「親が老人ホームに入るなら、子どもである自分が費用を全額負担しなければならないのではないか」——そう思い込んで、無理な負担を抱え込んでしまう人がいるかもしれません。しかし、民法上の扶養義務には範囲があり、子は親の生活を無制限に支える義務までは負っていません。

この記事では、老人ホーム費用について「誰が払うべきか」という扶養義務の考え方を、厚生労働省の公式資料にもとづき編集部が整理します。

1. 親子間の扶養義務は「生活保持義務」ではなく「生活扶助義務」

厚生労働省の資料によると、扶養義務には大きく分けて「生活保持義務」と「生活扶助義務」の2種類があります。生活保持義務は、夫婦間や、親の未成熟な子に対する関係のように、自分と同じ水準の生活を保障する強い義務です。一方、生活扶助義務は、自分の通常の生活を維持したうえで、なお余力がある範囲でしか負担しない義務とされています。

成人した子から見た親への扶養義務は、この生活扶助義務にあたります。「親子なのだから、子は親の生活水準に合わせて費用を工面する義務がある」と考えていると、実際の法的な扶養義務の範囲とはズレが生じることがあります。

齊藤 慧
「親を見捨てるようで罪悪感がある」と、自分の生活を切り詰めてまで費用を工面しようとする人もいますが、法律上そこまでの義務は求められていません。自分の生活を保ったうえで、できる範囲を考えることが大切です。

2. 【編集者の視点】

実務上、「生活扶助義務」の範囲は、負担する側の収入や生活状況によって大きく変わります。自分の家計に無理が生じるほどの負担を続けてしまうと、共倒れになりかねません。まずは自分と家族の生活を優先しつつ、無理のない範囲を考えることが大切です。

※本記事は、編集部が厚生労働省が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。

3. 費用が足りない場合、まずは公的な軽減制度が優先される

親自身の年金や資産だけで老人ホームの費用が足りない場合、いきなり子どもの負担を検討する前に、公的な軽減制度が優先されます。厚生労働省の資料によると、特別養護老人ホーム等の食費・居住費については、所得や資産に応じた「負担限度額認定制度(特定入所者介護サービス費)」があり、要件を満たせば自己負担が軽減されます。

「親の年金だけで足りないなら、すぐに子どもがお金を出すしかない」と考えていると、実際には親自身が使える公的な軽減制度を見落としたまま、子どもが必要以上に負担してしまうことがあります。まずは親自身の制度活用を確認するのが順序です。

3.1 【老人ホーム費用が足りない場合の検討順序】

前提:厚生労働省公表の資料に基づく編集部整理1/1

前提:厚生労働省公表の資料に基づく編集部整理

出所:LIMO編集部作成

  • ①親自身の制度活用:負担限度額認定制度など、親自身の所得・資産に応じた軽減制度を確認
  • ②生活保護の検討:親自身の収入・資産だけでは最低生活費に届かない場合に検討
  • ③親族による扶養(生活扶助義務):負担する側の生活水準を保ったうえで、余力がある範囲でのみ検討
齊藤 慧
親の資産状況を子どもが正確に把握していないケースは意外と多いものです。早い段階で親と費用の話をしておくと、いざというときに使える制度を見落とさずに済み、無用な負担を避けられます。話しづらいテーマですが、先延ばしにしないことが大切です。

4. 【編集者の視点】

実務上、負担限度額認定制度の申請には、預貯金額を証明する書類の提出が必要です。親の資産状況を把握していないと申請自体が進まないこともあるため、早い段階で親子でこうした書類の場所を共有しておくことをおすすめします。

5. 生活保護の申請時には「扶養照会」が行われることがある

親が生活保護を申請する場合、福祉事務所から親族に対して、扶養できるかどうかを確認する「扶養照会」が行われることがあります。厚生労働省の資料によると、生活保護は扶養義務者による扶養に優先して行われるものではなく、扶養義務者からの援助は保護の要件ではないとされています。

「扶養照会が来たら、必ず費用を負担しなければならない」と思い込んでいると、実際には照会はあくまで確認の手続きであり、経済的な余力がなければ扶養を断ることができる場合があることを見落としがちです。負担できない事情があれば、その旨を福祉事務所に伝えることが大切です。

扶養照会をめぐる誤解と実際の扱い

前提:厚生労働省公表の資料に基づく編集部整理
ありがちな誤解 実際の扱い
扶養照会が来たら必ず費用を負担する義務がある 扶養義務者からの援助は保護の要件ではない
負担できない場合は保護自体が受けられなくなる 経済的な余力がなければ扶養を断ることができます(扶養照会に強制力はなく、断っても申請者の保護には影響しません)

5.1 【扶養照会をめぐる誤解と実際の扱い】

  • ありがちな誤解:扶養照会が来たら必ず費用を負担する義務がある/実際:扶養義務者からの援助は保護の要件ではない
  • ありがちな誤解:負担できない場合は保護自体が受けられなくなります/実際:経済的な余力がなければ扶養を断ることができます(扶養照会に強制力はなく、断っても申請者の保護には影響しません)
齊藤 慧
扶養照会の書面が届くと、それだけで負担を強制されると感じてしまう人も多いようです。実際には状況を伝える機会だと捉え、無理をしてまで回答を偽る必要はありません。ありのままの生活状況を落ち着いて伝えれば十分です。

6. 【編集者の視点】

実務上、扶養照会への回答に不安を感じる人は少なくありません。自分の生活状況を具体的に説明すれば、無理に扶養を求められるわけではないため、疑問があれば遠慮せず福祉事務所に相談することをおすすめします。

老人ホーム費用が払えなくなった場合の対処法については、老人ホーム費用が払えないときの対処法を整理した別記事もあわせて確認してみてください。介護保険の自己負担割合や保険料の基本については、介護保険料は40歳から天引き開始。自己負担割合の基本を整理した別記事も参考になります。

7. まとめ

  • 成人した子から親への扶養義務は「生活扶助義務」で、自分の生活を保ったうえでの余力の範囲にとどまります。
  • 費用が足りない場合は、親自身が使える公的な軽減制度の活用が優先されます。
  • 生活保護の扶養照会は確認の手続きであり、負担できない事情があれば伝えることができます。

「親の老人ホーム費用は子が全額負担するもの」という思い込みは、法律上の扶養義務の範囲とは異なります。まずは親自身が使える制度を確認し、そのうえで無理のない範囲を考えることが大切です。

費用面で不安がある場合は、一人で抱え込まず、早めにケアマネジャーや福祉事務所に相談し、使える制度を確認しながら進めることをおすすめします。

8. よくある質問

8.1 Q. 子どもは親の老人ホーム費用を全額負担する義務がありますか。

A. ありません。親子間の扶養義務は「生活扶助義務」で、自分の生活を保ったうえでの余力の範囲にとどまります。

8.2 Q. 親の年金だけで費用が足りない場合、すぐに子どもが負担すべきですか。

A. まずは負担限度額認定制度など、親自身が使える公的な軽減制度の活用を確認するのが順序です。

8.3 Q. 生活保護の扶養照会が来たら、必ず費用を負担しなければなりませんか。

A. 必ずしもそうではありません。扶養照会は確認の手続きであり、負担できない事情があれば福祉事務所に伝えることができます。

8.4 Q. 扶養義務に不安がある場合、どこに相談すればよいですか。

A. ケアマネジャーや福祉事務所に早めに相談し、自分の状況を具体的に伝えることをおすすめします。

参考資料

齊藤 慧