60歳代から70歳代へと進むにつれて、家計を支える中心は働いて得る収入から公的年金へと移っていきます。そのときに見落とされやすいのが、統計や通知に並ぶ収入の額面と、実際に手元で使える額は同じではない、という点です。この記事では、70歳代・二人以上世帯の貯蓄額、厚生年金と国民年金の平均年金月額と受給額の分布、そして65歳以上・夫婦のみの無職世帯の収入25万4395円と支出29万6829円の内訳を順に確認します。そのうえで、支出のうち税や社会保険料にあたる非消費支出3万2850円が収入25万4395円のどれくらいを占め、差し引いた残りで消費支出26万3979円をどこまで賄える計算になるのかを独自に試算します。
なお、70歳代の貯蓄・年金・家計に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 【70歳代・二人以上世帯】貯蓄額として集計されている額|平均2416万円と中央値1178万円
はじめに、70歳代の世帯がどれくらいの金融資産を持っているとされているのかを確かめます。取り上げるのは、J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」の「70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)」です。
この調査でいう金融資産保有額には、預貯金のほかに株式や投資信託、生命保険なども入ります。反対に、日常的な出し入れや引落しに備えている普通預金の残高は入っていません。数え方の範囲があらかじめ決められているため、同じ「貯蓄」という言葉を使っていても、手元の通帳を足した金額とは中身がずれることになります。
示されている平均貯蓄額は2416万円です。ただし平均という数字は、金額の大きい世帯があるとそちらへ引き上げられます。小さいほうから順に並べたときちょうど真ん中に位置する中央値は1178万円で、平均とのあいだには1200万円を超える開きがあります。
1.1 区分ごとの割合で確かめる70歳代の貯蓄額
世帯ごとの割合は次のように示されています。
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
もっとも厚いのは3000万円以上の25.2%で、次いで2000~3000万円未満が12.3%、1000~1500万円未満が11.1%と続きます。その一方で、金融資産を保有していないと答えた世帯は10.9%を占め、100万円未満が4.5%、100~200万円未満が5.1%、200~300万円未満が3.7%と、まとまった額に届いていない層も一定の厚みで並んでいます。
この幅は、努力の量の違いとして並んでいるものではありません。退職金があったかどうか、現役時代の収入がどう推移したか、相続を受けたかどうか、健康状態によって医療や介護にどれだけ費用がかかってきたか。いずれも本人の意思だけで決まるものではなく、公的年金の受け取り額も現役時代の加入状況によって個人差が生じます。
70歳代の貯蓄・年金・家計を一続きで見渡した内容は、次の記事にまとめられています。
【70代の貯蓄・年金・家計のリアル】老後赤字を加速させないためには?投資に頼らない防衛策を徹底解説!
2. 【厚生年金】平均年金月額15万289円という、支給の金額として集計された数字
続いて、入ってくる側にあたる公的年金を見ていきます。厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金の平均年金月額と受給額の分布を確認します。
厚生年金の被保険者は第1号から第4号まで区分されています。ここで取り上げるのは、民間企業などに勤めていた方が受け取る「厚生年金保険(第1号)」で、以下、記事内では「厚生年金」と表記します。
※記事内で紹介する厚生年金保険(第1号)の年金月額には、国民年金の月額部分も含まれています。
2.1 全体15万289円・男性16万9967円・女性11万1413円という平均年金月額
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
全体では15万289円ですが、男女に分けると男性16万9967円、女性11万1413円となり、5万円を超える差がついています。厚生年金の額は、勤めていた期間の長さと、その間の報酬の水準を反映する組み立てです。出産や育児、家族の介護などで働き方を変えた期間があると、その分が金額に表れにくくなります。いま受け取っている世代が現役だった時期の働き方の傾向が、そのまま数字として残っているとも読めます。
2.2 階級別の人数で見る厚生年金の受け取り方
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
人数が多く並んでいるのは9万円台から19万円台にかけての階級で、いずれも90万人を超えています。下は1万円未満から上は30万円以上まで階級が用意されており、ひとり分の金額としてかなりの幅があることが分かります。平均の15万289円は、この幅のなかにある一点にすぎません。
3. 【国民年金】平均年金月額5万9310円と、男女差が生じにくい組み立て
次に、厚生年金の加入期間がなかった方が受け取る国民年金(老齢基礎年金)の月額を確認します。出所は前の章と同じ資料です。
3.1 全体5万9310円・男性6万1595円・女性5万7582円という平均年金月額
- 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
全体では5万9310円、男性6万1595円、女性5万7582円で、男女の開きは4013円にとどまります。厚生年金で5万円を超えていた差が、ここではほとんど生じていません。国民年金の額は報酬の水準ではなく、保険料を納めた月数によって決まる組み立てになっているためです。
3.2 6万円台にかたまっている国民年金の受給権者
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
6万円以上~7万円未満に1715万5059人が並び、他の階級とは人数の桁が違います。階級の数そのものも8つと少なく、厚生年金の表と並べると分布の形がまるで異なります。国民年金は、受け取る額の幅が狭い代わりに、水準そのものが低めのところでそろっているという特徴があります。
資料では、「厚生年金の男性平均月額を受け取る夫」と「国民年金の女性平均月額を受け取る妻」という組み合わせの世帯であれば、二人分の年金受給額は月額22万7549円になると示されています。この月額約22万円で、夫婦の暮らしをどこまで賄えそうかが気になるところです。
ここまでに並んだ金額は、いずれも年金として支給される金額です。次の章で見る家計調査では、これとは別に、税や社会保険料にあたる支出が「非消費支出」としてまとめられています。
4. 【65歳以上・夫婦のみの無職世帯】収入25万4395円の内訳と、非消費支出3万2850円という項目
ここからは出ていく側を確かめます。総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計収支を取り上げます。
4.1 《収入》25万4395円のうち社会保障給付が22万8614円
この世帯がひと月に受け取る収入は25万4395円で、そのうち主に年金にあたる社会保障給付が22万8614円と示されています。収入の大半が公的な給付で組み立てられている姿です。
4.2 《支出》29万6829円のうち消費支出は26万3979円
ひと月の支出は29万6829円です。この金額は、日々の暮らしに使う消費支出26万3979円と、税や社会保険料にあたる非消費支出3万2850円に分けて集計されています。消費支出の費目別の金額は次のとおりです。
- 食料:7万8964円
- 住居:1万7739円
- 光熱・水道:2万3540円
- 家具・家事用品:1万1237円
- 被服及び履物:5354円
- 保健医療:1万7941円
- 交通・通信:3万1325円
- 教育:0円
- 教養娯楽:2万6538円
- その他の消費支出:5万1341円
- うち諸雑費:2万2047円
- うち交際費:2万3257円
- うち仕送り金:1135円
4.3 《非消費支出》3万2850円|直接税1万2547円と社会保険料2万296円
- 直接税:1万2547円
- 社会保険料:2万296円
非消費支出3万2850円は、直接税1万2547円と社会保険料2万296円という2つの項目に分かれています。日々の買い物のように選んで使う支出ではなく、家計の外に出ていく分として別枠でまとめられているのが、この項目の特徴です。年金を受け取る側になったあとも、こうした項目が家計の集計に残っている点は、収入の金額だけを見ていると見落とされやすいところといえます。
窓口で支払う割合がどう決まるのかは、【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説で確認できます。
4.4 《家計収支》エンゲル係数29.9%と平均消費性向119.2%
- ひと月の赤字:4万2434円
- エンゲル係数(※消費支出に占める食料費の割合):29.9%
- 平均消費性向(※可処分所得に対する消費支出の割合):119.2%
ここで目を留めておきたいのは、平均消費性向という指標です。注記のとおり、これは可処分所得に対する消費支出の割合を示すもので、分母は収入そのものではありません。119.2%という数字は、収入から非消費支出を除いたあとの額を消費支出が上回っていたことを示しています。収入と支出をそれぞれ1つの金額として並べただけでは見えにくい部分が、この指標には表れています。
5. 額面の収入と、実際に使える額は別の数字として見る
ここまで、貯蓄・年金・家計収支という3つの統計を順に確かめてきました。この3つを並べたときに浮かび上がるのが、収入として集計された金額と、暮らしに回せる金額は同じではない、という点です。
家計調査が支出を消費支出と非消費支出の2つに分けているのは、性格が違うためです。消費支出は、食料や光熱・水道、教養娯楽のように、暮らしのなかで使い道を選びながら出ていくお金です。一方の非消費支出は、直接税と社会保険料という項目でまとめられており、家計の側で使い道を組み立てる対象にはなっていません。同じ「支出」という言葉でも、家計に対する働き方が異なります。
この違いは、負担が重いか軽いかを論じるためのものではありません。統計に並んでいる収入の金額をそのまま「使えるお金」として受け取ってしまうと、支出の計画が実際より少し余裕のある形で立ってしまう、という話です。老後の家計を考えるときには、収入の額面と、そこから非消費支出を除いた額を、2つの数字として分けて置いておくほうが、後の見通しが立てやすくなります。
相談の場でも、「年金でいくら入ってくるか」までは確かめてこられた方が、「そのうち暮らしに回せるのはいくらか」を確かめたことがない、という整理に行き着くことが少なくありません。どちらが正しいという話ではなく、確かめる段が1つ残っていた、というだけのことです。
また、収入と支出の差を埋める手立てとして、値動きのある資産で運用する方法が話題にのぼることもあります。運用には価格変動リスクがあり、時期によっては元本割れが生じる可能性もありますので、近いうちに使う予定のある資金と、当面は動かさずにおける資金とを分けて考える必要があります。どの方法が向いているかは世帯の状況によって変わりますので、この記事では数字を並べて確かめるところまでにとどめます。
なお、税や社会保険料が実際にどのように計算され、どのような場合に軽減や控除の対象となるのかといった制度の取り扱いは、世帯の状況や年度によって異なります。ここでは家計調査に集計された金額を確認するにとどめていますので、ご自身に当てはまる取り扱いについては、お住まいの市区町村や年金事務所など、所管の窓口でご確認ください。
6. 【独自試算】非消費支出3万2850円は収入25万4395円の何%か|残った額で消費支出26万3979円をどこまで賄えるか
ここまで確認してきた家計調査の数字だけを使って、収入の額面と、暮らしに回せる額の関係を計算してみます。非消費支出3万2850円が収入25万4395円に占める割合を出し、差し引いた残りで消費支出26万3979円をどこまで賄える計算になるのかを確かめる試算です。
前提は次のとおりです。これは統計の平均値を使った目安であり、特定の世帯の見通しを示すものではありません。
- 使う数字は、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」の「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」に示された収入25万4395円・消費支出26万3979円・非消費支出3万2850円だけにとどめる
- この記事では、貯蓄額はJ-FLEC「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」の70歳代・二人以上世帯、年金月額は厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」の受給権者全体という、出所も対象も異なる統計を並べて紹介している。この試算で使うのは家計調査の数字のみで、同じ世帯について並べた数字ではない点をふまえた規模感の把握にとどめる
- 非消費支出の内訳として示されている直接税1万2547円と社会保険料2万296円を足すと3万2843円となり、表示されている非消費支出3万2850円とは7円の差がある。ここでは表示されている3万2850円をそのまま使う
- 物価の変動、医療や介護にかかる費用の増減、就労や資産の売却による収入の変化は考えない
- 税や社会保険料の計算方法、軽減や控除の取り扱いには立ち入らず、集計された金額をそのまま使う
- 割合は小数第2位を四捨五入し、割り切れないものには「約」を付ける
まず、非消費支出3万2850円が収入25万4395円に占める割合です。
- 3万2850円 ÷ 25万4395円 = 約12.9%
- うち直接税1万2547円 ÷ 25万4395円 = 約4.9%
- うち社会保険料2万296円 ÷ 25万4395円 = 約8.0%
収入のおよそ8分の1にあたる部分が、暮らしに回す前の段階で別枠に集計されている計算になります。年に直すと、3万2850円 × 12カ月 = 39万4200円です。
次に、収入から非消費支出を差し引いた残りを出します。
- 25万4395円 − 3万2850円 = 22万1545円
- 年に直すと 22万1545円 × 12カ月 = 265万8540円
この22万1545円が、家計調査でいう可処分所得にあたる金額です。ここで、収入25万4395円のうち社会保障給付が22万8614円だったことを思い出すと、差し引いたあとの22万1545円は、社会保障給付の金額そのものを7069円下回っていることが分かります。
最後に、この22万1545円で消費支出26万3979円をどこまで賄える計算になるかを見ます。
- 22万1545円 ÷ 26万3979円 = 約83.9%
- 賄えない部分:26万3979円 − 22万1545円 = 4万2434円(消費支出の約16.1%)
- ひと月を30日として日割りにすると、約25日分にあたる
- 年に直すと 4万2434円 × 12カ月 = 50万9208円
この4万2434円は、収入25万4395円から支出29万6829円を差し引いた不足額と同じ金額です。同じ結果に別の道筋からたどり着いたことになりますが、途中に置いた数字が違います。収入と支出をそれぞれ1つの金額として引き算すると、足りない分がどこで生じたのかは分かりません。非消費支出をいったん外に出してから比べると、消費支出のうちおよそ8割強までが手元の収入で賄えていて、残りの2割弱にあたる部分が別の原資を必要としている、という形が見えてきます。
計算の内容を確かめると、26万3979円 ÷ 22万1545円 = 約119.2%となり、家計調査に示されている平均消費性向119.2%と一致します。可処分所得に対する消費支出の割合という指標が、この試算と同じ関係を表していたことになります。
この試算から読み取れることを、3つに整理します。
1つ目は、収入25万4395円という金額のうち、暮らしに回る前提で並んでいるのは22万1545円のほうだという点です。差は3万2850円で、割合にすると約12.9%にあたります。この差を織り込まないまま支出の計画を組み立てると、はじめから3万円ほどのずれを抱えることになります。
2つ目は、消費支出26万3979円に対する充足の度合いが約83.9%だという点です。「4万2434円足りない」という言い方と、「消費支出の約16.1%にあたる部分が手元の収入では賄えない」という言い方は、同じ状態を指しています。ただ、割合で見たほうが、家計に対する重さの感覚はつかみやすいかもしれません。
3つ目は、非消費支出の中身が直接税1万2547円と社会保険料2万296円に分かれており、金額としては社会保険料のほうが大きいという点です。収入に対する割合でいえば、直接税が約4.9%、社会保険料が約8.0%となります。どちらも家計の側で使い道を選ぶ支出ではありませんが、内訳を知っておくと、通知や明細を見たときに数字の由来をたどりやすくなります。
なお、この試算は家計調査に示された平均値を機械的に割り算したものです。実際の収入も支出も世帯ごとに異なり、住まいの形や健康状態によって大きく動きます。また、税や社会保険料がどのように計算されるか、どのような軽減や控除の取り扱いがあるかは、世帯の状況や年度によって変わりますので、ここでは立ち入っていません。ご自身に当てはまる内容については、お住まいの市区町村や年金事務所など、所管の窓口でご確認ください。


