人手不足という言葉は毎日のように使われますが、どの業界でどれくらい足りないのかまで示されることは多くありません。
厚生労働省の「労働経済動向調査」は、事業所に対して労働者が不足しているか過剰かを四半期ごとに聞いています。令和8年5月調査の結果から、産業別の人手不足感を見ていきます。
全体では正社員等労働者の不足超過が47ポイント。ただし産業別に見ると、その差はかなり大きく開いています。
- 正社員等労働者の過不足判断D.I.は、調査産業計で47ポイントの不足超過でした。
- 不足感が強いのは建設業の59ポイント、医療,福祉の57ポイントです。
- パートタイムでは順位が入れ替わり、宿泊業,飲食サービス業が42ポイントで最も高くなります。
1. 正社員は47ポイントの不足超過
厚生労働省の「労働経済動向調査(令和8年5月)の概況」によると、令和8年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.は、調査産業計で47ポイントの不足超過でした。
内訳は、不足と回答した事業所が49%、過剰と回答した事業所が2%です。約半数の事業所が、正社員が足りないと答えていることになります。
2. 労働者過不足判断D.I.とは何を測った数字か
この調査でいう労働者過不足判断D.I.は、労働者数について「不足」(やや不足、おおいに不足)と回答した事業所の割合から、「過剰」(やや過剰、おおいに過剰)と回答した事業所の割合を差し引いた値です。無回答を除いて集計されています。
プラスであれば不足と答えた事業所のほうが多く、マイナスであれば過剰と答えた事業所のほうが多い、という読み方になります。
3. 不足感が強いのは建設業と医療、福祉
【図表1】産業別にみた正社員等労働者過不足判断D.I.(令和8年5月調査)1/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
産業別に見ると、最も高いのは建設業の59ポイントです。次いで医療,福祉が57ポイント、運輸業,郵便業が55ポイント、情報通信業と学術研究,専門・技術サービス業がいずれも54ポイントと続きます。
一方で低いのは卸売業・小売業の31ポイント、金融業・保険業の32ポイントです。最も高い建設業とは28ポイントの開きがあります。
調査産業計の47ポイントを上回ったのは、建設業、医療、福祉、運輸業、郵便業、情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業、サービス業(他に分類されないもの)の6産業でした。
ここで数えているのは事業所の数であって、足りない人数ではありません。1人足りない事業所も、10人足りない事業所も、同じ1件として集計されます。
つまりこの数字からは、どれくらいの割合の事業所が足りないと感じているかは分かりますが、全体で何人足りないのかは分かりません。人手不足の広がりを測る指標であって、深さを測る指標ではない、と言ったほうが近い気がします。
では、パートタイムではどうなっているのでしょうか。
4. パートタイムでは、不足感の強い産業が入れ替わります
パートタイム労働者過不足判断D.I.は、調査産業計で27ポイントの不足超過でした。不足と回答した事業所が30%、過剰が3%です。正社員等労働者の47ポイントと比べると、水準は低くなっています。
【図表2】正社員等労働者とパートタイム労働者の過不足判断D.I.2/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
注目したいのは、産業ごとの順位が入れ替わることです。パートタイムで最も高いのは宿泊業,飲食サービス業の42ポイントで、サービス業(他に分類されないもの)が41ポイント、生活関連サービス業,娯楽業が39ポイントと続きます。
逆に建設業は6ポイント、学術研究、専門・技術サービス業は9ポイント、情報通信業と金融業、保険業はいずれも10ポイントにとどまります。正社員では上位だった産業が、パートタイムでは下位に入っています。
宿泊業、飲食サービス業は、正社員が38ポイント、パートタイムが42ポイントで、パートタイムのほうが高くなっている数少ない産業のひとつです。
5. 直近3回の調査では、不足超過がわずかに弱まりました
正社員等労働者の過不足判断D.I.は、令和7年11月調査が49ポイント、令和8年2月調査が49ポイント、令和8年5月調査が47ポイントでした。パートタイムは28ポイント、28ポイント、27ポイントと推移しています。
いずれも不足超過が続いていますが、直近の調査ではわずかに縮んでいます。ただし3回分の数字であり、これだけで傾向が変わったと言い切れるものではありません。
6. この調査が聞いているのは、事業所の判断
数字を読むうえで押さえておきたい点がいくつかあります。
- 調査対象は事業所で、労働者数そのものではなく、事業所の過不足の判断を集計しています
- 「不足」はやや不足とおおいに不足の合計、「過剰」はやや過剰とおおいに過剰の合計です
- 無回答を除いて集計されているため、回答した事業所のなかでの割合になります
- 調査は四半期ごと(2月・5月・8月・11月)に行われ、5月調査は5月1日現在の状況です
また、この調査には都道府県別の集計はありません。地域ごとの状況を知りたい場合は、ハローワークの求人・求職を集計した一般職業紹介状況など、別の統計を見る必要があります。
7. まとめにかえて
産業別の人手不足感を、労働経済動向調査から見てきました。
- 正社員等労働者の過不足判断D.I.は、調査産業計で47ポイントの不足超過でした
- 不足感が強いのは建設業59ポイント、医療,福祉57ポイント、運輸業,郵便業55ポイントです
- パートタイムは27ポイントで、宿泊業,飲食サービス業の42ポイントが最も高くなります
- 正社員とパートタイムでは、不足感の強い産業が入れ替わります
人手不足という言葉でひとまとめにされがちですが、産業によっても、正社員かパートタイムかによっても、その度合いは大きく変わります。数字を引くときは、どの区分の話なのかを確かめておきたいところです。
なお、この調査が示すのは事業所の判断であり、必要な人数を表すものではありません。採用や労務の具体的な検討にあたっては、勤務先の人事労務部門や、都道府県労働局・ハローワークにご相談ください。
8. 【執筆者コメント】「人手不足」でひとまとめにできないこと
建設業は正社員が59ポイント、パートタイムが6ポイント。この差が、今回いちばん印象に残りました。
同じ人手不足という言葉でも、産業によって足りない人の種類が違うということです。建設業や情報通信業は正社員の不足感が強く、パートタイムの不足感は小さい。逆に宿泊業,飲食サービス業では、パートタイムのほうが正社員より高くなっています。
そうすると、効く対策も変わってきそうです。募集の仕方も待遇の見直し方も、正社員を増やしたい場合とパートタイムを増やしたい場合では別の話になります。
統計を読むときに「人手不足が深刻」という一言でまとめてしまうと、この違いが見えなくなります。私も、産業別の表を開くまでは正社員とパートタイムを分けて考えていませんでした。
自分の業界がどちらに当てはまるのかは、この調査の産業別の表で確かめられます。四半期ごとに公表されているので、時期による動きも追えます。
参考資料
中沢 新
