クマの出没に関するニュースを目にする機会が増えました。人身被害への注目が集まる一方で、農業の現場では作物への被害も長年の課題となっています。

野生鳥獣による農作物被害は、金額にするとどれくらいの規模になるのでしょうか。

農林水産省が公表している「全国の野生鳥獣による農作物被害状況」から、獣種ごとの被害額を確認していきます。

この記事の3つのポイント
  • 令和6年度の農作物被害額は187億5300万円で、前年度から23億9800万円(14.7%)の増加
  • 獣種別の最多はシカで78億5100万円、次いでイノシシが44億5600万円
  • クマは5億1900万円で、前年度から2億1900万円の減少

1. 鳥獣被害の総額は187億5300万円

まずは全体の規模から見ていきましょう。

農林水産省が令和7年12月に公表した資料によると、令和6年度(2024年度)の全国の野生鳥獣による農作物被害額は187億5300万円でした。前年度の163億5500万円から23億9800万円の増加で、率にすると14.7%増です。

金額以外の指標も同じ方向に動いています。被害面積は4万4300ha(前年度比4000ha増)、被害量は73万1400t(同21万9400t増)。被害量は前年度から4割以上増えており、金額の伸びを上回るペースです。

被害額は令和2年度が161億円、3年度が156億円、4年度が155億円、5年度が164億円と150億〜160億円台で推移してきましたが、令和6年度は188億円台に増加しました。

なお、この187億円という金額は、農業産出額全体と比べればごく小さな割合にとどまります。しかし、被害は特定の地域や特定の農家に集中して発生します。全国平均でならした数字と、被害に遭った農家一軒あたりの打撃はまったく別物である点は押さえておきたいところです。

丹精込めて育てた作物が収穫直前に食い荒らされる。金額に換算しきれない精神的な負担も、営農意欲の減退という形で農業に影響を与えています。

2. 獣種別ではシカが最多の78億5100万円

次に、どの動物による被害が大きいのかを見ていきます。令和6年度の主な内訳は次のとおりです。

  • シカ:78億5100万円
  • イノシシ:44億5600万円
  • カラス:13億6400万円
  • ヒヨドリ:8億600万円
  • サル:7億7000万円
  • アライグマ:6億9300万円
  • クマ:5億1900万円

被害額が最も大きいのはシカで78億5100万円。全体の4割超を占めています。次いでイノシシが44億5600万円、カラスが13億6400万円の順に多くなっています。

増加分の内訳を見ると、全体で増えた23億9800万円のうち、シカが8億9600万円、イノシシが8億2100万円。この2種で増加分の約7割を占めています。

伸び率で目立つのはヒヨドリです。前年度の3億3300万円から8億600万円へ、4億7300万円増えました。金額の規模ではシカ・イノシシに及びませんが、1年で2倍以上になっています。

3. クマの被害額は5億1900万円に減少

報道で目にする頻度が高いクマは、農作物被害額では5億1900万円。全体に占める割合は3%程度です。

前年度の7億3800万円からは2億1900万円の減少で、獣種のなかではシカ・イノシシ・サル・アライグマに次ぐ5番目。鳥類のカラス(13億6400万円)やヒヨドリ(8億600万円)よりも下に位置します。

ただし、金額が減ったからといって被害が縮小したとは言い切れません。クマによる被害量は前年度の2万9600tから3万2900tへ増えており、金額と量が逆方向に動いています。作物の種類や単価の違いによって、両者は必ずしも連動しません。

そもそもクマの出没は、主に人身被害や生活圏への侵入という形で問題になります。一方、シカやイノシシは日常的かつ広範囲に農地を荒らします。ニュースでの扱われ方と、統計上の農作物被害額は必ずしも一致しません。

4. シカとイノシシの被害が大きい理由

シカとイノシシで全体の6割超を占める背景には、個体数と行動範囲の広さがあります。

シカは群れで行動し、稲や牧草、野菜の若芽を広範囲にわたって食べます。農作物だけでなく、若木の樹皮を剥ぐことで森林にも被害を与えます。

令和6年度はシカの被害面積が3万5300haと前年度から5900ha増え、被害量も63万1700tと21万1400t増えました。全体の被害量の増加分のほとんどがシカによるものです。

イノシシは地面を掘り返す習性があり、作物を食べるだけでなく田畑そのものを荒らします。水田に入られると、収穫量の減少に加えて土壌の整備し直しが必要になることもあります。

いずれも繁殖力が高く、里山の管理が行き届かなくなったことで人の生活圏に近づきやすくなったといわれています。

5. 被害を防ぐための取り組み

鳥獣被害対策は、大きく3つのアプローチに整理されます。

ひとつは「侵入防止」です。電気柵やワイヤーメッシュ柵を設置し、農地に入れないようにする方法で、最も直接的な効果があります。

ふたつめは「個体数管理」です。捕獲によって生息数を適正な水準に近づける取り組みで、捕獲した個体をジビエとして活用する動きも広がっています。なお、捕獲には狩猟免許や許可が必要で、必要な手続きは自治体によって異なります。

みっつめは「生息環境管理」です。農地周辺の藪を刈り払って見通しをよくしたり、収穫しない果実を放置しないようにしたりして、動物が近寄りにくい環境を整えます。

これらを組み合わせて行うことが効果的とされていますが、いずれも手間と費用がかかります。高齢化が進む農村では、対策の担い手確保そのものが課題になっています。

6. 被害額に表れない「見えないコスト」

187億5300万円という数字は、あくまで作物そのものが失われた金額です。実際の負担はこれだけにとどまりません。

まず、防護柵の設置費用があります。農地の規模にもよりますが、電気柵やワイヤーメッシュ柵を張りめぐらせるには相応の初期投資が必要で、設置後も点検や補修が欠かせません。

次に、捕獲や見回りにかかる労力です。わなの設置と確認は毎日の作業になり、本来の農作業の時間を圧迫します。

そして、営農の断念という形での損失です。被害が続く農地が耕作放棄されれば、その分の生産は統計上「被害額」ではなく、単に生産の減少として表れます。藪が広がった耕作放棄地は動物の隠れ場所となり、周辺の農地の被害をさらに広げるという悪循環も指摘されています。

被害額の数字を見るときは、その背後にこうしたコストが積み重なっていることも意識しておきたいところです。

7. ジビエ活用という新しい流れ

一方で、捕獲した個体を資源として活かす動きも広がっています。

シカやイノシシの肉をジビエとして流通させる取り組みで、専用の処理施設の整備や、飲食店・小売店との連携が各地で進められています。ペットフードや皮革製品への活用も行われています。

捕獲は本来コストのかかる作業ですが、そこに収益が生まれれば、担い手の確保にもつながります。被害対策を「守り」だけで終わらせず、地域資源として循環させる発想といえるでしょう。

8. まとめにかえて

今回は、農林水産省の資料から野生鳥獣による農作物被害額を確認しました。

  • 全国の被害総額は187億5300万円(令和6年度)、前年度比14.7%増
  • 獣種別の最多はシカの78億5100万円、次いでイノシシの44億5600万円
  • クマは5億1900万円で前年度から2億1900万円の減少
  • 被害は特定の地域・農家に集中して発生する

なお、令和5年度の数値は令和7年12月に訂正されており、本記事は訂正後の数値を用いています。過去の記事や資料と数字が一致しない場合は、公表時期をご確認ください。

私たちが日々口にする食べ物の背後で、こうした被害と対策が続いています。数字を通して、農業の現場の一面に目を向けてみてはいかがでしょうか。

9. 【執筆者コメント】見かける頻度と、被害額の大きさは別だった

私は群馬県に住んでおり、この記事に出てくる動物は、どれも生活圏のなかにいます。クマは近隣で目撃情報が出ることがあり、他人事として読める話ではありません。シカは車を運転していると珍しくなく見かけますし、サルについては先日、隣の家の屋根の上を走っていくのを見かけました。

なかでも実害として身近なのはサルです。祖父が作っているトマトが、よく食べられてしまいます。収穫を待っていたものほど狙われるようで、そのたびに落胆している様子を見てきました。

その感覚でいくと、サルの7億7000万円がクマの5億1900万円を上回っているのは、なるほどと思える並びでした。

一方で意外だったのは、シカが78億5100万円で最多、全体の4割超を占めていたことです。見かける機会は多いものの、たいていは道路沿いや山際にいる姿で、農地を荒らしている場面を目にしたことはありません。被害量の増加分のほとんどがシカによるものだと知り、見かける頻度と被害の規模は別の話なのだと認識を改めました。

クマの被害額が前年度から減っていたのも意外でした。ただし被害量のほうは増えており、金額だけを見て判断するのは難しいようです。出没が農作物被害とは別の形で問題になるという点も、書きながら整理がついた部分です。

本文では被害が特定の地域や農家に集中すると触れましたが、その集中している側の風景は全国平均の数字からは見えにくいのかもしれません。トマトを食べられる程度で済んでいる立場でも、数字の背後を想像する手がかりにはなりました。

参考資料

中沢 新