7. 定期預金に置いたままのお金を、これからどうするか決めきれない40歳代。ファイナンシャルアドバイザー・菅原 美優が語る、額面が減らないことと価値が減らないことの違い
40歳代になると、積み立ては何年も続いて残高が育ってきた一方、まとまったお金のほうは定期預金に置いたまま、という形になりやすくなります。前半でみたように、預けたお金は額面のうえでは減りませんが、同じ金額で買えるものの量は、物の値段が上がっていけば少しずつ減っていきます。実務でご相談を受けていて感じるのは、この二つが同じ「減らない」という言葉で語られているために、預金に置いておくことがいちばん安全だという受け止めになりやすいということです。運用のほうは順調に育っていて、預金のほうは減っていない。それでも何か落ち着かない、という感覚を口にされる方は多くいらっしゃいます。相談の場では次のような声を耳にします。
7.1 元本が保証されているお金なのに、置いたままでよいのか落ち着かない

相談の場でも、積み立てのほうは続けられているのに、預金に置いたままのお金だけ手をつけられずにいるという方に数多くお会いします。
7.2 【ファイナンシャルアドバイザー・菅原 美優が回答】減らないことと目減りしないことは別なので、全体のなかでの役割から決める
7.3 ポイント1:持っているものを全部並べて、預金が占めている割合を見る
ご相談で最初にしていただくのが、いま持っているものを全部並べる作業です。積み立てている投資信託、iDeCoの中身、定期預金、加入している保険。どの区分にどれくらい乗っているかを、金額の大小ではなく割合で見ます。この作業をすると、預金は増えないから物足りないという感覚が、別の言い方に変わることがよくあります。全体を見たときに、値動きのある側に寄っている方もいれば、動かない側に大きく偏っている方もいるからです。偏りの向きが分かれば、次に足すものは自然と決まります。値動きのある側が厚い方には、動きの穏やかな側を足す。動かない側が厚い方には、少しでも増える余地のある側を足す。このとき大事なのは、預金をなくす方向で考えないことです。預金は増えない代わりに、いつでも動かせて、額面が確定しているという役割を持っています。物の値段が上がる局面では価値が目減りしていく側面がありますから、全部を預金に置いておくのは避けたい。ただ、全部を動かしてしまうと、いざというときに取り崩す先が値動きのある資産だけになります。どちらかを選ぶのではなく、割合の話として決めていくと整理しやすくなります。
7.4 ポイント2:同じ「元本割れ」でも、株式と債券では下がる理由が違う
次に、元本割れという言葉をほどきます。積み立てている投資信託とすすめられた債券のどちらがリスクが大きいのか、という問いが出てくるのは、下がることを一つの言葉でまとめて呼んでいるからです。株式を中心とした投資信託が下がるのは、企業の業績や景気の見通しが変わるからで、下がる幅を前もって決めることはできません。一方、債券は発行したところにお金を貸す形で、決められた利息を受け取り、満期に額面が戻る仕組みです。ですから満期まで持てるのであれば、受け取る額の見通しは立てやすくなります。そのうえで、債券にも減る道筋はあります。発行したところが約束を果たせなくなる場合、満期を待たずに売ってそのときの値段になる場合、そして外国の通貨で発行されたものを円に換える場合です。同じ元本割れという言葉でも、株式の側は幅が読みにくく、債券の側は起きる条件のほうがはっきりしている、という違いになります。どちらが安全かで比べるのではなく、どの条件までなら自分は受け入れられるかで比べていただくと、迷いが減ります。
7.5 ポイント3:申し込みの手続きに入る前に、いつ引き出すかまで決めておく
ここまで決まると手続きの話になりますが、その前に必ず入れていただく工程があります。いつ、どのお金を引き出すつもりかを、あらかじめ言葉にしておくことです。教育のための費用のように使う時期がおおよそ決まっているお金と、老後に取り崩していくお金は、置き場所も引き出す順番も変わります。使う時期が近いお金は、値動きのある側には置きません。時期が遠いお金は、期間の決まった形で持っておくと、満期の時期を使う時期に合わせられます。この順番を決めないまま契約に進むと、あとで必要が生じたときに、たまたま値下がりしているものを売ることになります。手続きそのものは、契約の概要をまとめた書面と、とくに注意していただきたい点をまとめた書面を確かめてから、あらためて日を取って進めるのが安心です。申し込んだあと一定の期間内であれば申し込みを取り下げられる仕組みが用意されていることもありますので、その期間もこのときに確かめておいてください。受け取るお金にどの区分の税がかかるかは商品の形によって変わり、確定申告が必要になる場合もあります。税の扱いはご本人の事情で変わりますので、金融機関の窓口や税務の専門家に確認しながら決めてください。
7.6 ポイント4:途中で解約すると値段が調整される仕組みと、金利の向きを合わせて見る
最後が、途中で解約するときの扱いと、金利の向きです。期間を決めて金利を固定する形の商品には、満期を待たずに解約した場合に、そのときの金利の水準に応じて受け取る額を増減させる仕組みが組み込まれていることがあります。解約したい時点の金利が契約したときより上がっていれば受け取る額は減る方向に、下がっていれば増える方向に働く、という調整です。これは損をさせるための仕組みではなく、途中で抜ける方と満期まで持つ方のあいだで扱いをそろえるためのものですが、知らないまま解約すると、元本は保証されていたはずなのに、という受け止めになります。そして、この調整の向きは、金利がこれからどちらに動くかと無関係ではありません。金利が上がっていく局面で長い期間の固定を選ぶと、あとから条件のよいものが出てきたときに動きにくくなります。逆に下がっていく局面なら、いまの水準を押さえておくことに意味が出てきます。ただ、金利の先行きを当てにいく必要はありません。当てるためではなく、固定する期間の長さを決めるための材料として見ていただければ十分です。調整の計算方法は契約ごとに定められていますので、申し込む前に、書面のその項目を窓口で読み合わせてください。
額面が減らないことは、価値が減らないことと同じではありません。だからといって、預金をやめるという話にもなりません。全体のなかで役割を分け、下がり方の違いを知り、引き出す時期を先に決めておけば、どの区分にどれだけ置くかを自分の言葉で説明できるようになります。これは一つの考え方であり、商品ごとの調整の仕組みや税の扱い、必要な手続きは、契約の内容やご本人の状況によって異なります。まずは持っているものを紙に並べて、それぞれのお金を使う時期を書き添えるところから始めてみてください。そのうえで、金融機関の窓口や専門家に確認しながら進めていただければと思います。
8. まとめにかえて
預金は、預けた額が減らないという意味では確かに守られています。ただ、守られているのは額面のほうで、その金額で買えるものの量までは約束されていません。この2つが同じ「減らない」という言葉でまとめられていることが、預金に置いたお金だけ動かせないという状態につながりやすくなります。
試算では、物価が年2%で20年上がり続けた場合を置きました。100万円をそのまま置いた場合は今の物価で約67万円ぶん、年0.3%の利息が付いて税を引いたあとでも約70万円ぶんで、利息が埋められたのは約3万円ぶんでした。月3万円を20年続けた742万円も、今の物価に置き直すと約499万円ぶんという計算になります。
まずは、いま預金に置いている金額と、そのお金を使う予定の時期を並べて書き出してみてください。そのうえで、金利の条件や利息にかかる税の扱いは、預け先の金融機関の窓口でご確認ください。運用に回す場合は元本が目減りする可能性がありますし、税や制度の条件も今後変わる場合があります。
参考資料
- 【月3万円×20年】預金と新NISAの資産差はいくら?「利回り5%の積立投資 VS 金利0.3%の銀行預金」シミュレーションで徹底比較
- 金融庁「つみたてシミュレーター」
- 金融庁「NISAを知る」
- 金融庁「「貯める・増やす」 ~ 資産形成」
菅原 美優
