2. 75歳まで繰り下げる場合に、見落としやすい「加給年金が消える」リスク
老齢厚生年金は、66歳から75歳までの間で受給開始を繰り下げることができ、繰り下げた月数に応じて年金額が増額されます(最大84%増)。ただし、この繰下げ受給と加給年金の相性には注意が必要です。
2.1 繰下げ待機期間中は、加給年金がまったく支給されない
日本年金機構によると、繰下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中は、加給年金額や振替加算を受け取ることができません。加給年金額や振替加算額は、繰下げによる増額の対象にもなりません。つまり、65歳から老齢厚生年金を受け取っていれば加給年金が支給されていたはずの期間も、繰下げを選んでいる間はゼロになるということです。
2.2 配偶者が65歳に達してしまうと、繰下げ後も二度と受け取れない
ここが最も見落とされやすいポイントです。繰下げ待機期間中に配偶者が65歳に達してしまうと、その時点で配偶者はすでに加給年金の対象要件(65歳未満)を満たさなくなります。そのため、その後75歳などで繰下げ請求をして老齢厚生年金を受け取り始めても、加給年金は一切支給されません。増額された年金は受け取れますが、加給年金の分はまるごと消えてしまうことになります。
たとえば、夫婦の年齢差が5歳で、夫の老齢厚生年金に加給年金がつくケースを考えます。65歳で受給を開始すれば、妻が65歳になるまでの5年間、加給年金(令和8年度は年最大42万3700円)を受け取れます。しかし、夫が75歳まで繰下げを選ぶと、その間に妻はすでに65歳を超えてしまい、75歳から年金を受け取り始めても加給年金は一切つきません。単純計算でも、5年分・200万円以上の上乗せを受け取る機会が失われることになります。
「繰り下げれば年金が増える」という話ばかりが注目されがちですが、加給年金がある世帯にとっては、繰り下げている間の“もらえたはずの金額”も考慮する必要があります。特に年齢差のある夫婦は、繰下げを選ぶ前に、配偶者が何歳で65歳に達するのかを必ず確認してください。
3. 加給年金がある世帯は、どう考えればいいか
繰下げ受給を検討する際、加給年金がある世帯が知っておきたい選択肢を整理します。
3.1 老齢基礎年金だけを繰り下げるという方法もある
日本年金機構によると、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることができます。加給年金は老齢厚生年金に付くものなので、老齢厚生年金は65歳(または早めの年齢)で受け取り始めて加給年金を取りこぼさず、老齢基礎年金だけを75歳まで繰り下げて増額を狙う、という組み合わせも選択肢になります。どちらの年金をどう受け取るかによって、加給年金の有無と年金の増額幅の両方が変わってくる点を踏まえて検討するとよいでしょう。
3.2 ねんきんネット等で、配偶者の年齢差を早めに確認する
繰下げを検討する際は、自分の年齢だけでなく、配偶者が何歳で65歳に達するのかも必ず確認しておきましょう。ねんきんネットや年金事務所の窓口で、加給年金の対象になっているかどうか、繰下げた場合にいつ加給年金が対象外になるのかを事前に確認しておくことで、こうした「気づかないうちに消える」事態を避けられます。
4. まとめ
加給年金は、本人の年齢が75歳になったから終わるものではなく、配偶者が65歳になったときに打ち切られ、配偶者自身の振替加算に引き継がれる仕組みです。
ただし、老齢厚生年金の受給開始を75歳まで繰り下げている間は加給年金が一切支給されず、その待機期間中に配偶者が65歳に達してしまうと、繰下げ後に年金を受け取り始めても加給年金は二度と受け取れません。
加給年金がある世帯は、老齢基礎年金だけを繰り下げる方法も含めて検討し、配偶者の年齢差を早めに確認しておくことをおすすめします。
参考資料
和田 直子
