5. 配偶者と死別したら?2028年4月からの遺族厚生年金見直し
夫婦世帯の年金受給額は、それぞれが現役時代にどのような働き方をしてきたかによって大きく変わります。
会社員として働いてきた夫と専業主婦の妻では、夫の厚生年金と妻の基礎年金を合わせて生活しているケースがあります。一方、夫婦ともに会社員として働いてきた世帯では、それぞれに厚生年金があるため、夫婦合わせた年金収入は比較的多くなります。
- 会社員夫と専業主婦妻の場合:合計で約22万〜23万円(夫の厚生年金16万円+妻の国民年金6万円)
- 夫婦ともに会社員(共働き)の場合:合計で約26万〜30万円(夫の厚生年金16万円+妻の厚生年金10〜14万円)
夫婦がともに元気なうちは生活費を分担できますが、どちらか一方が亡くなると、世帯の収入は大きく変わります。特に、年金収入の大部分を担っていた夫が亡くなった場合、残された妻は自身の老齢年金に加えて、一定の要件を満たせば「遺族厚生年金」を受け取ることになります。
現行制度では、遺族厚生年金の額は原則として、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。たとえば、夫の老齢厚生年金の報酬比例部分が月10万円だった場合、遺族厚生年金は原則として月7万5000円となります。
ただし、2028年4月からは、この遺族厚生年金の仕組みが大きく変わる予定です。今回の改正では、男女間の制度上の差を解消するため、子どものいない一定の年齢層について、遺族厚生年金を原則5年間の有期給付とする仕組みが導入されます。
男性は、18歳年度末までの子どもがいない60歳未満の人が新たに5年間の有期給付の対象となります。女性については、2028年度末時点で40歳未満で、18歳年度末までの子どもがいない人が施行直後の対象となり、その後20年かけて段階的に対象年齢が広がります。
一方で、すでに遺族厚生年金を受給している人、2028年度に40歳以上になる女性、60歳以降に受給権が発生する人、18歳年度末までの子どもを養育している人などは、今回の見直しによる影響を受けません。
また、5年間で必ず給付が終了するわけではなく、5年経過後も、障害状態にある人や収入が十分でない人については、一定の要件を満たせば継続して遺族厚生年金を受け取れる仕組みが設けられています。さらに、5年間の有期給付には「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の約1.3倍となるよう給付額も拡充される見込みです。
今後の遺族年金を考える際には、「夫の年金の4分の3を妻がそのまま生涯受け取れる」と単純に考えるのではなく、夫婦それぞれの年金額、死別する年齢、子どもの有無、残された配偶者の収入などを踏まえて考える必要があります。なお、今回の改正は2028年4月からの施行が予定されているものであり、すでに遺族厚生年金を受給している人などには影響しない点にも注意が必要です。
6. 年金にプラスして受け取れる、5つの公的給付金
配偶者との死別に備える遺族厚生年金のほかにも、条件を満たせば年金に上乗せして受け取れる公的給付金があります。取りこぼしがないよう、代表的な5つの制度を確認しておきましょう。
6.1 ①年金版の家族手当「加給年金」と「振替加算」
厚生年金に原則20年以上加入している人が65歳になった時点で、生計を維持している65歳未満の配偶者や18歳未満の子どもなどがいる場合、年金に上乗せして受け取れるのが「加給年金」です。配偶者に対する加給年金は、特別加算を含めると年間約40万円台となりますが、配偶者自身に20年以上の厚生年金などに基づく受給権がある場合には、支給が停止されます。
その後、配偶者が65歳になると加給年金は終了します。ただし、配偶者が1966年4月1日以前生まれである場合には、今度は自身の老齢基礎年金に「振替加算」が上乗せされ、生涯にわたって受け取れる仕組みとなっています。
6.2 ②働き続けるシニアを支援「高年齢雇用継続給付」
60歳を過ぎても同じ会社で仕事を続けたり、再就職したりするなかで、60歳時点と比べて賃金が75%未満まで低下した場合に、雇用保険から受け取れるのが「高年齢雇用継続給付」です。賃金の低下率に応じて給付額が決まり、各月の給与の最大10%相当額を65歳に達するまで受け取れます。
6.3 ③退職したシニアの失業手当「高年齢求職者給付金」
65歳以上で仕事を辞めた人が、再び働く意思と能力を持ち、求職活動を行っている場合に受給できる、いわばシニア向けの失業手当が「高年齢求職者給付金」です。一般的な失業保険(基本手当)とは違い、複数回に分けて支給されるのではなく、一時金として最大50日分がまとめて支払われます。年金と同時に受け取れる点も大きなメリットです。
6.4 ④低年金者を一生涯サポート「年金生活者支援給付金」
消費税率の引き上げによる財源を活用し、公的年金などの収入やその他の所得が一定の基準額を下回る年金受給者に対して、生活を支える目的で年金に上乗せして支給されるのが「年金生活者支援給付金」です。所得や世帯全員が市町村民税非課税であることなどの要件を満たすと支給対象となり、支給額は基準額(老齢の場合は月額5620円など)をもとに、保険料の納付済期間などに応じて計算されます。
対象者には日本年金機構から請求手続きに関する案内が届くため、期限内に請求書を提出する必要があります。なお、支給要件は毎年確認されるため、収入や世帯の状況が変われば、支給額が変更されたり支給停止となったりする場合があります。
6.5 ⑤医療と介護のダブル負担を減らす「高額介護合算療養費」
毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間について、「医療保険」と「介護保険」で支払った自己負担額を、同じ世帯にいる同じ医療保険の加入者ごとに合算し、定められた限度額を超えた部分が払い戻される制度です。特に70代・80代でひとり暮らしになった場合や、配偶者の介護が始まった場合などには、医療と介護の負担が重なることによる家計への打撃を抑える重要な制度となります。
ただし、計算対象となる期間中に引っ越しをしたり、加入している医療保険が変わったりした場合には、自己負担額の情報が自動的に引き継がれないことがあります。その場合、以前加入していた保険者などから自己負担額証明書を取得する必要が生じるケースがあるため、注意しましょう。
7. まとめにかえて|年金を守りながら豊かなセカンドライフを送るために
ここまで、年代別に見た年金受給額の実態や、2026年に行われた制度改正による影響、さらに配偶者と死別してひとりになった場合に考えられるリスクについて見てきました。
「平均値」や「額面」に示された数字だけを見て安心してしまうと、実際の手取りが少なくなったり、必要な制度を申請し忘れたりすることで、老後資金が想定していたよりも早く底をつく可能性があります。
まずは自分が実際に受け取れる手取り額を正確に把握し、加給年金など利用できる公的給付金を取りこぼさないようにすることが大切です。今のうちから必要な制度について情報を集め、将来に向けた準備を進めておきましょう。
8. 監修者からのコメント
本文でご紹介した加給年金や高年齢求職者給付金、年金生活者支援給付金といった公的給付金には、共通する注意点があります。それは、これらの多くが「請求主義」であり、条件を満たしていても自動的に振り込まれるわけではないという点です。
年金生活者支援給付金のように日本年金機構から案内が届くケースもありますが、案内が来ない制度や、案内を見落としてしまうケースも少なくありません。届いた請求書は放置せず、早めに内容を確認することが大切です。
また、年金を含む多くの給付金には、原則5年の時効があります。時効を過ぎると、本来受け取れたはずの給付金を受け取れなくなってしまうこともあります。
該当しそうな制度があるか自分では判断しづらい場合は、年金手帳や雇用保険の被保険者証を用意したうえで、早めに年金事務所や年金相談センター、ハローワークの窓口へ相談することをおすすめします。
参考資料
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「大切なお知らせ、「ねんきん定期便」をお届けしています」
- 日本年金機構「ねんきんネット」
- LIMO「【2026年最新版】老齢年金一覧表「60歳代・70歳代・80歳代・90歳以上」の平均年金月額はいくら?手取りのリアルと5つの公的給付金」
池上 翠
