8. 60代から資産運用を始めるのは遅いのか。ファイナンシャルアドバイザー・渡邉珠紀が、預貯金と保険から見直した順番
60代を迎え、これからの生活や老後資金について不安を感じるという声をよくいただきます。定年退職や働き方の変化を機に、これまでの家計や資産状況を見直したいと考える方は多いようです。ここからは、ファイナンシャルアドバイザーの渡邉珠紀さんに伺った考え方をご紹介します。
60代に多い「貯めるだけでよいのか」という迷い

働き方が変わる時期を迎えて、これからの資産計画を考えるようになりました。毎月少しずつ貯蓄には回しているのですが、手元に残っている額は心もとない状態です。
その一方で、医療保険や介護保険などの保険料は毎月出ていきます。ただ銀行に貯めていく今のやり方で、将来の備えとして足りるのか。NISAなどの制度を使ったほうが効率的なのではないか、という迷いがあります。
これまで資産運用に触れる機会がなかったので、何から手をつければよいのか、今の支出に見直す余地があるのかを知りたいです。
預貯金だけで備えるやり方に迷いを覚えつつ、運用には触れてこなかった。この組み合わせは、60代で相談に来られる方に多く見られます。何から手をつけるかを決める前に、まずは現状を並べて眺めるところから始まります。
8.1 【ファイナンシャルアドバイザー・渡邉珠紀が回答】遅いかどうかより、順番を決める
何歳まで生きるのかわかればいいですが、予定よりも長生きした場合にお金が足りなくなる可能性もあります。
ここでは①期間を確保するために早めに取り組む②運用に回すお金を確保するために固定費の見直しを行う③始めるための準備を確実に行うことがポイントです。
運用を考えようと思ったが何を選んでいいのかわからず止まる。始めようと思ったがNISAなどの口座開設がうまくいかず止まる。開設したのはいいけれどどんな銘柄を選んでいいかわからないなどです。こういう時には専門家を頼るのも一つの方法です。
8.2 ポイント1:60代からでも、運用期間は確保できる
まず見直したいのは、60代からの資産運用に対する捉え方です。年齢的に今から始めるのは遅いのではないか、と感じる方は少なくありません。しかし「運用はなるべく長く続けることでリターンが増える傾向にあるので、早めに始めて長く続けるのがポイントです」という考え方に立てば、60代からでも時間を味方につける意識を持つことはできます。人生100年時代と言われるなか、60代はまだ運用期間を確保できる時期でもあります。ただし、これは長く持てば必ず増えるという意味ではありません。資金を使う時期が近いほど、値下がりしたときに回復を待てる期間は短くなります。そして何より、預貯金がまだ薄い段階で運用に資金を寄せてしまうと、急な出費に対応できなくなります。まずは当面の生活費と急な支出に備えるお金を手元に確保し、そのうえで無理のない範囲でNISAなどの制度を使っていく。この順番を守ることが、預貯金だけに頼らない備えを長く続けるための前提になります。
8.3 ポイント2:長年払い続けている保険料を点検する
そのうえで欠かせないのが、運用に回す資金を捻出するための家計の見直しです。とくに着目したいのが、長年払い続けている保険料です。年齢とともに必要な保障額は変わっていくため、いま契約している内容が今の暮らしに合っているかを点検する価値はあります。保障のために払う費用と、将来のために積み上げていく資金。この二つの役割を切り分けて考えると、負担を減らせる部分が見えてくることがあります。掛け捨ての保険料を抑えて浮いた資金を貯蓄や運用に回す方法もあれば、保障と資産形成の両方の性格を持つ商品を検討する方法もあります。ただし後者には、注意しておきたい点がいくつかあります。運用実績によっては解約時に受け取れる額が払い込んだ額を下回ること、保障のためのコストが継続的に差し引かれること、そして年齢が上がってから新たに契約すると保険料そのものが高くなりやすいことです。「解約しても多少は戻ってくるから」という理由だけで乗り換えると、かえって負担が重くなる場合もあります。また、いま入っている保障を解約すると、健康状態によっては同じ条件で入り直せません。どの形が合うかは、必要な保障額と、その資金をいつ使う予定なのかによって変わります。
8.4 ポイント3:手続きで止まってしまう前に、相談先を持つ
また、制度の仕組みや見直しの方向性が分かっても、いざ一人で手続きを進めるとなると手が止まってしまう。そうした反応をされる方は少なくありません。実際、口座を開設したまま運用を始められずに放置してしまうケースも見受けられます。この方も「保険についてはよくわかりました。NISAについても指導していただきたいです」と話されていました。仕組みを理解する段階と、実際に手を動かす段階は別物です。商品の選び方や、無理のない積立金額の設定について客観的な意見をもらえると、そこで止まらずに済みます。もっとも、どの商品にいくら配分するかを最終的に決めるのはご自身です。説明を聞いて納得できたかどうかを、そのつど確かめながら進めていくことが欠かせません。
60代からの資産計画は、もう遅いと決めつける前に、現在の支出と将来への備えを一つずつ整理してみる。家計から削れる部分を見つけ、長く続けられる形を選んでいくことが、これからの生活を支える土台になります。なお、必要な保障の大きさも、運用に回してよい金額も、収入や家族構成、健康状態によって変わります。保険の見直しや運用の開始を検討される際は、契約内容と解約時の条件、商品の手数料を確認したうえで、個別の事情に応じて専門家にご相談ください。
9. まとめにかえて
65歳以上・無職世帯の平均貯蓄額は2494万円で、6年ぶりに前年から減少に転じました。有職世帯を含めた65歳以上世帯全体でも、平均値2564万円に対し中央値は1777万円と約790万円の開きがあり、平均値だけでは実情がつかめないことが分かります。実際、60歳代の32.6%、70歳代の30.6%が「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と答えています。
毎月約4万2000円の赤字を貯蓄で埋めていく構図のなかで、大切なのは平均額との比較ではありません。ご自身の年金見込額と毎月の収支を突き合わせて不足額を把握し、当面の生活費を確保したうえで、無理のない範囲で備えを積み上げていく。この順番を守ることが、これからの暮らしを支える土台になります。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)―2025年(令和7年)平均結果の概要―(二人以上の世帯)」
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)―2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「第3 家計調査の貯蓄・負債編の見方」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- LIMO「【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説」
- LIMO「【2026年最新版】老齢年金一覧表「60歳代・70歳代・80歳代・90歳以上」の平均年金月額はいくら?手取りのリアルと5つの公的給付金」
渡邉 珠紀
