5. 金利が上がったと聞いて、預金の置き場所を見直し始めた。ファイナンシャルアドバイザー・中島 卓哉が語る、債券に移す前に確かめる順序
金利のある世界が戻ってきたと言われるようになり、預金に置いたままのお金をこのままにしておいてよいのかと気にされる60歳代の方が増えています。ここで一つ、混ざりやすいものがあります。前半でみたように、年金に上乗せされる公的な給付の基準となる額は、市場の金利ではなく物価の動きに合わせて改定される仕組みです。金利が上がったからその分だけ上乗せが増える、という関係にはありません。公的な上乗せは物価のものさしで動き、手元のお金の置き場所は金利のものさしで考える。実務でご相談を受けていて感じるのは、この二つを分けて置いたほうが、置き場所の話はずっと決めやすくなるということです。相談の場では次のような声を耳にします。
5.1 まとまった資金を債券に移そうと動き始めたものの、選ぶ基準が分からない

相談の場でも、金利の動きをきっかけに置き場所を見直し始めたのに、いざ選ぶ段になって手が止まってしまうという方に数多くお会いします。
5.2 【ファイナンシャルアドバイザー・中島 卓哉が回答】利率の高さで選ばず、自分が使う時期から逆算する
「金利が上がったから債券へ」と安易に飛びつくのは禁物です。
債券は満期まで持てば額面で戻りますが、途中売却時は金利変動によって価格が上下する仕組みを理解しておくことが大切です。
銘柄選びでは表面利率の高さだけに目を奪われず、「満期までの年数(残存年数)」と発行体の「信用度(格付け)」という2つの基準で絞り込むことが不可欠です。
特定の一本に集中させず、途中で換金する際の価格変動リスクや、外貨建て債券であれば為替の影響も確認しておく必要があります。
ご家族とも情報や方針を共有しながら順を追って検討することで、市場の金利動向に惑わされず、安心して資産運用を継続することができます。
5.3 ポイント1:金利が動けば債券の値段も動く、という仕組みを先に押さえる
債券は、お金を貸した証書のようなものだと考えてください。発行しているところにお金を預け、決められた時期ごとに利息を受け取り、満期になれば額面が戻ってくる。この形が基本です。ここまでは預金と似ていますが、決定的に違うのは、満期を待つ間も値段が付いていて、その値段が動くという点です。動かしている大きな要因が、市場の金利です。世の中の金利が上がると、あとから発行される債券のほうが高い利息を出せるようになるので、先に発行された低い利息の債券は、値段が下がることで釣り合いを取ります。逆に金利が下がれば、先に発行された債券の値段は上がります。つまり、金利が上がった局面というのは、これから買う人にとっては受け取れる利息が増える局面であり、すでに持っている人にとっては値段が下がる局面でもある。同じ「金利が上がった」というニュースが、立場によって逆の意味になるということです。この仕組みを先に押さえておくと、この後の選び方の話がすべてつながって見えてきます。
5.4 ポイント2:満期までの期間と、発行しているところの信用度という二つのものさしで絞る
一覧を眺めて手が止まってしまうのは、比べる軸が決まっていないからです。軸は大きく二つあります。一つは、満期までの残りの期間です。期間が長いものほど利息の水準は高くなりやすい一方で、途中で金利が動いたときの値段の振れ幅も大きくなります。ですから、期間は利回りの高さで選ぶのではなく、自分がそのお金をいつ使うのかから逆算して決めます。近いうちに使う予定があるなら短いもの、しばらく動かさないと決めているなら長いものも候補に入る。「なんとなく長いほうが得そうだ」でも「短ければ安心だ」でもなく、使う時期に合わせるという考え方です。もう一つの軸は、発行しているところの信用度です。国が出しているもの、企業が出しているもの、同じ企業でも返済の順番が後ろに回る代わりに利息が高く設定されているものがあります。利息が高いということは、それだけ引き受けている不確かさが大きいということです。第三者が付けている信用の評価も公開されていますから、利率だけを横並びにせず、その利率がなぜその水準なのかを併せて見てください。
5.5 ポイント3:一本に寄せず、満期を待たずに手放す場合の値段の決まり方まで確かめる
候補が絞れてきたら、金額の置き方です。よくないのは、いちばん条件が良く見えた一本に、まとまった資金をすべて入れてしまうことです。発行しているところに何かあれば、その影響を丸ごと引き受けることになりますし、満期が一度に来るので、次にどうするかの判断もその一点に集中します。発行元も満期の時期もずらして、いくつかに分けて持つ。すでに続けている投資信託の積立とも性格が違いますから、そちらとの合計で全体を見ることも大切です。あわせて確かめておきたいのが、満期まで持たずに途中で手放す場合の扱いです。ポイント1でお伝えしたとおり、債券の値段は金利で動きます。満期まで持てば額面が戻る前提でも、途中で売る場合はその時点の市場の値段での売却になるため、金利が上がっている局面では、買ったときより低い金額しか戻らないこともあります。「いつでも売れる」ことと「いつ売っても損をしない」ことは別の話です。だからこそ、期間を使う時期に合わせておくことが効いてきます。
5.6 ポイント4:口座の手続きと為替の影響を、ご家族と一緒に見ておく
最後は、実際に動かす段取りの話です。債券を買うには、まず取り扱いのある金融機関に口座を開く必要があります。書類のやりとりや本人確認に日数がかかることもあり、口座ができた頃には、見ていた条件の債券が売り切れていたということも起こります。買いたいものが決まってから口座を開くのではなく、検討を始めた段階で手続きだけ先に進めておくと、判断のタイミングを逃さずに済みます。もう一つが、外貨建てのものを候補に入れる場合の為替です。金利と為替は無関係ではなく、国ごとの金利の差が広がったり縮まったりすることが、通貨の価値の動きにつながります。金利が高い国の債券は利息の水準こそ高く見えますが、受け取った利息も満期に戻ってくる額面も、円に戻す時点の為替次第で増えも減りもします。利率の数字だけを見て決められるものではない、ということです。そして、まとまった資金を動かすのであれば、いくらまで回すのかという規模感は、ご家族と共有しておいてください。投資に関心のあるなしにかかわらず、家計として大きなお金が動いたことを後から知る形になると、金額の妥当さとは別のところで話がこじれます。
金利が上がったというニュースは、置き場所を見直すきっかけとしては十分ですが、それ自体は「どこに移すべきか」の答えではありません。仕組みを押さえ、期間と信用度で絞り、分けて持ち、段取りと為替まで見る。この順番で進めれば、慌てて決める必要はなくなります。これは一つの考え方であり、どの期間のものをどれだけ持つのが適しているかは、そのお金をいつ使う予定なのか、他にどのような資産を持っているのかによって異なります。年金に上乗せされる公的な給付のように物価に合わせて改定されるお金と、金利で値段が動くお金は、動く理由がそもそも別のものだと分けて考えたうえで、実際の商品を選ぶ段階では条件を専門家に確認しながら進めてください。
6. まとめにかえて
2026年度の+3.2%という改定は、年額に直すと2000円台の動きでした。一方で、基準額5620円と老齢の平均給付月額4146円の差は、年額に直すと1万7000円台にのぼります。率の見出しよりも、自分の納付済期間がどれだけあるかのほうが、受け取る額を大きく左右しているということです。
まずは、10月分から判定が切り替わる時期に届く通知書を開いて、自分がどちらの扱いになったのかを確かめてみてください。そのうえで、給付額や所得の判定については年金事務所、住民税の課税状況についてはお住まいの市区町村の窓口で、それぞれ確かめながら進めていただければと思います。制度の適用や改定の時期についての最終的な確認は、所管の窓口や専門家へのご相談をお願いします。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 日本年金機構「65歳の誕生日を迎える方で、老齢基礎年金を新規に請求する方」
- 日本年金機構「65歳の誕生日を迎える方で、老齢基礎年金を繰上げ受給している方」
- 日本年金機構「年金生活者支援給付金請求書(はがき型)が届いた方へ」
- 日本年金機構「個人の方の電子申請(年金生活者支援給付金請求書)」
- 日本年金機構「年金生活者支援給付金の振り込みはいつですか。」
- 日本年金機構「Q.「支給金額変更通知書」(または「不該当通知書」)が届きました。なぜですか。」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金生活者支援給付金にかかる支給金額のお知らせの送付について」
- 年金生活者支援給付金とは?2026年最新の対象者・いくらもらえるか・ハガキが届かない理由を徹底解説
- 【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説
- 【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説
中島 卓哉
