総務省が2026年6月に公表した「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)5月分」によると、物価上昇の傾向は現在も続いています。
- 総合指数は2020年を100として113.5…前年同月比は1.5%の上昇
- 生鮮食品を除く総合指数は113.0…前年同月比は1.4%の上昇
- 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は112.0…前年同月比は1.8%の上昇
上昇率そのものは以前に比べるとやや緩やかになっていますが、私たちの暮らしに身近な商品やサービスでは値上げが続いている状況です。
例えば、チョコレートやコーヒー豆、レトルトカレーなどの食品価格が上昇しているほか、携帯電話の通信料金や宿泊料金、さらには火災保険料や地震保険料の引き上げなどもみられ、家計への負担は幅広い分野に広がっています。
こうした物価高の影響は、毎月の生活費だけでなく、将来に向けて準備する老後資金にも及ぶ可能性があります。そのため、「預貯金だけではお金の価値が目減りしてしまうのではないか」と考え、資産運用に関心を持つ人も増えています。
そのなかで注目を集めている制度の一つが、2024年にスタートした「新NISA」です。
新NISAは、投資によって得られた利益に通常かかる約20%の税金が非課税となるため、効率的に長期の資産形成を進めやすい制度です。ただし、投資には価格変動による元本割れのリスクもあるため、制度の特徴や注意点を理解したうえで利用することが大切です。
本記事では、新NISAの基本的な仕組みを整理しながら、「毎月10万円を15年間積み立て、その後さらに15年間運用を続けた場合」に資産がどの程度まで増える可能性があるのかを、想定利回り3%でシミュレーションします。
あわせて、「毎月3万円を40年間積み立てたケース」との比較も見ていきましょう。
1. 【新NISA】新NISAで何が変わった?制度改正後に押さえておきたい基本事項
2024年に制度改正が行われた「新NISA」は、投資で得た利益を非課税で保有できる制度を大幅に拡充した仕組みです。
従来のNISAと比べて年間投資枠が拡大されたほか、非課税保有期間も無期限となったことで、長期的な資産形成に取り組みやすくなった点が大きな特徴です。
制度は主に「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の2つで構成されており、目的や運用スタイルに応じて使い分けることも、併用することもできます。
1.1 新NISA「成長投資枠」
成長投資枠は、個別株式や幅広い投資信託など比較的自由な商品を対象とした枠です。
- 年間投資上限額:240万円
- 非課税で保有できる期間:無期限
- 投資対象:上場株式、ETF、投資信託など
短期売買から長期保有までさまざまな運用スタイルに対応しており、積極的に資産の成長を目指したい人に向いている制度です。
1.2 新NISA「つみたて投資枠」
つみたて投資枠は、長期の積立に適した一定条件を満たす投資信託などを対象とした枠です。リスクを抑えながら着実に資産形成を進めたい人に適しています。
- 年間投資上限額:120万円
- 非課税保有期間:無期限
- 投資対象:長期・積立・分散投資に適した投資信託、ETF
毎月コツコツ積み立てることを前提に設計されており、相場の短期的な値動きに左右されにくい点も特徴です。
非課税保有枠の上限と使い方
新NISAでは、生涯で利用できる非課税保有限度額が1800万円まで設定されています(うち成長投資枠は最大1200万円)。
この範囲内であれば、「成長投資枠」と「つみたて投資枠」を自由に組み合わせて利用することが可能です。
さらに、保有している商品を売却した場合には、その取得価額分の非課税枠を翌年以降に再利用できます。ライフステージや家計状況の変化に応じて柔軟に資産配分を見直しやすい点も、新NISAの大きな魅力といえるでしょう。
2. 【新NISA】月10万円の15年積立+「15年ほったらかし」で資産はいくらに化ける?
投資には元本割れのリスクがありますが、長期間にわたって積立を続けることで資産形成につながる可能性があります。
ここでは、つみたて投資枠を活用し、金融庁「NISAの活用事例」を参考にした次の条件でシミュレーションした結果を見てみましょう。
2.1 月10万円×15年間積立投資し、その後15年間継続保有(一律年利3%で運用)
- 約3525万円(元本1800万円)
つみたて投資枠の年間上限額は120万円です。そのため、毎月10万円ずつ積み立てることで制度の上限まで活用できます。これを15年間続けると、非課税保有限度額1800万円に到達します。
さらに、その後も15年間運用を継続し、年利3%で資産が増えた場合、最終的な資産額は約3536万円になるという試算です。
3. 【長期積立比較】月3万円を40年続けた場合とどちらが有利なのか
ただし、「毎月10万円を積み立てるのは負担が大きい」と感じる人も多いでしょう。
そこで、毎月3万円を40年間積み立てたケースも確認してみます。
3.1 月3万円×40年間(一律年利3%で運用)
- 約2778万円(元本1440万円)
毎月3万円であれば、家計の見直しによって捻出しやすい金額と感じる人も多いかもしれません。
こちらも年利3%で運用できたと仮定した試算ですが、40年間にわたり元本1440万円を積み立て続けることで、最終的な資産額は約2778万円になる見込みです。
毎月の積立額は比較的少なくても、40年という長い時間を味方につけることで、資産を大きく育てられる可能性があります。
投資にはリスクが伴うものの、制度の仕組みを理解しながら活用することで、老後資金づくりの有力な選択肢の一つとなるでしょう。
4. 【投資判断】自分のリスク許容度を知ることが資産形成の第一歩
新NISAなどを活用して積立投資を始める際に、必ず意識しておきたいのが「どの程度の値動きまで受け入れられるか」を示す「リスク許容度」です。
リスク許容度とは、保有している資産が一時的に値下がりした際に、家計面や精神面でどの程度まで耐えられるかを示す目安です。「10%下落しても長期投資だから気にならない」という人もいれば、「5%下がっただけで不安になる」という人もいます。
リスク許容度は、主に次のような要素によって変わります。
- 年齢や運用期間:長期間の運用ができる(若い)ほど、一時的な下落から回復する時間を確保しやすい。
- 収入・余裕資金の有無:日々の生活費やいざという時の予備資金が手元にあるほど、リスクに耐えやすい。
- 投資経験・性格:値動きに対する精神的な耐性は人それぞれ異なる。
具体的には、「もし投資資産が20%下落したら、自分の生活や気持ちにどのような影響が出るか」を想像してみると、リスク許容度を考えるヒントになります。
「資産が20%減少した場合、自分は冷静に保有を続けられるか」「生活費に支障は出ないか」などを具体的に考えてみるほか、金融機関が提供しているリスク許容度診断ツールを活用し、自分の傾向を客観的に把握するのも有効です。
事前に自分のリスク許容度を理解しておくことで、「相場が下落して慌てて売却してしまった」「自分に合わない商品を選んでしまった」といった失敗を防ぎやすくなります。
5. 【年代別戦略】何歳から始めると有利?投資における時間の価値を考える
新NISAを活用した資産形成では、「毎月いくら積み立てるか」に注目が集まりがちです。しかし、長期投資では積立額だけでなく、「何歳から始めるか」も将来の資産額に大きな影響を与えます。
その理由は、運用で得た利益がさらに利益を生む「複利効果」にあります。同じ金額を積み立てても、運用期間が長いほど資産が成長する時間を確保しやすくなるためです。
ここでは、年代ごとの運用期間の違いに注目しながら、時間を味方につける資産形成の考え方を見ていきましょう。
5.1 複利効果は「時間」が長いほど大きくなる
資産運用では、運用によって得られた利益を再び投資に回すことで、利益がさらに利益を生む「複利」の効果が期待できます。
例えば、毎月同じ金額を積み立てた場合でも、運用期間が10年と30年では資産の増え方に大きな差が生じます。これは、長い期間にわたって運用益が積み重なり続けるためです。
そのため、資産形成では利回りや積立額だけでなく、「どれだけ長く運用できるか」が重要なポイントとなります。長期投資では、時間そのものが資産形成を支える大きな力になるのです。
5.2 20代・30代・40代・50代では運用できる時間が大きく異なる
仮に65歳まで積立投資を続ける場合、スタートする年齢によって運用期間には次のような差が生じます。
- 20歳から始める場合:45年間
- 30歳から始める場合:35年間
- 40歳から始める場合:25年間
- 50歳から始める場合:15年間
同じ毎月3万円の積立でも、20代と50代では30年もの差があります。
長期投資では、この時間の差が将来の資産額に大きく影響する可能性があります。若いうちから始めるほど、毎月の積立額を無理に増やさなくても資産形成を進めやすくなります。
5.3 何歳からでも「始める価値」はある
もっとも、資産運用は若い世代だけのものではありません。
実際には、住宅ローンや教育費の負担が落ち着いた40代後半から50代になって老後資金づくりを始める人も多くいます。近年は定年延長や再雇用制度の普及によって、60代以降も働き続ける人が増えており、資産運用に取り組める期間も以前より長くなっています。
新NISAでは非課税保有期間が無期限となったため、退職後も運用を続けながら資産を活用することが可能です。
若いうちから始めるほど有利なのは確かですが、資産形成において本当に重要なのは「もっと早く始めればよかった」と考えることではなく、「これから始めるかどうか」です。時間を味方につけるためにも、自分に合ったペースで早めに行動を起こすことが将来の安心につながるでしょう。
6. 【老後資金】資産はどう取り崩すべきか 4%ルールから考える使い方
新NISAなどの資産形成では「どのように増やすか」に注目が集まりやすいものですが、老後を迎えた後は「どのように使うか」も同じくらい大切なテーマになります。資産は積み上げるだけで終わりではありません。
現役を引退した後は、公的年金だけでは足りない生活費を、これまで築いた資産を取り崩しながら補っていく「取り崩し期」に入ります。
実際に家計調査を見ると、世帯主が75歳以上の無職世帯(二人以上の世帯)では、年金収入だけでは生活費をまかないきれず、毎月平均で約2万7000円を貯蓄の取り崩しによって補っている状況が確認できます。
こうした取り崩し期において、資産をできるだけ長く維持するための目安として広く知られているのが「4%ルール」です。
6.1 老後資産の目安として知られる「4%ルール」
4%ルールとは、「毎年、資産残高の4%を目安に少しずつ取り崩せば、長期間資産が枯渇しにくい」という考え方です。
たとえば、
- 2000万円 → 年80万円(月約6万6000円)
- 3000万円 → 年120万円(月10万円)
程度を取り崩すイメージになります。
老後は公的年金が家計の中心的な収入源になりますが、それに加えて毎月数万円を資産から補う形で考えると、将来の生活設計をイメージしやすくなるでしょう。
6.2 一括で使うより「少しずつ取り崩す」考え方
老後資金は、まとまった金額を一気に使うのではなく、毎月一定額を少しずつ取り崩していくのが基本的な考え方です。
- 年金不足分だけ補う
- 医療費や介護費に備える
- 相場下落時の売却を避ける
といった目的に対応しやすくなり、結果として資産寿命を延ばしやすくなります。
平均寿命が延びるなかでは、「どれだけ増やせるか」だけではなく、「どれだけ長く持たせられるか」という視点も重要になっています。
6.3 4%ルールをそのまま当てはめるのは注意も必要
ただし、4%ルールは海外市場の長期データをもとにした考え方であり、日本でも必ず通用するとは限りません。実際には、
- 年金額
- 持ち家か賃貸か
- 医療・介護費
- 夫婦か単身か
などによって必要な生活費は大きく変わります。そのため、「4%なら大丈夫」と考えるのではなく、自分の家計で毎月どの程度不足するのかを把握することが重要です。
6.4 「増やす」だけでなく「使いながら守る」視点へ
資産形成では、「どの商品に投資するか」に関心が集まりがちです。しかし老後が近づくにつれて重要になるのは、「資産をどう取り崩し、どう長持ちさせるか」という視点です。
新NISAは資産形成を後押しする制度ですが、最終的には老後の生活費としてどのように活用するのかまで見据えることで、より現実的なライフプランにつながっていくでしょう。
7. 【注意点】新NISAを始める前に知っておきたい落とし穴とリスク
新NISAを活用する際は、制度のメリットだけでなく、事前に理解しておきたい注意点にも目を向けることが大切です。
新NISAは、年間投資枠の拡充や非課税期間の恒久化によって、従来より利用しやすい制度へと変わりました。一方で、長期間にわたる運用を前提とするため、自分自身のリスク許容度を把握し、将来どのタイミングで資産を取り崩すのかも考えておく必要があります。
積立投資を続けていると、相場が大きく下落する局面に直面する可能性もあります。実際に株式市場は長期的には成長を続けてきましたが、その過程では何度も急落を経験してきました。
そのため、積立投資の仕組みや価格変動リスクを理解したうえで、「値下がりしたときにどう行動するか」をあらかじめ考えておくことが大切です。
また、商品選びも重要なポイントのひとつです。金融庁が公表している「つみたて投資枠対象商品届出一覧」(2026年4月15日最終更新)によると、対象商品は継続的に見直しや追加が行われており、現在は300本を超える商品が対象となっています。
選択肢が豊富だからこそ、「人気があるから」という理由だけで選ぶのではなく、長期間保有できるか、自分の投資方針や目的に合っているかを確認しながら選ぶことが重要です。
さらに、NISA口座には通常の課税口座と異なる税制上の特徴もあります。その一つが「損益通算」ができない点です。たとえば、他の口座で得た利益と、NISA口座内で発生した損失を相殺することはできません。
加えて、損失を翌年以降へ持ち越せる「繰越控除」も利用できないため、こうした制度上の特徴についても理解したうえで活用することが大切です。
8. まとめにかえて:無理のないペースで資産形成を続けるために
毎月10万円を比較的短期間で積み立てる方法も、毎月3万円を長期間積み立てる方法も、新NISAを活用した積立投資は、時間を味方につけながら将来の資産形成を支える有力な手段となります。
一方で、投資では「始めること」と同じくらい、「無理なく続けること」が重要です。
最初から積立額を大きく設定しすぎると、相場が下落した際に不安が強くなり、途中でやめてしまう原因にもなりかねません。日々の生活費や緊急時のための預貯金を確保したうえで、「余裕資金の範囲内」で取り組むことが、長く続けるための最大のポイントです。
もちろん、「投資はせず現金で保有する」という選択もあります。しかし、ここまで見てきたような物価上昇が続く環境では、預貯金だけで資産価値を維持することが簡単とは言えないでしょう。
新NISAのような税制優遇制度について基本的な知識を身につけ、将来の選択肢を広げるための判断材料を増やしていくことが大切です。
※免責事項
本記事は情報提供を目的としており、投資の推奨や勧誘を行うものではありません。投資には元本割れのリスクが伴うため、最終的な投資判断は必ずご自身の責任で行ってください。また、記事内のシミュレーション結果は将来の運用成果を保証するものではありません。執筆時点(2026年6月)の情報を基に作成しておりますが、本記事の情報を利用したことによるいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。



