17. 50歳代に多い「源泉徴収ありの口座なら、翌年のことは気にしなくていいと思っていた」というご相談。IFA橋本 優理が伝えたいこと

50歳代は、働いてきた年数の分だけ、口座や商品が手元に増えている時期です。以前に買った株式がそのまま残っていたり、まとまったお金の置き場所を考えることになったりと、判断する材料が一度に増えます。前半でみたように、住民税が非課税になるかどうかは、その年に受け取った所得をどう合計するかで決まる仕組みですから、働き方や収入の形が変わる時期にさしかかると、去年と同じつもりでいた方ほど、翌年になって扱いが変わっていたことに気づきます。保険代理店で約300組のライフプランニングに携わってきた立場から申し上げると、ご相談で最初にうかがうのは、どの商品が有利かではなく、その利益がいつ、どの年の所得として数えられるかです。この順番を入れ替えるだけで、選び方が変わることがあります。相談の場では次のような声を耳にします。

17.1 50歳代に多いお悩み相談は「非課税で増やすのと、税金を払って着実に増やすのと、どちらを土台にすればいいのか分からない」

50歳代(ご相談者)

「以前から個別の株式をいくつか持っています。値上がりしたものもありますが、下がったまま手をつけられずにいるものもあって、そちらはずいぶん長いあいだそのままです。手元に少しまとまったお金ができたので、非課税で積み立てられる制度を使った投資信託と、債券のどちらから始めるかを考えているところです。

ただ、非課税の制度は儲かれば税金がかからないけれど、必ず儲かるわけではないと聞きました。債券は着実に増えるかわりに税金がかかるとも聞きます。証券口座を開くときに源泉徴収ありを選んでおけば、税金のことは自分で何もしなくていいのだろうと思っていたのですが、それで本当に翌年まで気にしなくていいのかが分かりません。どちらを土台にして、残りをどう振り分ければいいのでしょうか」

相談の場でも、非課税で増やす方法と、税金を払っても着実に増える方法のどちらを土台に置けばよいのか決めきれないという方に数多くお会いします。

17.2 【IFA橋本 優理が回答】「申告しなくていい」は「申告してはいけない」ではない

橋本 優理

資産運用をする際にどうしても気になるのが税金です。
しかし、非課税だから必ず良い、課税対象だから必ず悪い、ということはありません。
非課税で増やす枠を持ちながら、税金を払ってでもリターンを狙う資産を保有しておくのもひとつの選択肢です。
口座を開く際、源泉徴収ありにするかなしにするか、後回しにせずその場で決めることも大切です。
源泉徴収ありの設定であれば、別途利益を申告する必要は基本的にありません。

17.3 ポイント1:非課税で増やす枠と、税金を払って受け取る資産を、増え方の確かさで見比べる

まず見比べていただくのは、税金がかかるかどうかではありません。増え方がどれくらいあらかじめ決まっているか、です。運用の利益に課税されない制度は、増えた分に税金がかからないという点で確かに有利ですが、それは増えたときの話で、増えることそのものが約束されているわけではありません。値動きのある投資信託を非課税の枠で持てば、下がった年は下がったままです。一方、債券は満期まで持ち続ける前提であれば、あらかじめ決まった利息を受け取り、満期に額面が戻ってくることを見込める資産です。そのかわり、受け取る利息には税金がかかります。この二つを並べると、「非課税だけれど確実ではないもの」と「税金がかかるけれど見通しの立つもの」という対比になります。どちらが優れているという話ではなく、性質が違うということです。ご相談では、生活の土台に近い部分は見通しの立つほうに置き、増やす余地を狙う部分を値動きのあるほうに置く、という順序でお考えいただくことが多いです。すでに持っている個別の株式のうち、下がったまま動かせずにいる分をどう扱うかも、この物差しに乗せてから決めると迷いが減ります。

17.4 ポイント2:口座を開くときの「源泉徴収あり・なし」を、後回しにしないで決めておく

証券会社の口座を開くときには、税金の扱いを選ぶ欄があります。源泉徴収ありを選べば、売ったときの利益や受け取った配当から税金が引かれた形で手元に入り、その分については自分で申告しなくてよくなります。なしを選べば、自分で計算して申告することになります。ここを「あとで考えればいい」と流してしまう方が多いのですが、実際には、書類を返送して入金の手続きを進めるのと同じ場面で決めることになりますし、その年に一度でも売却や配当の受け入れがあると、その年のうちは切り替えられないのが一般的です。開設のときに一度決めた設定が、その年の記録の仕方を決めてしまうと考えてください。手続きそのものは、金融機関の案内に沿って進めれば難しいものではありません。返送する書類の種類や、入金してから買い付けができるようになるまでの流れも、あらかじめ聞いておくと、買いたいと思った日に動けます。設定の欄だけは、あとで直せる前提で選ばないことをおすすめしています。

17.5 ポイント3:値動きのある資産を支える土台を先に決め、その土台に残るリスクも確かめる

土台を先に決めるという考え方についても触れておきます。全体を値動きのあるものだけで組むと、使いたい時期に下がっていたときの逃げ場がありません。ですから、決まった利息を受け取れる資産を先に一定量置いて、その上に値動きのある部分を乗せる、という順序でお考えいただくことがあります。ただし、土台に置くものにリスクが無いわけではありません。債券は、お金を貸す先が返せなくなれば、元の額が戻ってこないという性質を持っています。格付けはその目安になりますが、格付けだけで安全と決まるものではありません。満期を待たずに現金に換えたい場合は、そのときの価格で売ることになりますから、受け取る額が買ったときを下回ることもあります。売りたいときに買い手がつきにくい種類のものもあります。外貨で発行されているものであれば、受け取る利息と満期に戻る額を円に直すときの相場によって、円で見た結果が変わります。土台という言葉から「減らない置き場所」を思い浮かべてしまいがちですが、確かめるのは減らないことではなく、どんなときにどれだけ動くのかが事前に見えているかどうかです。

17.6 ポイント4:源泉徴収で完結させるか、申告するかで、その年の利益の扱いが変わる

最後が、いちばん見落とされやすいところです。源泉徴収ありの設定のまま、その口座の中だけで税金が引かれて完結していれば、その利益は住民税が非課税になるかどうかの判定に入らない扱いとなるのが一般的です。ところが、同じ利益でも、こちらから申告に含めた場合は、その年の所得として合計される側に回ります。「申告しなくてよい」ということは、「申告してはいけない」ということではないのです。困るのは、この二つが同じ年に重なる場面です。たとえば、下がったまま持っていた株式を売って損が出た年に、別の口座で出た利益と相殺して払った税金を戻したいという動機で申告する。あるいは、その年に使いきれない損失を翌年以降に持ち越したいという動機で申告する。いずれも税金の面では理にかなっていますが、申告することによって、その年の利益が判定に加わる方向にも働きます。片方だけを見て決めると、戻ってきた税金より大きな影響が翌年に出ることもあります。ご相談では、その年に申告する動機があるかどうかを先に確かめ、動機がないなら口座の中で完結させておく、という整理の仕方もあります。申告した場合に判定がどう扱われるかは制度の細かい条件が関わりますので、実際に申告する前に、お住まいの自治体の窓口や税務署、税理士に確認してから決めてください。

非課税で増やす制度と、税金を払って着実に受け取る資産は、どちらかを選ぶものではなく、どちらを土台に置くかという順序の話です。そして口座の設定と申告の判断は、その年の記録の仕方を決める部分ですから、商品を選ぶより前に決めておいたほうが後戻りが少なくなります。これは一つの考え方であり、どの区分をどれだけ持つのが適しているかや、申告することで判定がどう動くかは、収入の内容や世帯の状況、加入している契約の条件によって異なります。まずは、いま持っている口座の源泉徴収の設定と、下がったまま残っている分があるかどうかを確かめるところから始めてみてください。そのうえで、申告に関わる判断は、自治体の窓口や税務の専門家に確認しながら進めることをおすすめします。

18. まとめにかえて

住民税が非課税になるかどうかは、収入の額そのものではなく、控除を引いたあとの所得を世帯で合計して決まります。神戸市の例では、単身なら合計所得45万円、同一生計配偶者が1人いる世帯なら101万円が基準額でした。源泉徴収ありの特定口座は、その口座の中で税の手続きが終わる設定ですが、こちらから申告に含めればその利益は合計される側に回ります。まずは手元の課税証明書と、証券口座の源泉徴収の設定を並べて確かめてみてください。そのうえで、申告に関わる判断は市区町村の窓口や税務署、税理士に確かめながら進めていただくのが確かです。

参考資料

橋本 優理