2026年は6月に、改定後の年金額を知らせる「年金額改定通知書」や「年金振込通知書」の発送が行われました。8月にも年金の定期支払いがあり、夏から秋にかけては、手元に届いた通知や案内に目を通す機会が増える時期にあたります。

中身や手続きを確かめないままだと、受け取れない、あるいは分からないまま終わってしまうもの。それは公的な制度の側にもありますし、自分で契約したものの側にもあります。公的な給付の場合、要件を満たしていても、自分で請求の手続きをしなければ支給は始まりません。この記事では、老齢年金に上乗せされる2つの給付、60歳を過ぎて働く場面で関わってくる雇用保険の3つの給付、医療・介護・生活の負担に上限を設ける仕組み、そして2025年に成立した年金制度改正で見直された点を順に整理します。あわせて、受け取りの開始が3年、5年と遅れた場合に、その期間に積み上がる額の見え方がどう変わるかも独自に試算します。

鶴田 綾
相談の場でよく伺うのは、「そういう制度があるとは知らなかった」というお話です。知らなかったことを悔やまれる方も多いのですが、案内が届く仕組みになっているものと、自分から動かないと始まらないものが混在していることのほうが、気づきにくさの主な理由だと感じています。まずはその区別から順に見ていきます。

なお、60歳・65歳以上の方が対象となる公的なお金に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説
【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説

1. 請求の手続きをして初めて動き出す公的なお金|案内が届くものと届かないものが混在する

年金への上乗せから医療・介護の軽減まで、60歳・65歳以上の方に関わる公的なお金の全体像は、「【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説」に一覧の形でまとめられています。この記事で先に確かめておきたいのは、そこに並ぶどの制度も「対象になること」と「受け取りが始まること」を別々に持っている、という点です。

1.1 受給資格があるだけでは動き出さない老齢・障害・遺族の年金

老齢年金、障害年金、遺族年金といった公的な制度は、暮らしを支える大きな柱です。ただ、受給資格があるからといって、その日を境に自動的に振り込みが始まるわけではありません。

受け取りを始めるには、自分で「年金請求書」を提出し、請求の手続きを行う必要があります。手続きをして初めて、受給資格が実際の振り込みにつながるという組み立てです。

1.2 担当する役所が制度ごとに違うため、全体像が見えにくい

国や自治体の給付金・補助金も、基本の組み立ては年金と同じで、「申請」がセットになっています。

提出の期限に間に合わなかったり、書類がそろわなかったりした場合には、受給額が減る、あるいは受け取れなくなるといった不利益が生じる可能性もあります。

ここで押さえておきたいのは、これが個人の注意深さの問題ではないという点です。年金は年金事務所、雇用保険はハローワーク、医療や介護、臨時の給付金は市区町村や医療保険者と、担当する窓口が制度ごとに分かれています。ひとつの窓口で自分に関わるものが並べて示される仕組みにはなっていないため、どこに何があるのかが見えにくくなっています。

まずは自分が対象となりうる制度にどのようなものがあるのかを知り、そのうえで手続きの要否を確かめていく。順番としてはこの形になります。

2. 【老齢年金】要件を満たすと本体に加わる2つの給付の中身

老齢年金を受け取っている方が一定の要件を満たす場合に、本来の年金にプラスして受け取れる制度が2つあります。加給年金と、老齢年金生活者支援給付金です。それぞれ順に見ていきます。

2.1 年金版の家族手当にあたる「加給年金」

「加給年金」は、厚生年金に20年以上加入していた方が65歳になったときに、生計を維持している「年下の配偶者」や「子ども」がいる場合に加算される仕組みです。

役割としては、年金版の「家族手当」にあたるものと考えると分かりやすいでしょう。

加給年金の支給要件として示されているもの

下記の条件を満たしていて、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合に、年金へ上乗せされます。

  • 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
  • 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)

(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

なお、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)、退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利がある場合、または障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合には、配偶者加給年金額は支給停止となります。同じ「年下の配偶者がいる」という状況でも、配偶者側の年金の状態によって扱いが変わるということです。

2026年度として示されている加給年金の額

加給年金の加給年金額2/8

加給年金の加給年金額の一覧

出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

2026年度の年額として示されている加給年金の額は、次のとおりです。

  • 配偶者:24万3800円
  • 1人目・2人目の子:各24万3800円
  • 3人目以降の子:各8万1300円

これに加えて、老齢厚生年金を受給中の方の生年月日により、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が支払われます。つまり、同じ「配偶者の加給年金」でも、生年月日によって1年あたりの額に幅が生まれます。

加給年金と、老齢厚生年金の受け取りを遅らせる選択の関係

加給年金をめぐって相談の場で話題になりやすいのが、老齢厚生年金の繰下げ受給との兼ね合いです。老齢厚生年金の受け取りを遅らせて待機している間は、原則として、本来受け取れるはずの加給年金も支給停止となります。配偶者の年齢や待機した期間によっては、受け取れなかった加給年金の分が積み上がり、繰下げによる増額分を圧迫する可能性があります。

なお、老齢基礎年金のみを繰り下げて、老齢厚生年金は65歳から受け取るという選び方をした場合には、厚生年金の受給に伴って加給年金を受け取ることが可能とされています(ただし厚生年金自体の増額はありません)。増額率という一点だけで判断せず、世帯全体で受け取れる金額を並べて確かめる。そうした見方が必要になる場面です。

配偶者側の年金へ引き継がれる「振替加算」

配偶者が65歳になると加給年金は終了しますが、一定の要件を満たす場合には、今度は配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一定額が引き継がれます。加算される先が、本人から配偶者へ移るという流れです。

2.2 所得や世帯の収入が基準を下回る場合の「老齢年金生活者支援給付金」

「老齢年金生活者支援給付金」は、老齢基礎年金を受け取っている方のうち、所得や世帯の収入が一定の基準を下回る場合に、生活の底上げを目的として支給されるものです。

年金本体とは別の法律にもとづいて支給される「給付金」という位置づけになっており、年金とは別の仕組みで動いている点が特徴です。

対象になる人として示されている条件

年金生活者支援給付金制度について3/8

年金生活者支援給付金制度の概要図

出所:日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である

※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される

2026年度の給付基準額と、金額の決まり方

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額4/8

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額の一覧

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」をもとにLIMO編集部作成

2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。

この基準額をもとに、保険料の納付状況等に応じて実際の給付金額が算出されます(下記①と②の合計額)。

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月

※②で保険料免除期間に掛ける金額は、老齢基礎年金の額の改定に応じて年度ごとに変わります。

ここから分かるのは、給付基準額である月額5620円がそのまま全員に支払われるわけではないということです。納付済みの月数がどれだけあるかによって金額が動くため、自分の場合にいくらになるのかは納付記録を確かめないと分かりません。

鶴田 綾
この2つは、対象になるかどうかの決まり方がまったく違います。加給年金は加入期間と家族の状況で、老齢年金生活者支援給付金は所得と世帯の課税状況で決まります。どちらも「自分は関係ないだろう」と早めに判断されがちですが、判断の材料になるのは加入記録や課税の状況といった、手元の書類で確かめられるものです。まずはそこを見てみる、という進め方をお伝えすることが多いです。

3. 【雇用保険】60歳を過ぎて働く場面で関わってくる3つの給付

働き続けるシニア世代にとって、就労に関連する給付金や手当も見過ごせない存在です。

シニアの就労を支える制度は整いつつあるものの、一般的には60歳を境に収入が下がる傾向があります(※)。また、就職活動や就労の継続が、若い頃と同じようにスムーズに進む方ばかりではないでしょう。

ここでは、シニア世代が押さえておきたい雇用保険に関連する手当・給付金を3種類取り上げます。

※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円

3.1 65歳未満で決まるまでの期間が短いほど額が増える「再就職手当」

再就職手当は、早期の再就職を後押しするための手当です。「失業から再就職まで」「失業から事業開始まで」の期間が短いほど、支給される額が多くなる仕組みになっています。

再就職手当の支給要件として示されているもの

  • 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
  • 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給

支給残日数によって変わる給付率

  • 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
    • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
    • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」

再就職手当の額5/8

再就職手当の額の計算方法

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

なお、再就職手当を受け取ったうえで再就職先に6カ月以上雇用され、かつ再就職先での6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも少ない場合には、「就業促進定着手当」の対象となります。手当が一段階に分かれている点も、見落とされやすいところです。

3.2 60歳以上65歳未満で賃金が下がったまま働き続けるときの「高年齢雇用継続給付」

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の方が就労を続ける際に、賃金が60歳到達時よりも減少した場合に支給される給付金です。

高年齢雇用継続給付の支給要件として示されているもの

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合

支給率は段階的に見直されている

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%

【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)6/8

高年齢雇用継続給付の支給率の早見表

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

老齢年金を受け取りながら、厚生年金に加入して「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合には、在職による年金の支給停止に加えて、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる点にも留意が必要です。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%

3.3 一時金としてまとめて支給される65歳以上向けの「高年齢求職者給付金」

65歳以上で失業した場合に対象となるのが、高年齢求職者給付金です。

高年齢求職者給付金の支給要件として示されているもの

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
  • 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
    1. 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
    2. 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す

被保険者であった期間で変わる支給日数

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
    • 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額

65歳未満の方が受け取る「失業手当」は4週間に一度ずつ失業認定を受けてから給付されるのに対し、この高年齢求職者給付金は一括で支給されます。受け取り方の形そのものが違うということです。

3.4 60歳代前半は、手続きの順番によって受け取る総額の見え方が変わる

65歳未満に支給される「特別支給の老齢厚生年金」は、ハローワークで手続きをして雇用保険の基本手当(失業手当)を受給すると全額支給停止となり、その状態は、求職の申込みを行った日の属する月の翌月から、失業給付の受給期間が経過する月、または所定給付日数を受け終わる月のいずれか早い月まで続きます。

失業手当の日額より年金のほうが高かった場合には、結果として受け取る総額が目減りするケースもあり得ます。

そのため、60歳代前半で退職する場合には、基本手当の受給総額と、支給停止される特別支給の老齢厚生年金の総額を並べて比べたうえで、申請するかどうかを検討する流れになります。

なお、65歳到達日以後に退職した場合は「高年齢求職者給付金」の対象となりますが、65歳以降の老齢年金は雇用保険の給付と調整されないため、同時に満額を受け取れるとされています。65歳未満での受給とは扱いが大きく異なる点は、押さえておきたいところです。

鶴田 綾
雇用保険の給付でとくに分かりにくいのが、年金との調整が組み込まれている点です。片方を申請すると、もう片方が止まる。この関係は、それぞれの制度の説明を別々に読んでいるだけでは見えてきません。退職や再雇用のタイミングが近い方には、年金事務所とハローワークの両方で見込みを尋ねておくという進め方をお伝えしています。

4. 【医療・介護・生活】払い戻しの仕組みと、世帯の状況で判定が変わる支援

60代、70代と年齢を重ねるにつれ、家計に重くのしかかってくるのが「医療費」と「介護費用」です。こうした出費で暮らしが立ち行かなくなる事態を避けるため、公的医療保険や介護保険には上限額の機能や払い戻しの仕組みが用意されています。

4.1 ひと月ごとの負担に上限を置く「高額療養費制度」

月の初日から末日までにかかった医療費の自己負担額には、年齢や所得に応じた「自己負担限度額」が定められています。その額を上回った分が、あとから払い戻される仕組みです。

70歳未満で年収が約370万〜約510万円という一般的な所得層の場合、ひと月の自己負担限度額は「約8万5800円+(医療費から28万6000円を引いた額)の1%」が基本の形として示されています。

ここで気をつけたいのが、事前の手続きをしていない場合です。退院時に窓口で多額の費用をいったん立て替え払いすることになり、払い戻し(還付)を受けられるのは3〜4カ月後という流れになります。

2026年現在では、マイナ保険証を利用するか、事前に「限度額適用認定証」を申請しておくことで、窓口での支払いを最初から上限額までに抑えることが可能とされています。

4.2 1カ月の介護費用に上限を設ける「高額介護サービス費」

介護保険サービスを利用して支払った1カ月の自己負担額(1割〜3割)の合計が、所得に応じた上限額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。

実務のうえで知っておきたいのは、「介護施設での食費・居住費(部屋代)・日常生活費」や「特定福祉用具購入費・住宅改修費」は、この計算対象から完全に除外されるという点です。

「高額介護サービス費があるから、特別養護老人ホームに入っても月額数万円で済む」という理解のままでいると、対象外の食費や居住費が毎月10万円以上加算され、資金が足りなくなる原因になりえます。

4.3 1年分をまとめて見る「高額医療・高額介護合算療養費制度」

毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間について、医療費と介護費用の自己負担額を世帯単位で合算し、基準額を超えた分の払い戻しを受けられる制度です。

年間単位での計算になるため意識から抜けやすいのですが、支給対象となる世帯には原則として医療保険者から案内が届きます。

ただし、計算期間の途中で「75歳になり後期高齢者医療制度に移行した」「退職して会社の健康保険から国民健康保険に切り替わった」といった保険の異動があった場合には、データが分断されて案内が届かないことがあります。その場合は、自ら過去の保険者に申請して合算の手続きを行う必要があり、それをしないまま時効(2年)を迎えると受けられなくなるとされています。時効の起算や期間の扱いは状況によって異なることがあるため、実際の期限はご自身が加入していた医療保険者にご確認ください。

4.4 非課税世帯の判定が入り口になる「臨時給付金・自治体の支援」

物価の高騰への対策として、「住民税非課税世帯」を対象に7万円や10万円といった臨時給付金が、政府や自治体から支給されることがあります。

この給付金は、そのときどきの補正予算や地方交付金を活用した一時的なものです。判定のうえで押さえておきたいのは、「住民税が課税されている方(別居の家族などを含む)の税法上の扶養親族等のみで構成されている世帯」は、世帯分離をして住民票上は非課税の単身世帯になっていても、給付の対象外(不該当)とされる点です。住民票のうえでの世帯状況にかかわらず、税法上の扶養の状況が判定に影響します。

住民税非課税世帯にあたるかどうかの収入基準や、対象となる優遇制度の中身についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド

4.5 世帯分離は、負担が増える側とセットで見ておく

医療や介護の軽減制度をめぐって相談の場で話題になりやすいのが、「世帯分離」の扱いです。「世帯を分ければ住民税非課税世帯になり、高額療養費の上限も下がり、臨時給付金も受け取れる」という説明だけを見て手続きをした結果、会社の健康保険の扶養から外れ、国民健康保険料と介護保険料が単独で請求されて、かえって家計の負担が増えてしまう場合もあります。

行政の軽減制度は、税金・社会保険料の負担がどう変わるかという裏側とセットで見ておく。判断の順番としては、この形になります。

鶴田 綾
医療や介護の仕組みは、上限を超えた分があとから戻ってくるという形が中心です。つまり、いったん支払う場面が先に来ます。事前の手続きをしておけば窓口での支払いを抑えられるものもありますので、入院や施設の利用が見込まれる段階で、加入先の医療保険者や市区町村に確かめておくという方法があります。

5. 2025年に成立した年金制度改正で見直された遺族厚生年金と在職老齢年金

働き方や家族構成の多様化に年金制度をどう合わせていくか。2025年6月に成立した「年金制度改正法」は、この点を主眼のひとつに置いたものとされています。

この改正では、いわゆる「106万円の壁」の撤廃に関連する社会保険の加入要件の拡大のほか、遺族年金に関する見直しも盛り込まれました。

5.1 遺族厚生年金の男女差は、いつからどう見直されるのか

遺族厚生年金の見直し8/8

遺族厚生年金の見直しの概要図

出所:厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」

現在の遺族厚生年金の仕組みでは、受給者の性別によって下記のような男女差がありました。

現行の遺族厚生年金の組み立て

  • 女性
    • 30歳未満で死別:5年間の有期給付
    • 30歳以上で死別:無期給付
  • 男性
    • 55歳未満で死別:給付なし
    • 55歳以上で死別:60歳から無期給付

この男女差を解消していくための見直しは、2028年4月からの施行が予定されています。

2028年4月から施行が予定されている仕組み

「原則5年間の有期給付」の対象となる要件が、男女それぞれについて細かく定められました。

  • 女性:施行直後(2028年4月)に原則5年間の有期給付の対象となるのは、「18歳年度末までのこどもがいない、2028年度末時点で40歳未満の方」です。(※既に遺族厚生年金を受給している方や、2028年度に40歳以上になる女性は見直しの影響を受けません。)
  • 男性:新たに5年間の有期給付を受けられるようになるのは、「18歳年度末までのこどもがいない60歳未満の方」です。
  • こどもがいる場合:18歳年度末までのこどもがいる場合は、こどもが18歳年度末になるまでは現行制度と同じであり、見直しの影響はありません。こどもが18歳になった後、さらに5年間は増額された有期給付および継続給付の対象となります。

有期給付・継続給付として拡充される内容

配慮を要する場合の給付についても、金額と要件が具体的に示されています。

  • 有期給付の増額:有期給付には新たに「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍となります。
  • 継続給付(5年目以降の給付継続)の要件:5年間の有期給付終了後も、障害状態にある方や収入が十分でない方は、引き続き増額された遺族厚生年金を受給できます。単身の場合、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下の方は継続給付が全額支給され、概ね月額20~30万円を超えると全額支給停止となります。

この改正では「遺族基礎年金」の見直しも盛り込まれました。同一生計にある父または母が遺族基礎年金を受け取れなかった場合でも、2028年4月以降は、こどもが単独で「遺族基礎年金」を受け取れるようになるとされています。

5.2 減額の基準額が変わった「在職老齢年金」

「在職老齢年金」は、働きながら年金を受け取る場合に年金が減額される仕組みです。この点については就労意欲を阻害しているとの指摘を受け、減額される基準額が65万円に引き上がりました。

制度の方向としては、就労を続けながら公的な給付を受け取る場面が想定されやすくなっています。一方で、公的な制度でまかなえる範囲には限りがあるため、自分で用意する部分と組み合わせて考える必要も出てきます。ただし、こうした制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わります。実際の取り扱いは、年金事務所など所管の窓口でご確認ください。

鶴田 綾
改正の話は「いつから、誰に、どう変わるのか」が細かく分かれていて、施行の時期も先になっているものがあります。ご相談では、いま該当するのか、これから該当しうるのかを分けて見ていくと整理しやすい、という整理に行き着くことが少なくありません。ここで触れた内容も今後の運用で変わる可能性がありますので、最新の内容は所管の窓口でご確認いただければと思います。

6. 制度の中身を確かめる習慣は、自分で契約したものを見るときにも働く

ここまで、シニア世代に関わる公的なお金を順に見てきました。

今ある制度も、新しくできる制度も、内容を確かめておくことで初めて自分に関わるものとして見えてきます。普段から少しずつでも情報に触れておく。それが、気づける状態をつくることにつながります。

そのうえで、老後の暮らしの土台となる年金や、この記事では取り上げていない地方自治体独自の制度も合わせて確かめておくと、物価の上昇が続くなかでも選べる余地が広がっていきます。

そして、確かめないと分からないという点では、自分で契約したものも同じです。保障がついているものと運用だけのものでは、支払ったお金の行き先も、受け取れる額の決まり方も違います。運用している部分には価格変動リスクがあり、値動きによって受け取れる額が変わり、元本割れとなる場合もあります。額が決まっているのか、そのときの状況で変わるのか。この区別は、公的な給付と自分で契約したものを並べて見るときの手がかりになります。確かめる先が、年金事務所やハローワークから、証券や通知書、契約先の窓口に変わるだけです。

7. 申請の場面で寄せられることの多い3つの質問

7.1 Q. 退職後、失業手当をもらっている間は、配偶者の社会保険の扶養に入れるのか

A. 失業手当(基本手当)の「日額」によります。失業手当は非課税のため所得税の計算には入りませんが、健康保険の扶養審査では「収入」として厳格にカウントされます。60歳未満なら日額3612円(年収換算130万円未満)、60歳以上なら日額5000円(年収換算180万円未満)を超えている場合、手当を受給している期間中は配偶者の扶養に入れず、自分で国民健康保険に加入して保険料を支払う必要があります。

7.2 Q. 役所から給付金の案内が何も来ないのは、対象外ということなのか

A. そうとは限りません。年金生活者支援給付金のようにハガキが届くものもありますが、加給年金、高年齢雇用継続給付、失業手当などは、すべて「自己申告(申請主義)」です。条件を満たしていても役所から案内は来ません。自分で年金事務所やハローワークに出向き、「自分は対象になりますか」と手続きのアクションを起こす必要があります。

7.3 Q. 特別支給の老齢厚生年金と失業手当は、どちらをもらったほうがよいのか

A. ご自身の「年金額」と「失業手当の日額・給付日数」を並べて計算しないと、答えは決まりません。現役時代の給与が高く失業手当の日額が高い方は、ハローワークで手続きをしたほうが受け取る額が多くなり、逆に給与が低めで年金の加入歴が長い方は、失業手当を受けずに年金を受け取り続けたほうが、合計の受取額が多くなる場合もあります。退職の前に最寄りの年金事務所で年金見込額を出し、ハローワークの失業手当計算ツール等で試算しておくとよいでしょう。

鶴田 綾
この3つは、いずれも「自分の場合の数字を出さないと答えが決まらない」という共通点があります。制度の説明を読むだけでは判断がつかないのは、当然のことだと思います。年金の見込額、失業手当の日額、扶養の判定に使われる収入。この3つを手元にそろえてから比べる、という順番でご案内することが多いです。

8. 【独自試算】受け取りの開始が3年、5年と遅れると、その期間に積み上がる額の見え方はどう変わるか

ここまで見てきたとおり、公的な給付の多くは、自分で請求しないと支給が始まりません。では、受け取りの開始が遅れた場合、その遅れた期間の長さは金額としてどのくらいの重みを持つのでしょうか。ここでは、この記事で扱った2026年度の金額だけを使って、1年・3年・5年という3つの長さで並べてみます。

置いた前提は次のとおりです。ここで扱う給付の対象になるかどうかは、加入期間や配偶者の年齢、前年の所得、世帯の課税状況などによって一人ひとり異なります。以下の数字は、いずれも「仮に対象になったとしたら」という前提のもとで計算したものです。

  • 加給年金の配偶者分は、2026年度の年額として示されている24万3800円を使う(特別加算は考えない)
  • 老齢年金生活者支援給付金は、2026年度の給付基準額である月額5620円がそのまま12カ月分支払われた場合として置く(実際には保険料納付済期間などに応じて金額が変わります)
  • 1年目から5年目まで同じ金額が続くものとして置く。年度ごとの改定は考えない
  • 税金・社会保険料は考えない
  • これは「受け取りの開始が早い場合と遅い場合で、その期間に積み上がる額がどれだけ違うか」を並べたものです。あとから気づいたときにさかのぼって受け取れるかどうかを示すものではありません

8.1 ケース1:老齢年金生活者支援給付金だけに該当した場合

  • 1年分:5620円 × 12カ月 = 6万7440円
  • 3年分:5620円 × 36カ月 = 20万2320円
  • 5年分:5620円 × 60カ月 = 33万7200円

8.2 ケース2:加給年金の配偶者分だけに該当した場合

  • 1年分:24万3800円
  • 3年分:24万3800円 × 3 = 73万1400円
  • 5年分:24万3800円 × 5 = 121万9000円

8.3 ケース3:2つの給付の両方に該当した場合

1年あたり 24万3800円 + 6万7440円 = 31万1240円として置きます。

  • 1年分:31万1240円
  • 3年分:31万1240円 × 3 = 93万3720円
  • 5年分:31万1240円 × 5 = 155万6200円

8.4 3つのケースを並べて見えること

1年分だけで見ると、3つのケースの金額は6万7440円から31万1240円の間に収まります。ところが5年分で見ると、33万7200円から155万6200円まで広がります。同じ制度、同じ金額を置いているのに、見ている期間の長さが変わるだけで、印象はまったく違ってきます。

もうひとつ確かめておきたいのは、ケース3を月あたりに直すとどうなるかです。31万1240円 ÷ 12カ月で、およそ2万5900円になります。ケース1だけなら月5620円です。毎月の家計のなかで、この水準の金額が目立って見えるかというと、そうとは限りません。1カ月分では気づきにくい額でも、ケース3を5年分まとめて見ると100万円を超える規模になります。この差の出方が、今回の試算でいちばん確かめておきたいところです。

言い換えると、遅れた期間の長さは、そのまま倍率として効いてきます。3年なら3倍、5年なら5倍です。金額の大小そのものよりも、「気づくのが遅れるほど差が広がる形になっている」という構造のほうに目を向けておくと、確かめる動機を持ちやすくなるかもしれません。

なお、受け取りの開始が遅れることは、本人の注意深さの問題ではありません。ここまで見てきたとおり、制度ごとに担当する窓口が分かれていて、案内が届く仕組みになっているものとそうでないものが混在しています。差が生まれる原因は、気づきにくい作りのほうにあります。

ここで並べた金額は、一定の条件を置いたうえでの目安にすぎません。実際にいくら受け取れるのか、そもそも対象になるのかどうかは、加入記録や所得の状況しだいで一人ひとり変わります。受給要件も、所得の基準も、支給額も、この記事の内容だけで判断できるものではありません。制度の内容は改正されることがあり、要件や金額も人によって変わりますので、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認ください。

村岸 理美
この試算で並んでいるのは、同じ金額でも、見る期間の長さによって受け取る印象が変わるという構造です。月あたりでは5620円から約2万5900円という水準ですが、5年分では33万7200円から155万6200円になります。読みどころは金額の大きさよりも、期間が倍率として効くという点かと思います。確かめ方には、いくつかの入り口があります。ねんきん定期便や年金の通知書で加入記録と受給の状況を見ておく。退職や再雇用など働き方が変わる時期に、年金事務所とハローワークのそれぞれで見込みを尋ねておく。世帯の課税状況が変わったときに、市区町村の窓口で対象になる支援があるかを確かめておく。どれから始めても構いませんし、一度にすべてを済ませる必要もありません。そして、中身を確かめないと分からないという点では、ご自身で契約された保険や運用しているものにも同じことが言えます。そちらは、支払ったお金のうちどれだけが運用に向かうのか、受け取れる額が運用の結果によって変わり支払った額を下回る場合があるのかどうかが、確かめる対象になります。なお、制度の内容は改正されることがあり、要件や金額は人によって変わりますので、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認いただければと思います。