新NISAで株式投資への関心が高まるなか、東京証券取引所が事業ポートフォリオの見直しを促し、アクティビスト(物言う株主)が複合企業に事業再編を迫る場面が増えています。こうした「複数事業を持つ会社の本当の価値」を測るのが、サム・オブ・ザ・パーツ(SOTP)分析です。

全体を一つの塊としてPERで測るのではなく、事業ごとに価値を出して足し上げる——この発想を使うと、総合電機や商社、持株会社のように多角化した企業に埋もれた価値が見えてきます。

本記事では、SOTPの意味・計算方法から、コングロマリット・ディスカウント、アクティビストとの関係、注意点までを初〜中級者向けにやさしく解説します。

ココがポイント
  • SOTP=事業ごとに値付けして足す企業価値評価
  • SOTP価値>時価総額=コングロマリット・ディスカウント
  • アクティビストや事業再編の「価値解放」の物差し

サム・オブ・ザ・パーツ(SOTP)とは?意味をやさしく解説

サム・オブ・ザ・パーツ(Sum of the Parts=SOTP)分析とは、複数の事業や資産を持つ企業を、事業ごとに個別に評価し、それらを合算して企業全体の価値を求める手法です。「部分(パーツ)の合計(サム)」という名のとおり、会社を事業単位に分解して値札を付け、足し上げるイメージです。

たとえば、ある会社が「インフラ事業」「テクノロジー事業」「その他事業」の3つを持つとします。SOTPでは、この3事業をそれぞれ独立した会社のように見立てて価値を算出し、合計して全体の企業価値を導きます。全社をまとめて一つのPERで評価する通常のやり方と違い、成長率も利益率もリスクも異なる事業を、それぞれにふさわしい物差しで評価できるのが特徴です。

なぜSOTPを使うのか

なぜわざわざ事業ごとに分けて評価するのでしょうか。理由は、全体を一括で評価すると、事業ごとの価値の違いが埋もれてしまうからです。

たとえば、安定した低成長のインフラ事業と、高成長のテクノロジー事業を併せ持つ会社を、全社一律のPERで評価すると、高成長事業の価値が過小評価されがちです。市場は複雑な複合企業を嫌い、全体をまとめて低めに評価する傾向があるためです。SOTPを使えば、高成長事業には高い評価倍率、安定事業には低めの倍率、というように事業の性質に応じた評価ができ、より実態に近い価値をあぶり出せます。事業ポートフォリオが複雑な企業、持株会社、非中核事業の売却・分離を検討する局面で、とりわけ有用です。

SOTPの計算手順

SOTPは、次の手順で計算します。

  1. 企業を事業セグメントに分ける
  2. 各事業を、その事業にふさわしい方法(DCF法やマルチプル法)で事業価値(EV)を算出する
  3. 全事業のEVと、非事業資産(遊休資産など)を合算する
  4. 合算した全社EVから、純有利子負債・少数株主持分・本社コストなどを差し引いて株式価値を求める

式で表すと、「SOTPの全社EV = 各事業EVの合計 + 非事業資産 − 本社コスト」、そして「株式価値 = 全社EV − 純有利子負債 − 少数株主持分」となります。この株式価値を発行済株式数で割れば、1株あたりの理論価値も出せます。

SOTPの計算例

かんたんな数値例で確かめます。ある会社が3事業を持ち、それぞれのEBITDAと、類似企業から選んだEV/EBITDA倍率が次のとおりだとします。

  • インフラ事業:EBITDA 100億円 × 8倍 = 800億円
  • テクノロジー事業:EBITDA 50億円 × 16倍 = 800億円
  • その他事業:EBITDA 30億円 × 6倍 = 180億円

3事業のEVを合計すると、全社EVは1,780億円。ここから純有利子負債300億円を差し引くと、株式価値は1,480億円になります。もしこの会社の実際の時価総額が1,000億円なら、SOTPで見た価値(1,480億円)のほうが480億円も大きい——つまり市場は本来の価値より約32%安く評価している、と読めます。この評価に使うEV/EBITDA倍率の考え方は「EV/EBITDA倍率とは?計算式・目安から使い方」で解説しています。

セグメントの評価方法——DCFとマルチプル

各事業をどう評価するかは、事業の性質で使い分けます。安定してキャッシュを生む事業は、将来のフリーキャッシュフローを割り引くDCF法が向きます。DCFの手順は「DCFとは?理論株価の出し方・割引率・計算式」で解説しています。

一方、同業他社と比べやすい事業は、EV/EBITDA倍率などのマルチプル法が手軽です。ポイントは、事業ごとに適切な倍率を選ぶことです。高成長のテクノロジー事業には高い倍率、成熟したインフラ事業には低い倍率、金融事業にはPBR系の倍率、というように、事業の成長性に応じて値付けを変えます。高成長事業に高い倍率が正当化される理屈は、成長を加味して割安・割高を測る「PEGレシオとは?計算式・目安からPER・成長株での使い方」の考え方とも通じます。

コングロマリット・ディスカウント——SOTP価値>時価総額

SOTPが株式投資で最も注目されるのが、コングロマリット・ディスカウントを可視化できる点です。コングロマリット・ディスカウントとは、各事業を個別に評価して足し合わせた価値(SOTP)よりも、実際の株式時価総額が低くなる現象を指します。先の例で言えば、SOTP価値1,480億円に対し時価総額1,000億円という、480億円の差がそれにあたります。

なぜこの割引が生じるのか。主な理由は、①事業が複雑で分析されにくい、②稼ぐ事業が不採算事業を支える「相互補助」への市場の懸念、③経営資源の分散による非効率、です。多角化しすぎた企業は、市場から「複雑さの割引」を付けられやすいのです。この割安放置は、資本効率(ROIC)の観点からも問題視されます。資本効率の考え方は「ROICとは?投下資本利益率の意味・計算式・目安」で解説しています。

アクティビスト・事業再編と「価値解放」

コングロマリット・ディスカウントが大きい企業は、アクティビスト(物言う株主)の格好の標的になります。彼らはSOTPを武器に、「各事業の価値の合計より株価が安すぎる。この事業を切り離せば価値が上がる」と経営陣に事業再編を迫ります。

スピンオフ(事業の分離・独立)やカーブアウト(事業の切り出し・売却)によって、埋もれていた事業の価値が市場で正当に評価され直すと、コングロマリット・ディスカウントが縮小し、株価が上昇することがあります。これが「価値解放(バリューアンロック)」です。東証が求める資本コスト経営やPBR改革の流れとも重なり、日本の総合電機・商社・持株会社などで、事業ポートフォリオの見直しが進んでいます。この潮流はPBR改革と地続きで、「PBRとは?株価純資産倍率の意味・計算式・目安」で扱った資本効率経営とつながっています。

SOTPの注意点

強力な手法ですが、注意点もあります。第一に、前提しだいで結果が大きく変わることです。各事業に使う倍率や割引率、セグメントの区切り方で、SOTP価値は大きく振れます。第二に、本社コストやシナジーの扱いが難しいことです。事業を単純に足し合わせると、本社の管理コストや事業間の相乗効果(あるいはその喪失)を正しく反映できません。第三に、セグメント情報の限界です。開示されるセグメントの粒度が粗いと、精緻な評価は難しくなります。SOTPはあくまで一つの見立てであり、複数の前提で幅を持って捉えることが大切です。

新NISA・初心者はSOTPをどう使えばよいか

新NISAで個別株に投資する初心者は、SOTPを自分で精密に計算する必要はありません。大切なのは、「多角化した会社は、事業ごとに分けて考えると価値が見えてくる」という視点を持つことです。

ポイントは、①複合企業は全体のPERだけで判断しない、②SOTP価値より時価総額が大きく安いなら、コングロマリット・ディスカウントの余地がある、③事業再編・スピンオフの動きは価値解放のきっかけになりうる、の3点です。

決算のセグメント情報を眺め、「どの事業が価値の源泉か」を意識するだけでも、企業を見る解像度が上がります。

元機関投資家イズミダの視点:SOTPは「会社を解体して値札を付け直す」眼

私がアナリスト時代、とりわけ総合電機のような多角化企業を分析する際に欠かせなかったのが、このSOTPの発想です。総合電機は、半導体からインフラ、家電、金融まで抱え、全体を一つのPERで測ると必ずと言っていいほど価値が埋もれます。だから私は、会社を事業ごとに解体し、それぞれに市場の値札を付け直して足し上げました。すると、「この会社は、この虎の子の事業だけで時価総額を説明できてしまう」といった発見がよくありました。まさに「なんでも鑑定団」の合わせ技です。

そのうえで申し上げたいのは、コングロマリット・ディスカウントは「割安のサイン」であると同時に、「市場からの経営への通信簿」でもあるということです。私はかねて「戦略とは何をしないかを決めること」「事業の分散しすぎは自らハンデを取りに行くこと」と申し上げてきました。SOTPで大きな割引が出る会社は、選択と集中が足りていない可能性がある。逆に、その割引こそが、事業再編による価値解放の余地でもあります。ただし、切り離せば必ず価値が上がるとは限らず、事業間のシナジーや本社機能を失うリスクもある。株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、勝負は値決めです。SOTPという解体の眼を持ちつつ、再編で本当に価値が生まれるのかまで見極める——その両輪が肝心です。もっとも、前提しだいで景色は変わるので、数字を鵜呑みにしないことです。

まとめ

サム・オブ・ザ・パーツ(SOTP)とは、複数事業を持つ企業を事業ごとに評価し、合算して企業価値を求める手法です。各事業をDCFやEV/EBITDA倍率で値付けし、合計して純有利子負債などを差し引いて株式価値を出します。SOTP価値が時価総額を上回る差がコングロマリット・ディスカウントで、割安発掘やアクティビストによる事業再編(価値解放)の物差しになります。ただし前提やシナジーの扱いで結果が変わるため、幅を持って判断を。最後は値決めがものを言う——これがSOTPを使いこなす王道です。

よくある質問(FAQ)

Q. サム・オブ・ザ・パーツ(SOTP)とは何ですか?

A. 複数の事業を持つ企業を事業ごとに評価し、合算して企業価値を求める手法です。各事業をDCFやマルチプルで値付けし、足し上げて純有利子負債などを差し引いて株式価値を算出します。

Q. SOTPはどう計算しますか?

A. ①事業を分ける②各事業のEVをDCFやEV/EBITDA倍率で出す③合算する④純有利子負債・少数株主持分・本社コストを差し引く、の順で株式価値を求めます。

Q. コングロマリット・ディスカウントとは?

A. 各事業を個別に評価して足した価値(SOTP)より、実際の株式時価総額が低くなる現象です。事業の複雑さや経営資源の分散などが原因とされます。

Q. SOTPはどんな企業に使いますか?

A. 総合電機・商社・持株会社など、複数事業を持つ多角化企業に有用です。事業の売却・分離(スピンオフ)を検討する局面でもよく使われます。

Q. SOTPの注意点は?

A. 使う倍率や割引率、セグメントの区切り方で結果が大きく変わります。本社コストやシナジーの扱いも難しいため、複数の前提で幅を持って判断することが大切です。

泉田 良輔