6. 30歳代に多い「老後まで引き出せない制度を使うべきか決めきれない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・鶴田 綾が伝えたいこと
収入が変わる時期を見据えて、現役のうちに何を準備しておくか。この問いは、定年がまだ先の世代からも寄せられます。
ここでは、ファイナンシャルアドバイザーが日頃の面談でよく受けるご相談のひとつを、個人が特定されないよう内容を一般化したうえで取り上げます。
6.1 30歳代に多いお悩み相談は「老後まで引き出せない制度を使うべきか決めきれない」

すでに積立を続けてこられた方ほど、始めるかどうかではなく、どの制度をどこまで使うかという段階でのご相談になります。税の優遇という言葉が出てくると、使えるものは一通り使っておいたほうがよいのではないか、という受け止め方に傾きやすいものです。
6.2 【ファイナンシャルアドバイザー・鶴田 綾が回答】運用は手取りを増やす手段ではなく、手取りの中から回す先を決める話
またiDeCoについては、掛け金が全額所得控除となり、所得税や住民税を軽減することができます。
どのくらい税負担を軽減できるかは、iDeCoの公式サイトのシミュレーションなどを利用して確認しましょう。
税金面での優遇が高いのはiDeCoですが、iDeCoは60歳まで引き出しが制限されており、老後資金を準備するための制度です。
一方、NISAはいつでも引き出しができ老後資金以外の準備にも活用することができます。
それぞれ特徴が異なるため、自分にあった制度を活用しましょう。
6.3 ポイント1:運用は手取りそのものを増やす手段ではない
相談の場で最初に整理させていただくのは、手取りと運用の関係です。手取りとは、収入から税金や社会保険料が差し引かれたあとに、実際に使えるお金として残る金額を指します。
運用は、この手取りの外側から新しくお金を足す仕組みではありません。手取りとして残ったお金のうち、当面使う予定のない部分をどこに置いておくかを決める話です。
ですので、運用を始めたからといって、毎月の手取りそのものが増えるわけではない、という点は最初に押さえておきたいところです。
もうひとつ、値動きの性質にも違いがあります。特定の一社の株式を持つ場合は、その会社の業績や出来事がそのまま価格に表れます。投資信託は複数の資産をまとめて持つ形になりますので、ひとつの動きが全体に与える影響は相対的に小さくなる傾向があります。
ただし、どちらも価格は上下しますし、投入した金額を下回る、いわゆる元本割れとなる可能性があります。
また、株式などから受け取る配当や分配のお金には、受け取る時点で税金がかかるのが原則です。税制の優遇がある制度の中で受け取る場合には、その取り扱いが変わることがあります。
税の優遇は、こうした運用に伴ってかかる税の負担が軽くなるという意味であって、給与の手取りが増えることを意味するものではない、という区別になります。
6.4 ポイント2:積立に回す額は手取りに対する割合で考える
では、手取りの中からどれくらいを積立に回すか、という話になります。相談の場では、手取り収入の2〜3割程度を目安にする、という考え方をお伝えすることがあります。
これは、その方の家計の状況を確かめたうえで示した目安であり、どなたにでも当てはまる推奨の数字ではありません。住まいにかかる費用や、これから見込まれる教育の費用、借入の有無によって、無理なく回せる範囲は大きく変わります。
それでも、金額そのものではなく割合で考える形には利点があります。ひとつは、収入が変わったときに積立の額も自然に上下するため、続けやすさが保たれることです。
もうひとつは、残りの部分をどう使うかが同時に見えることです。手取りのすべてを積立の候補として眺めるのではなく、生活に使う部分、何かあったときにすぐ動かせるように置いておく部分、当面使う予定のない部分に分けたうえで、最後の部分の中から割合を決める。
この順番であれば、途中で止めざるを得なくなる場面を減らしやすくなります。
なお、割合を先に決めてしまうと、手元に置いておく資金が薄くなることもあります。まずは数か月分の生活費にあたる資金を確保してから割合を考える、という進め方もあります。
6.5 ポイント3:老後まで引き出せない制度は無理に始めなくてよい
ご相談の中心にあった、老後まで引き出せない仕組みについてです。こうした制度は、税の優遇が手厚く設けられている一方で、原則として一定の年齢に達するまで資金を引き出せません。
30歳代は、住まいの取得や家族構成の変化、教育に関わる支出など、まとまったお金が動く可能性のある時期でもあります。その時期に、引き出せない形で資金を固定してしまうと、必要な場面で手が出せないという状況が生まれることがあります。
ですので、周りが使っているからという理由で無理に始める必要はない、というお話をさせていただくことが少なくありません。
もうひとつ、ご質問にあった収入の目安についてです。掛金が所得から差し引かれることで税の負担が軽くなる仕組みは、その方が納めている税額の範囲でしか効きません。収入や控除の状況によっては、想定していたほどの効果にならないこともあります。
ご自身の場合にどの程度になるのかは、前年の収入や適用されている控除によって変わりますので、具体的な金額の確認は、お住まいの市区町村の窓口や税務の専門家、勤務先の関連する部署に確かめながら進めていただくのが確かなやり方です。
また、これらの制度の中で運用する部分にも価格の変動があり、元本割れとなる可能性があります。制度や税制の取り扱いは改正によって変わることもありますので、その点もあわせて確認しておきたいところです。
相談の場では、どの制度を使うかを決める前に、手取りの中のどこまでを運用に回せる部分として切り分けるか、という順番に行き着くことが少なくありません。無理のない割合や制度の向き不向きは、収入の安定度やご家族の状況によって変わりますので、個別の判断については専門家に確かめながら進めていただければと思います。
7. 公務員の定年引上げは、自分の定年年度を確かめることから
公務員の定年引上げは、令和13年度の65歳へ向けて2年に1歳ずつ進んでいます。令和8年度(2026年度)の定年年齢は62歳で、60歳に達した日後の最初の4月1日以後は基本給が7割水準になります。
下がる部分だけを見ると不安が先に立ちますが、住居手当や扶養手当は7割水準になりませんし、60歳以降の働き方も3通りが用意されています。減る部分と維持される部分の両方を並べて見ることが、見通しを立てる近道です。
退職金の水準そのものが気になる方は、【国家公務員の退職金】定年退職の平均は2160万1000円、自己都合なら345万4000円。勤続年数別の一覧と、2026年度に定年を迎える62歳の働き方もあわせてご覧ください。
まずは自分の生年から定年年度を確かめ、そのうえで勤務先の人事担当部門や共済組合の相談窓口に個別の条件を確認してみてください。情報提供・意思確認の案内を受け取ったときが、確かめる良いきっかけになります。
参考資料
- 人事院給与局・内閣官房内閣人事局「国家公務員の60歳以降の働き方について(概要)」(令和8年4月)
- 人事院「定年・役職定年・再任用【制度・施策の紹介】」
- 総務省公務員部「地方公務員法の一部を改正する法律について(地方公務員の定年引上げ関係)」
鶴田 綾
