4. バークシャー・ハサウェイとの比較で見える強みとリスク
会社の資料では、連続買収企業の比較対象としてダナハーが挙げられています。一方で泉田氏は、会社の説明に「しっくりきているかというとそんなこともない」としたうえで、むしろウォーレン・バフェット氏のバークシャー・ハサウェイに似ていると見ています。ソフトバンクグループも会社の資料に並んでいますが、同社は投資先を売ることがあるので違う、というのが泉田氏の整理です。
両社とも、良い会社を買って持ち続けるという点では共通しています。しかし、違いが2つあります。1つは投資の原資です。バークシャーが保険事業から得られる保険料を元手にしているのに対し、技術承継機構は買収先の企業が生み出すキャッシュフローと、そこから得られる信用力(借入)を原資にしています。
もう1つの違いが、投資先の分散度合いです。バークシャーが鉄道や電力など多様な産業に分散投資しているのに対し、技術承継機構はあえて「製造業」に特化しています。泉田氏はこの特化戦略について、次のように指摘します。
「バークシャーは産業を分散しているだけにそこは分散されたポートフォリオということなんだけど、ここは製造業にベットしてる」(泉田氏)
製造業に絞ることで専門的な知見が活き、グループ内でのノウハウ共有(ベストプラクティスの横展開)がしやすくなるというメリットがあると考えられます。一方で泉田氏は、景気循環の影響をグループ全体で一斉に受けるリスクがあると見ています(会社は、顧客業界が多様で特定の業界の変動に左右されにくいグループ構成だと説明しています)。
「製造業が調子良い時は普通に分散してるよりも全然リターン出ると思うんだけど、逆もまた然りなのでメリットでもありデメリット」(泉田氏)
リーマンショックのように製造業全体が落ち込むような大きな波が来たときには、グループ内の多くの企業が同時にダメージを受ける可能性がある点には注意が必要です。
5. まとめ:ビジネスモデルの真価と今後の観測点
技術承継機構の業績好調の裏には、「買ったら売らない」「製造業に絞る」という一貫した設計があります。この方針があるからこそ、優良な黒字企業から選ばれ、銀行から資金を調達し、独自のプログラム(NGP)で買った会社の価値を高めて次の買収につなげるという循環が回っていると考えられます。
ただし、この循環は製造業の景気に左右されます。製造業全体が落ち込む局面では、グループの多くの会社が同時に影響を受け、買った会社のキャッシュフローで次を買うという回り方そのものが鈍る可能性があります。また、譲受企業の顧客業界は多岐にわたる一方、会社は産業ごとの売上・利益を開示していないため、個々の会社の状態を外から確かめることは難しい点にも注意が必要です。
今後もM&Aのペースが維持できるか、そして買収した企業群がしっかりと増益基調を保てるかが、この成長ストーリーが続くかどうかの最大の観測点となります。
参考資料
- 株式会社技術承継機構「2026年12月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月14日)
- 株式会社技術承継機構「2026年12月期 第2四半期決算説明資料」(2026年8月14日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
各資料の入手先: 株式会社技術承継機構 IRライブラリ
※リンクは記事作成時点のものです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日