6月1日に、今年度中に高校や大学を卒業する学生の採用選考が始まります。とはいえ、企業によって採用スケジュールは異なるため、すでに内定をもらっている人もいるのではないでしょうか。
公務員の採用スケジュールも、民間企業とは異なります。すでに申込が終了している春の2025年度国家公務員採用総合職試験は、申込者数が1万2028人となっています。現在は2次試験の最中で、合格発表は5月30日の予定です。
国家公務員の申込倍率は、依然として高めの傾向です。なぜ国家公務員は現代においても人気の職種なのでしょうか。この記事では、国家公務員が就職先として人気の理由や総合職合格者の出身大学を解説します。
1. 国家公務員とは?
公務員は、憲法で「全体の奉仕者」と定義される職業です。国や人々の生活を支え、経済・福祉・医療・環境、インフラといったさまざまな公的サービスを提供します。
国家公務員は、そのなかでも国の業務に従事する職業です。各省庁で働く職員に加え、内閣総理大臣や国務大臣、最高裁長官といった人々も国家公務員に該当します。
国家公務員の人数や役割、試験、採用の流れなどを確認していきましょう。
1.1 国家公務員の人数・組織
国家公務員は、公務員のうち約59万人です。公務員全体の人数は339万3000人で、全体の17.4%を占めます。地方公務員は全国各地で働いているため、国家公務員と比べると人数は少ないです。
一般職・特別職の人数はほぼ変わりません。約29万人が、給与法の適用対象である省庁職員や検察官などです。そして、残り約30万人が、大臣や裁判所職員、国会職員といった特別職です。
行政組織は、内閣のもとに各種省庁を設置する形式をとります。
気象庁や国税庁、海上保安庁などはすべて各省におかれる「外局」に分類されます。なお、会計検査院のみ、内閣からは完全に独立した機関です。
1.2 国家公務員の役割
国家公務員の仕事は、以下の3点が根幹です。
〈生活を守り豊かにするニーズの探索〉
- 地域から世界、地球から宇宙、未来を見据えたシーズの発掘
- さまざまな声に耳を傾け、必要な政策を模索
〈粘り強く着実な政策の形成・実現〉
- 政策・法令の立案、政策実現のための調整
- 国内にとどまらない世界規模の課題への挑戦
〈公正・確実な政策の実施〉
- 国民への行政サービスを提供するための予算、施設、人員の確保
- 政策の実行、指導、監視、フィードバック
誰もが暮らしやすい社会をめざして政策や法令をつくり、実現に向けてさまざまな調整を行います。政策の実行や監視、フィードバックといった政策実施も国家公務員の仕事です。
市区町村の役所・役場や警察署、学校などで勤務する地方公務員に比べ、国家公務員はどのような仕事をしているのか見えにくいものです。
一方、広い視野や傾聴力、政策の実行力などの能力が求められるため、国家公務員は国政運営において重要な役割を持っているといえるでしょう。
1.3 国家公務員の試験・採用の流れ
国家公務員の試験は、さまざまな区分に分かれています。
- 総合職試験:政策の企画及び立案又は調査及び研究に関する事務をその職務とする係員の採用試験
・院卒者試験
・院卒者試験(法務区分)
・大卒程度試験
・大卒程度試験(法務区分) - 一般職試験:政策の実行やフォローアップなどに関する事務をその職務とする係員の採用試験
・大卒程度試験
・高卒者試験
・社会人試験(係員級) - 専門職試験:特定の行政分野に係る専門的な知識を必要とする事務をその職務とする職員を採用する試験
・大卒程度試験
・高卒者試験
・社会人試験(係員級) - 経験者採用試験:民間企業等経験を有する者を採用する試験
高卒・大卒・院卒・社会人と区分が分けられています。総合職はいわゆる「キャリア官僚」とよばれる人々です。一般職は、政策実行や事務処理をする役割があります。
専門職とは、財務や労務、保安など特定の職種で専門知識を活かしながら業務をする公務員です。
採用までの流れは、以下のとおりです。
- 受験申込
- 第1次試験
- 第2次試験
- 最終合格発表
- 官庁訪問
- 採用
最終合格が発表されても、正式採用ではないのが特徴です。官庁訪問で各府省での面接を受けたうえで、採用が決定されます。試験に合格しても官庁訪問をしなければ、正式な採用には至りません。
採用後は、能力開発の場としてさまざまな研修機会が設けられます。なかには、国際協力の一環として国際機関に派遣される場合もあるようです。
次章では、国家公務員の申込者数について解説します。
2. 国家公務員の申込者数は減少?
国家公務員は毎年安定した人気を誇る職種ですが、申込者数は減り続けています。
現在行われている春の総合職採用試験は申込者数1万2028人と、昨年度(1万3599人)に比べて11.6%減少しています。昨年度秋の試験との合計は1万6762人で、前年(1万7613人)から4.8%減少しました。
過去の申込者数についても、2016年ごろから減少傾向です。
理由としては、業務内容に対する給与額の低さや、長時間労働などの労働環境の厳しさなどが挙げられます。「ワークライフバランスを充実させたい」という考え方から、過酷な労働環境を避けたい人が多いようです。
実際、現役の国家公務員の仕事は、勤める省庁や業務によっては激務です。とくに国会対応への不満が大きくなっています。人事院の調査によると、2021年度時点で31の府省が「国会対応への超過勤務の状況は前年度と全く変わっていない」9府省が「悪化した」と回答しています。
超過勤務は心身の故障などを招き、私生活にも影響をおよぼすものです。申込者数を増やすためには、各省庁の超過勤務を改善する施策が求められるでしょう。
次章では採用試験の申込倍率を見てみます。
3. 国家公務員の申込倍率
2024年度の国家公務員の申込倍率と受験倍率は、以下のとおりです。
国家公務員の申込倍率と受験倍率7/10
出所:人事院「2024年度国家公務員採用総合職試験(春)の合格者発表」、人事院「2024年度国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)及び専門職試験(大卒程度試験)の合格者発表」、人事院「2024年度国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)教養区分の合格者発表」をもとに筆者作成
3.1 2024年度春:申込倍率
〈総合職〉
- 7.0倍
〈一般職〉
- 3.2倍
3.2 2024年度春:受験倍率
〈総合職〉
- 5.7倍
〈一般職〉
- 2.3倍
3.3 2024年度秋:申込倍率
〈教養区分〉
- 10.1倍
3.4 2024年度秋:受験倍率
〈教養区分〉
- 6.6倍
目を惹くのは教養区分の申込倍率です。10.1倍と、全体のなかでもとりわけ高くなっています。
教養区分は専門試験の代わりに企画立案の能力などを見る試験を行っているのが特徴です。倍率が高いのは、申込対象者が19歳から1994年4月2日以降に生まれた30歳までと幅広いのが理由でしょう。
このほか、総合職は申込倍率が7.0倍と一般職の2倍以上の数値です。一般職も3.2倍と、狭き門であるといえます。
国家公務員の申込者は減少傾向にありますが、倍率は依然として高く、現代でも人気の高い職種であることが伺えるでしょう。
次章では、国家公務員が就職先として人気の理由を解説します。
4. 国家公務員が就職先として人気な理由
国家公務員が就職先として人気なのは、以下のような理由が考えられます。
- 雇用が安定している
- 福利厚生が充実している
- 公共のために働く仕事でやりがいを感じられる
それぞれの理由について、詳しく解説していきます。
4.1 雇用が安定している
国家公務員の大きな魅力として「雇用の安定性」が挙げられます。国家公務員の雇用主は国です。そのため、経済情勢や業績による人員削減などが行われず、解雇される可能性が低くなっています。
厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」によれば、労働者の離職率の平均は15.4%です。一方、人事院の「令和5年度 年次報告書」によれば、国家公務員の離職率は7.7%と平均離職率の半分以下です。
国家公務員も長期的な無断欠勤や入札談合への関与などがあれば懲戒免職の対象となりますが、不当な理由で解雇されることはそうありません。
転職が盛んになった現代でも、安定した雇用は国家公務員の魅力のひとつといえるでしょう。
4.2 福利厚生が充実している
福利厚生の充実具合も、国家公務員の人気の理由のひとつです。健康保険や年金制度、夏期休暇や病気休暇などの休暇などが用意されており、健康、老後の備えが万全です。
また、手当も充実しています。住居手当や通勤手当のほか、都心のような民間賃金の高い地域に赴任した国家公務員に支給される地域手当、在宅勤務時に支給される在宅勤務手当など、さまざまなものがあります。
とくに役職によって約4万円が支給される本府省業務調整手当は、民間企業では用意されていない手当です。
手当を含めた給与の平均(月額)は41万4801円となっており、民間企業の平均給与月額である38万3333円(※)よりも3万円多くなっています。
手当の充実は、給与の高さにも直結しており、安定した収入が得られるといえるでしょう。
※国税庁「令和5年度民間給与実態統計調査」の1年を通じて勤務した給与所得者の1人あたりの平均給与「460万円」を月額換算したもの。
4.3 公共のために働く仕事でやりがいを感じられる
「公共のために働ける」という公務員ならではの職務性質も、人気の理由といえるでしょう。人事院が2024年度の新規採用職員にアンケートをとったところ「国家公務員になった理由」の回答として、以下のような結果を得ています。
- 公共のために仕事ができる:73.6%
- 仕事にやりがいがある:56.3%
- スケールの大きい仕事ができる:54.9%
- 性格・能力が適している:31.7%
- 堅実で生活が安定している:18.6%
- キャリア形成として有効である:18.1%
- 専門性を身に付けることができる:12.0%
- 職場の雰囲気がよい:11.7%
公共のために仕事ができることが7割超、仕事へのやりがいが約6割となっています。多くの職員が、国家公務員になった理由として「仕事の性質」や「やりがい」を挙げているのです。
とくに国家公務員は国政の運営に携わる仕事であり、民間企業や地方公務員では経験できない業務が複数あります。業務のスケールも大きく「国の運営に関与できている」ことを実感しやすい職種といえるでしょう。
次章では国家公務員の主な出身大学について解説します。
5. 国家公務員(総合職)の主な出身大学
国家公務員の総合職では、試験の合格発表時に合格者の出身大学を公表しています。2024年度秋試験終了後に公表された結果を見てみましょう。
- 東京大学:345人
- 京都大学:179人
- 早稲田大学:119人
- 東北大学:90人
- 慶應義塾大学:88人
- 立命館大学:86人
- 大阪大学:72人
- 北海道大学:70人
- 千葉大学:68人
- 中央大学:62人
- 広島大学:58人
- 岡山大学:55人
- 一橋大学:53人
- 九州大学:52人
- 東京科学大学:49人
- 明治大学:45人
- 筑波大学:43人
- 名古屋大学:40人
- 東京理科大学:39人
- 神戸大学:35人
- 新潟大学:34人
- 日本大学:28人
- 東京農工大学:26人
- 大阪公立大学:26人
- 信州大学:25人
- 同志社大学:22人
- 東京海洋大学:21人
- 東京都立大学:19人
- 専修大学:18人
- 横浜国立大学:18人
- 東京農業大学:16人
- 岩手大学:13人
- 上智大学:13人
- 東京外国語大学:13人
- 弘前大学:12人
- 長崎大学:12人
- 愛媛大学:12人
- 鹿児島大学:12人
- 関西大学:12人
- 立教大学:12人
- 山口大学:11人
- 中京大学:11人
- お茶の水女子大学:11人
東京大学や京都大学出身など、旧帝大からの合格者が多くなっています。ただ、都心にある大学だけでなく地方の国公立大学からも合格者が出ており、北海道から九州までさまざまな地域から国家公務員が誕生しています。
とはいえ、採用となれば学歴による違いはほぼないでしょう。
キャリア官僚とよばれる総合職でも、入庁者は全員国家公務員として同じスタートラインからキャリアを歩みます。学歴よりも知識・能力・スキルが求められるといえるでしょう。
6. まとめ
国家公務員は申込者数こそ減少傾向ですが、雇用の安定性や手当をはじめとした福利厚生の充実、公共性のある仕事へのやりがいなどから、今なお学生の就職先の選択肢となっています。
社会人採用の枠も設けられており、第二新卒や経験者の採用にも積極的です。
一方、国家公務員の処遇改善も期待されます。雇用主である国が民間企業に追随するような賃上げをしたり超過勤務を改善したりするなど、申込者数を増やす工夫が重要となるでしょう。
参考資料
- 人事院「2025年度国家公務員採用総合職試験の申込状況等について」
- 人事院「国家公務員の紹介」
- 自由民主党「[国家公務員給与法]公務員全体の処遇改善が必要」
- 人事院「2024年度国家公務員採用総合職試験(春)の合格者発表」
- 人事院「2024年度国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)及び専門職試験(大卒程度試験)の合格者発表」
- 人事院「2024年度国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)教養区分の合格者発表」
- 人事院「国家公務員の諸手当の概要」
- 人事院「総合職試験等からの新規採用職員に対するアンケート」
- 人事院「2024年度総合職試験(院卒者試験・大卒程度試験)出身大学別合格者数一覧」
石上 ユウキ