱え込んだり、別々に進めてよしと決めつけたりする前に、お互いの資産状況と活用している制度を一つずつ突き合わせてみる。そこから初めて、世帯として何が足りていて何が足りないのかが見えてきます。

なお、適した資産の配分も、受け取り方による有利不利も、加入している制度や収入の状況、家族構成によって変わります。制度の利用や受け取り方を検討される際は、契約内容と税制上の取り扱いを確認したうえで、個別の事情に応じて専門家にご相談ください。

9. まとめにかえて

公的年金は国民年金と厚生年金の2階建て構造で、2026年度は4年連続の増額となりました。「標準的な夫婦世帯」の月額23万7279円という数字はあくまで一つのモデルであり、実際の受給額は加入期間や収入、男女によって大きく異なります。ご自身とパートナーの年金見込み額を「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認し、万一パートナーに先立たれた場合の年金額や、相続・生命保険の受取人設定についても、早めに考えておくとよいでしょう。

参考資料

菅原 美優