3. 育児・家事は妻が夫の約4倍——厚生年金の加入期間を左右する時間配分

共働き世帯が増えたとはいえ、家庭内のタスク分担には依然として大きな偏りがあります。令和7年版「厚生労働白書・日本の1日」の調査では、6歳未満の子どもがいる家庭において、夫の家事・育児時間が1日平均「1時間54分」であるのに対し、妻は「7時間28分」でした。

妻が夫の約4倍もの時間を家庭に割いているという現実は、女性がキャリアを維持し、厚生年金に長く加入して将来の年金額を増やすうえでの大きな障壁となっています。年金制度の議論だけでなく、こうした「家庭内の働き方改革」が進まない限り、女性の老後資金格差を埋めるのは容易ではないでしょう。

4. 【ファイナンシャルアドバイザー・山﨑夏子が伝えたいこと】働き方を変える前に確認しておきたいこと

出産や育児をきっかけに働き方を変えるとき、目の前の家計と将来の年金を同時に考えるのは簡単ではありません。判断を急ぐ前に、数字で確認しておきたいことがあります。

4.1 子育て世代に多いお悩みは「時短にすると将来の年金はどれだけ減るのか分からない」

30歳代のお客様
子どもがまだ小さく、しばらくは時短勤務を続けるつもりです。ただ、収入が下がることで将来の年金がどれくらい減るのかが分からず、いっそ扶養の範囲に収めたほうがいいのか、それとも無理をしてでもフルタイムに戻るべきなのか、判断がつきません。年金のことまで含めて考えたいのですが、何を基準にすればいいのかが分からない状態です。

このように、目の前の手取りと将来の年金のどちらを優先すべきか決められず、働き方の判断を先延ばしにしてしまう方は少なくありません。

4.2 【山﨑夏子が回答】減る金額を先に知れば、判断はぐっと軽くなる

山﨑 夏子

減る金額には計算式があり、先に出しておけば、感覚ではなく数字で選べるようになります。

判断の軸は3つです。厚生年金に加入し続けられるかどうか、加入できない期間がどれくらい続くのか、そしてその間に別の形で積み上げられるものがあるかどうか。この順番で整理すると、扶養の範囲に収めるか働く時間を増やすかという二択の外側にも、選択肢があることが見えてきます。

大切なのは、いま下す判断が一生続くわけではないという点です。子どもの年齢が上がれば働き方は変えられます。数年単位で見直す前提で決めておけば、目の前の選択に必要以上の重みを持たせずに済みます。

4.3 ポイント1:厚生年金に「加入できているか」を最優先で確認する

収入の多寡よりも先に見たいのが、厚生年金の被保険者であり続けられるかどうかです。加入していれば、勤務時間が短くなっても2階部分は積み上がり続けます。反対に、扶養の範囲に収めて第3号被保険者になると、その期間は1階部分だけになります。勤務先の規模や労働時間によって加入要件は変わるため、まずは勤務先に確認してみてください。

4.4 ポイント2:加入できない期間の「長さ」を見積もる

仮に一時的に加入できない期間があっても、それが何年続くのかで影響は大きく変わります。数年であれば取り戻せる範囲におさまることも多く、逆に10年、20年と続くと差は無視できなくなります。期間の見込みを立てることが、判断の材料になります。

4.5 ポイント3:年金以外で積み上げられる部分を並行して確保する

働き方を優先して年金の積み上がりが鈍る時期があっても、NISAなどを使って別の形で準備を進めることはできます。金額の大小より、止めずに続けられる形にしておくことが大切です。世帯全体で見て、どちらか一方に負担が偏らない配分を考えてみましょう。

毎月の積立額と期間によって資産がどう変わるかについてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【月3万円×20年】預金と新NISAの資産差はいくら?『利回り5%の積立投資 VS 金利0.3%の銀行預金』シミュレーションで徹底比較 インフレリスクを踏まえ、『複利効果』のインパクトを解き明かす

4.6 【試算】時短勤務で月収が5万円下がる期間が5年あると、年金はいくら減る?

実際にどれくらい減るのかを、厚生年金の計算式にあてはめて見てみます。前提は「厚生年金には加入し続けたまま、平均標準報酬額が月5万円下がる期間が5年間(60カ月)あった場合」で、2003年4月以降の加入期間の計算式(平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数)を使います。等級区分や賞与の扱いは簡略化した、一定の前提を置いた試算です。

  • 減少する年金額:5万円 × 5.481/1000 × 60カ月 = 年1万6443円
  • 月額にすると:約1370円
  • 20年間受け取った場合の総額の差:約33万円

厚生年金に加入し続けた場合、仮にそのまま下がったとしても影響は月あたり約1370円にとどまります。なお、3歳未満の子を養育するための時短勤務であれば、「養育期間の従前標準報酬月額の特例」を申請することで、低下前の高い標準報酬月額で年金額を計算できるため、実質的に減額を防ぐことも可能です。

一方、同じ5年間を配偶者の扶養内(第3号被保険者)として過ごすと2階部分(厚生年金)がまったく積み上がらないため、年金への影響はこれよりずっと大きくなります。「時短で年金が減るのが不安」という悩みの答えは、時短かどうかではなく、厚生年金に加入し続けられるかどうか(そして特例制度を活用できるか)にあります。

5. まとめにかえて

本記事では、夫婦2人分の標準的な年金額が月額23万7279円であること、厚生年金の平均月額は〈全体〉15万289円で男性16万9967円・女性11万1413円と5万8554円の差があること、月30万円以上を受け取る人は全体の約0.12%にとどまることを確認しました。あわせて、第3号被保険者が約641万人で女性が約628万人を占め5年連続で減少していること、第1子出産後も53.8%が仕事を継続していることも見てきました。

年金額の差は、制度がつくったものではなく、働き方の積み重ねとして生まれます。平均額を眺めて終わるのではなく、ご自身と配偶者がそれぞれいくらの見込みなのかを、ねんきん定期便やねんきんネットで並べて確認するところから始めてみてください。

参考資料