新NISAで買った投資信託や株式が値上がりし、「そろそろ利益を確定して、別の商品に乗り換えたい」と考えている方は少なくありません。
ところが新NISAには、保有商品をそのまま別の商品に切り替える「スイッチング」という専用の仕組みはありません。実際に行われているのは、いったん売却して非課税枠を空け、あらためて別の商品を買い直すという2つの取引です。
この「売却」と「買付」の間には、非課税枠が復活するタイミングや年間投資枠の消費、取得価額の計算方法など、見落とすと思うように買い直せない実務のルールがいくつも挟まっています。
本記事では、金融庁・日本証券業協会・国税庁の公式資料をもとに、「利確して買い直す」ときに知っておきたい注意点を、編集部の試算とあわせて整理します。
1. 新NISAに「スイッチング」という制度はない
証券会社によっては、保有商品をそのまま別の商品に切り替える機能を「スイッチング」と呼ぶ場合があります。まずは新NISAでこの言葉がどこまで通用するのか、基本の枠組みから確認します。
1.1 非課税保有限度額と年間投資枠のおさらい
新NISAには、生涯にわたって非課税で保有できる上限額として「非課税保有限度額」が設けられています。金融庁は生涯を通じての非課税保有限度額が新たに設けられ、この上限が1800万円になったと説明しており、うち成長投資枠の上限は内数で1200万円です。
あわせて、1年間に新規で投資できる金額にも上限があります。金融庁によると、つみたて投資枠は年120万円、成長投資枠は年240万円で、併用すると年間360万円まで投資できます。
この2つの枠は性質が異なります。非課税保有限度額は売却すれば再び使えるようになりますが、年間投資枠はその年のうちに使い切ると、同じ年には増えません。
リスク許容度の変化などをきっかけに資産配分そのものを見直したい場合は、貯金と投資の割合をどう考えるかもあわせて確認しておくと安心です(新NISA時代、「貯金と投資の割合」はどうすべきか?現金保有の適正ラインで詳しく解説しています)。
2. 売却で非課税枠が復活するのは「いつから」なのか
スイッチングを検討する読者が最も気になるのが、売却した非課税枠がいつから使えるようになるかです。金融庁の公式情報から確認します。
2.1 復活は翌年以降、基準は「簿価」
金融庁のNISA特設サイトは、「当該商品の簿価分の非課税枠を翌年以降に再利用できることとなります」と説明しています。
ポイントは2つあります。ひとつは、復活のタイミングが売却した年ではなく翌年以降になること。もうひとつは、復活する金額の基準が売却時の時価ではなく、購入したときの価格である「簿価」であることです。
日本証券業協会のQ&Aも、「NISA口座で保有する商品を売却した場合に減少する非課税保有額は、売却時の時価ではなく簿価(取得価額)ベースで計算します」と補足しています。
3. 「利確して買い直す」が年間投資枠を圧迫する仕組み
非課税枠が翌年に復活するとわかっても、「今年のうちに買い直したい」という場合には、もうひとつ確認すべきことがあります。年間投資枠の残りです。
3.1 編集部試算:残り枠40万円のケース
日本証券業協会のQ&Aは、「ある年に一度利用した年間投資枠をその年に再び利用することはできません」としています。
そのうえで、「売却によって非課税保有額が減少しますので、減少分は翌年以降に年間投資枠の範囲内で再利用することが可能です」と説明しています。
つまり、売却によってその年のうちに増えるのは非課税保有額の「翌年分の枠」であって、その年の年間投資枠そのものではありません。
成長投資枠240万円のうち、すでに200万円分を使っている読者を例に試算します。含み益の出た商品を100万円分(簿価)売却しても、その年に買い直せるのは残りの年間投資枠40万円分までです。
差額の60万円分は、その年のうちに買い直すことができません。翌年の年間投資枠を使って買い直すことになります。
3.2 【利確100万円分のうち、当年に買い直せる金額】
成長投資枠の年間投資枠
- 年間上限:240万円
- 使用済み:200万円
- 残り:40万円
売却(利確)と買い直し
- 売却した金額(簿価):100万円
- 当年に買い直せる上限:40万円
- 翌年に繰り越す必要がある額:60万円
4. 【編集者の視点】
「非課税保有限度額」と「年間投資枠」は名前も数字も似ているため、混同しやすいポイントです。売却すればすぐにでも枠が増えると思い込み、含み益の大きい商品から次々に利益確定してしまうと、思ったより買い直せる金額が少なくて戸惑うことになります。
FP会社に勤務していた頃、値上がりした商品をいったん利益確定してから別の商品に乗り換えたいというご相談は珍しくありませんでした。多くの場合、確認すべきなのは「非課税保有額がいくら増えるか」ではなく、「その年の年間投資枠がいくら残っているか」です。
防衛策としては、利確を検討する前に、証券会社の取引画面で成長投資枠・つみたて投資枠それぞれの年間投資枠の残額を確認しておくことです。多くの証券会社は、口座管理画面に当年の投資枠の使用状況を表示しています。
買い直したい金額が残り枠を上回る場合は、無理にその年のうちにすべてを買い直そうとせず、年をまたいで計画的に進める選択肢もあります。判断に迷う場合は、口座を開設している証券会社のカスタマーサポートに、具体的な残り枠の金額を確認するとよいでしょう。
5. 複数回に分けて買った銘柄を「一部だけ」売るとき、取得価額はどう計算されるか
「利確して買い直す」際に見落としやすいのが、同じ銘柄を複数回に分けて買っていた場合の取得価額の計算方法です。国税庁の規定を確認します。
5.1 編集部試算:総平均法に準ずる方法
同じ銘柄を2回以上に分けて購入し、その一部だけを売却する場合、取得価額は購入のたびに平均され直します。国税庁はこれを「総平均法に準ずる方法」と呼び、(A+B)÷(C+D)という式で1単位当たりの金額を計算すると定めています。
この式に沿って、編集部で試算しました。1回目に100株を1株4000円で購入し、その後値上がりして2回目に100株を1株6000円で購入したケースです。
平均取得単価は、購入総額100万円を合計200株で割った5000円になります。高値で買った2回目の100株だけを狙って売っても、取得価額は6000円ではなく、この平均単価5000円で計算されます。
この銘柄を100株だけ売却した場合、取得価額に相当する金額は50万円です。時価60万円で売れたとしても、非課税枠として復活するのは平均単価ベースの50万円にとどまり、差額の10万円分は復活しません。
5.2 【複数回購入した銘柄を一部売却した場合の取得価額】
購入の内訳
- 1回目:100株・40万円(1株4000円)
- 2回目:100株・60万円(1株6000円)
- 合計:200株・100万円
売却時の取得価額
- 平均取得単価:5000円
- 売却100株分の取得価額:50万円
- 時価60万円との差額:10万円
6. 【編集者の視点】
「値上がりした部分だけを売れば、非課税枠もその分大きく復活するはず」と考えるのは自然な発想ですが、実際の計算方法はそれとは異なります。
同じ銘柄を複数回に分けて買っていた場合、売却時の取得価額は購入のたびに平均され直した「1単位当たりの金額」で計算されます。どのタイミングで買った分を売ったかを、自分で選ぶことはできません。
FP会社に勤務していた頃も、同じ投資信託を積立と一括の両方で買い増ししていた方から、「どの分を売ったことになるのか」という質問を受ける場面がありました。答えは常に、購入のたびに平均され直した単価です。
防衛策としては、証券会社が発行する年間取引報告書や、口座管理画面の「取得単価」の欄を確認することです。複数回に分けて買い増しをしている銘柄ほど、売却前に平均取得単価を確かめる価値があります。
7. 年末の「利確して買い直す」は受渡日の期限に注意
年末が近づくと、その年のうちに利確と買い直しを終わらせたいと考える読者も多いはずです。ここで見落としやすいのが「受渡日」という基準です。
7.1 買付が年内に間に合うかは「受渡日」で決まる
日本証券業協会のQ&Aは、「今年分の年間投資枠を利用して上場株式等を受け入れるためには、今年のうちにその上場株式等を購入する必要があります」としたうえで、次のように説明しています。
具体的には、購入した上場株式等の「受渡日」が今年の12月31日以前であることが必要です。金融商品によって約定日と受渡日の間隔が異なりますので、ご注意ください。
出典:日本証券業協会「2024年以降のNISAに関するQ&A」
注文が成立する「約定日」と、実際にお金のやり取りが完了する「受渡日」は別の日です。年末ぎりぎりに注文しても、受渡日が年をまたいでしまえば、その年の年間投資枠としては扱われません。
金融商品によって約定日と受渡日の間隔は異なるため、証券会社が公表する年内最終の注文受付日をあらかじめ確認しておくことが欠かせません。
スイッチング以外の選択肢として、iDeCoや保険もあわせた老後資金全体の貯め方を見直したい場合は、こちらの記事も参考になります(手遅れになる前に。「新NISA・iDeCo・保険」を活用した老後資金の貯め方)。
8. 【編集者の視点】
年末の「利確して買い直す」は、非課税枠や年間投資枠の計算に気を取られがちですが、実は日付そのものが最大の落とし穴になり得ます。
受渡日は金融商品ごとに違い、証券会社によっても案内のタイミングが異なります。12月に入ってから慌てて注文しても、受渡日が年明けになってしまえば、その年の年間投資枠としては使えません。
防衛策はシンプルで、年末の取引を予定している場合は、11月のうちに口座を開設している証券会社へ「今年中に受渡が完了する最終の注文日」を確認しておくことです。
なお金融庁は令和8年度税制改正に向けて、非課税保有限度額をその年のうちに復活させる仕組みを要望していましたが、令和8年度税制改正の大綱にはこの項目は盛り込まれませんでした。
制度が将来変わる可能性はあっても、今のところは「復活は翌年以降」というルールを前提に、余裕を持って計画する必要があります。
※本記事は、編集部が金融庁・日本証券業協会・国税庁が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. まとめ
- 新NISAには「スイッチング」専用の制度はなく、実態は「売却」と「買付」という2つの取引です。
- 売却で復活する非課税枠は、時価ではなく簿価が基準で、使えるのは翌年以降です。
- 年間投資枠をその年のうちに使い切っていると、利確した金額を全額買い直せないことがあります。
- 複数回に分けて買った銘柄は、売却時の取得価額が「総平均法に準ずる方法」で一律に計算されます。
- 年末の取引は「受渡日」が年内かどうかで、その年の年間投資枠として扱われるかが決まります。
「スイッチング」という言葉から連想する身軽さと、新NISAの実際のルールの間には、いくつかの段差があります。売却と買付を2つの取引として切り分けて考えると、思わぬ見落としを防ぎやすくなります。
迷ったときは、証券会社の口座管理画面で年間投資枠の残額と取得単価を確認し、判断が難しい点は口座を開設している証券会社に直接問い合わせることをおすすめします。
10. よくある質問
10.1 Q. 新NISAのスイッチングはいつからできますか?
A. 新NISAに「スイッチング」という専用の制度はありません。実際に行われているのは売却と買付という2つの取引で、売却によって復活する非課税枠が使えるようになるのは翌年以降です。
10.2 Q. 同じ年のうちに利確して買い直すことはできますか?
A. 買い直し自体は同じ年のうちに可能ですが、その年の年間投資枠が残っている範囲に限られます。年間投資枠を使い切っている場合、非課税枠の復活を待たずに買い直せるのは残りの枠までです。
10.3 Q. つみたて投資枠でもスイッチングの考え方は同じですか?
A. 同じです。つみたて投資枠の年間投資枠120万円も、その年のうちに使い切ると増えません。売却で減った非課税保有額は、成長投資枠と同様に翌年以降の枠の範囲内で再利用できます。
10.4 Q. 複数回に分けて買った銘柄の一部だけ利確したい場合、どこを見ればよいですか?
A. 証券会社の口座管理画面や年間取引報告書で「取得単価」を確認しましょう。複数回の購入は平均された単価で取得価額が計算されるため、個別の購入時点の価格とは異なる場合があります。
参考資料
- 金融庁「新しいNISA」
- 金融庁「NISAに関するよくある質問」
- 日本証券業協会「2024年以降のNISAに関するQ&A」(2025年9月)
- 国税庁「No.1466 同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入している場合の取得費」(令和7年4月1日現在法令等)
- 金融庁「令和8(2026)年度税制改正について-税制改正大綱における金融庁関係の主要項目-」(2025年12月公表)
LIMO編集部NISA解説班
