8. 60歳代に多い「相場が気になって毎日のように見てしまい、そのたびに気持ちが動いてしまう」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・長井 祐人が伝えたいこと
手元の端末でいつでも数字が見られるようになって、値動きは以前よりずっと近いところに来ました。見ようと思えば一日に何度でも見られますし、見るたびに何かしら気持ちが動きます。仕事を退く前後の時期に入り、これから使っていくお金として意識するようになると、その動きはいっそう気になります。ここでは、ファイナンシャルアドバイザーが日頃の面談でよく受けるご相談のひとつを、個人が特定されないよう内容を一般化したうえで取り上げます。
8.1 60歳代に多いお悩み相談は「相場が気になって毎日のように見てしまい、そのたびに気持ちが動いてしまう」

相談の場でも、同じ内容のお話をうかがうことが少なくありません。しかも、こうおっしゃる方の多くは、放っておいたわけでも、いいかげんに構えてきたわけでもありません。むしろ関心を持って向き合ってこられたからこそ、目に入る数字に反応してしまうのです。ここで最初にお伝えしておきたいのは、見ていること自体は悪いことではない、ということです。そして、見て気持ちが動くのも自然な反応です。問題にしたいのは、見る回数の多さそのものではなく、見たあとに気持ちだけが残って、次にどうするかが決まらないまま一日が終わってしまう状態のほうです。
8.2 【ファイナンシャルアドバイザー・長井 祐人が回答】見る目的を分け、気持ちが動くことは前提としたうえで、見る先を値段から中身の偏りへ移す
金融商品を保有していると相場の値動きによって商品の評価額は常に変動します。
日によっては値段が大きく変動する日もあるため、誰もが気になってしまうものです。
しかし、気にしすぎると普段の生活や仕事に支障をきたしまう可能性があります。
そんなときは、「見る時間を事前に決める」「上昇・下落した際にどうするかを事前に決める」といったルールなど、自分自身に合ったルールを事前に決めておきましょう。
気にしてしまうことは決して悪いことではありませんが、一番大切なのは投資ではなく、普段の生活ということをしっかりと心に留めておきましょう。
8.3 ポイント1:その画面を「決めるため」に見ているのか、「気になるから」見ているのかを分ける
同じように画面を開いていても、その中身は二種類に分かれます。ひとつは、何かを決めるために見ている場合です。積み立てる金額を見直そうとしている、持っているものの構成を確かめたい、そろそろ使い始める時期について考えたい。こうしたときは、確かめたいことがはっきりしているので、見たあとに次の行動がつながります。もうひとつは、決めたいことがあるわけではないけれど、気になるから開いてしまう場合です。こちらは、見たあとに残るのが「上がっていた」「下がっていた」という感想だけになりやすく、そこから先へ進みません。相談の場では、まずこの二つを分けていただくことから始めます。分けたうえで、後者を全部やめてくださいと申し上げるつもりはありません。気になるから見る、という時間があってもかまわないのです。ただ、開くときに「今日はどちらのつもりで見ているのか」と自分に一言確かめるだけで、見たあとの受け止め方が変わってきます。決めるために見たのなら、決めたことを書き留める。気になって見たのなら、それは気持ちを確かめただけだったと切り分けて終わりにする。この線引きがないと、感想が判断のように感じられて、そのまま手を動かしたくなってしまいます。なお、どのくらいの間隔で確かめるのがよいかは、持っているものの性質やご本人の性格によって変わりますので、ここで一律の目安をお示しすることはしていません。
8.4 ポイント2:気持ちが動くのは自然なこと。動いたときにどうするかを先に決めておく
値動きのあるものを持っていれば、価格は上下します。上がった日にうれしくなり、下がった日に落ち着かなくなるのは、感情の問題というより、自分のお金が増えたり減ったりして見えている以上、当たり前の反応です。ここを「動じないようにならなければいけない」と考えてしまうと、動いてしまう自分を責めることになり、かえってしんどくなります。相談の場でお伝えしているのは、動くことは前提にしたうえで、動いたときに何をするかをあらかじめ言葉にしておく、という考え方です。たとえば、下がっている日に見たときは、その場では手続きに進まず、考えるのは日をあらためてからにすると置いておく。上がっている日に見たときも同じで、見た直後には決めないことにしておく。こうした決めごとをつくっておくと、気持ちが動いたその場で判断を求められる場面が減ります。あわせて、これから何年かのうちに使う予定のあるお金と、当面は動かさずにおけるお金とを、頭の中で分けておくことも助けになります。使う時期が近いお金ほど値動きは気がかりになりますし、実際に価格の変動によって元本を下回ることもあります。どちらの性格のお金を見ているのかがはっきりしていると、同じ下げ方を見ても、受け止める重さが変わってきます。なお、値動きが今後どちらへ向かうのかは誰にも分かりませんので、見通しを立てて備えるのではなく、動いたときの手順を決めておく、という順序でお考えいただければと思います。
8.5 ポイント3:見る先を値段そのものから、持っているものの偏りへ移す
見る回数を減らそうとするよりも、見る先を変えるほうが取り組みやすい、という方もいらっしゃいます。日々目に入るのはたいてい値段のほうですが、値段は、自分の側で何かをしていなくても毎日変わります。一方で、持っているものの中身、つまりどの分野やどの地域にどれくらい寄っているのかは、そう頻繁には変わりません。相談の場でひととおり並べていただくと、ご自身では散らしているつもりだったのに、なじみのある特定の分野に寄っていた、と気づかれることがよくあります。そして、寄っているところがあるほど、その分野に関するニュースひとつで気持ちが大きく動きます。毎日見てしまうことの背景に、実はこの偏りがあった、という場合は少なくありません。見る先を中身のほうへ移すと、確かめる内容が「今日はどうだったか」から「自分の持ち方はどうなっているか」に変わります。後者は毎日確かめなければならない性質のものではありませんから、開く回数のほうもおのずと変わってきます。ここで申し上げているのは、どの分野を増やす・減らすという話ではありません。どこにどれだけ寄っているのかを自分で把握しておく、というところまでです。実際の配分をどうするかは、これから使う時期やご家族の状況によって変わりますので、ご自身の事情を確かめながら専門家とご一緒に整えていただくのがよいと思います。
確認する回数そのものに正解があるわけではありません。同じ頻度でも、気にならない方もいれば、気持ちが揺れてしまう方もいらっしゃいます。この記事でお伝えしたのは、見る目的を分けるという考え方までですので、ご自身に合う付き合い方については、状況を確かめながら専門家とご相談のうえで見つけていただければと思います。
9. まとめにかえて
相場を毎日見てしまう、というお話は、運用に関心のある方ほどよくうかがいます。見ること自体をやめる必要はありませんし、見て気持ちが動くのも自然なことです。それでも落ち着かなさが残るとすれば、見たあとに何が残っているのかがはっきりしていないためであることが多いように思います。
この記事では、その画面を何かを決めるために見ているのか、それとも気になるから見ているのかを分けること、気持ちが動くことは前提にしたうえで動いたときに何をするかを先に言葉にしておくこと、そして見る先を値段そのものから持っているものの中身の偏りへ移していくことを、相談の現場でよく交わされる整理として取り上げました。いずれも、見る回数を我慢して減らすためのものではなく、見たあとに手が止まってしまう状態を減らすための工夫です。
値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性があります。また、税や制度に関する定めは改正によって変わることがありますので、最新の内容は公的機関の情報や、契約先の窓口でご確認ください。ご自身の状況に沿った判断については、関連する部署や専門家に確かめながら進めていただければと思います。
参考資料
- 【70代の貯蓄・年金・家計のリアル】老後赤字を加速させないためには?投資に頼らない防衛策を徹底解説!
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
長井 祐人
