8月は公的年金が振り込まれる偶数月にあたり、受け取る金額をあらためて眺める機会が増える時期です。

受け取る側の金額に目が向く一方で、現役世代の働き方のほうにも変化が表れています。厚生労働省が公表した令和6年度の統計では、会社員などに扶養される配偶者にあたる「第3号被保険者」が5年連続で減りました。共働きという形が広がってきたことの表れでもあります。

世帯の収入源が2つになると、将来の年金の土台は厚くなりやすくなります。いっぽうで、育児や介護、働き方の切り替えによって、世帯の収入が一時的に下がる時期も出てきます。そのときに毎月の積立をどう扱えばよいのか、判断に迷う方は少なくありません。

この記事では、厚生年金を実際にどれくらい受け取っているのか、第3号被保険者の減少と共働き世帯の広がり、そして家庭内の育児・家事分担の現状を順に確認していきます。

そのうえで、世帯の収入が下がる時期に毎月の積立を「止める」「金額を下げて続ける」「そのまま続ける」で分けた場合、20年後の到達額がどう違いうるのかを試算で並べてみます。

長井 祐人
共働きのご家庭からは、「収入が2人分あるうちに、どこまで積み立てておけばよいか」というご相談をよくいただきます。ただ、実際に判断が難しくなるのは、収入が2人分そろっている時期よりも、どちらかの働き方が変わって世帯の収入が下がる時期のほうです。まずは公的年金という土台がどれくらいの高さにあるのかを、いま受け取っている世代の実額から確かめていきましょう。

なお、厚生年金の受給額や公的年金の平均受給額に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【厚生年金】2026年6月支給分から「標準的な夫婦世帯」の年金額が4495円アップ!支給日に「60万円(月30万円)以上」受給する人は全体の何%?遺族・離婚時のルールも解説
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【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説
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1. 厚生年金「月30万円以上」は0.1%|共働きで積み上げる土台の現在地

共働きで働き続けた世帯では、将来の年金がどれくらいの高さになるのか。見通しを立てる前に、いま受け取っている世代の実額を確かめておきましょう。厚生年金の受給水準については、【厚生年金】2026年6月支給分から「標準的な夫婦世帯」の年金額が4495円アップ!支給日に「60万円(月30万円)以上」受給する人は全体の何%?遺族・離婚時のルールも解説から要点を引用します。

夫婦2人分の標準的な年金額は月額23万7279円となりますが、実際には1人で月30万円以上を受け取る人もいます。

厚生年金(国民年金部分を含む)の平均年金月額は〈全体〉15万289円、〈男性〉16万9967円、〈女性〉11万1413円。受給額ごとの受給権者数をみると、月30万円以上を受け取っている人はごく一部にとどまります。

ここに示された夫婦2人分の月額23万7279円は、ある働き方を想定した標準的なケースの金額です。実際の受給額は世帯ごとに幅がありますので、そのまま自分の将来の収入欄に書き写せる数字ではありません。

1人で月30万円以上を受け取っている人もいますが、その割合は全体の0.1%ほどにとどまります。平均を挟んで上にも下にも広がりがあり、どのあたりに着地するかは、現役時代の報酬の水準と、厚生年金に加入していた期間の長さで決まってきます。

つまり土台の高さを左右しているのは、一時点の収入の高さというより、収入を得ながら制度に加わり続けた時間のほうです。共働きという働き方が年金の話題と結びつくのも、この「加入し続けた期間」という部分に関わってくるためです。

長井 祐人
相談の場では、平均額を聞いて「思っていたより多い」と受け取る方と、「これでは足りない」と受け取る方の両方がいらっしゃいます。同じ数字でも、いまの家計の支出水準によって見え方が変わるためです。まずはご自身の見込み額を記録から確かめて、そのうえで上乗せをどうするかという順番で考えていくと、話が整理しやすくなります。

2. 5年連続で減った「第3号被保険者」|共働きへ移った世帯で変わるもの

国民年金にはいくつかの加入区分があります。そのうち「第3号被保険者」は、厚生年金(公務員などが加入していた旧共済年金を含む)に加入する第2号被保険者の配偶者で、一定の収入条件を満たす人が対象となる区分です。令和6年度末の時点では、約641万人が該当しています。

厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」を見ると、女性の第3号被保険者は5年続けて減少していることがわかります。

第3号被保険者の内訳(総数:約641万人)

  • 男性:約13万人(+3.1%)
  • 女性:約628万人(▲6.7%)

この区分の特徴は、本人が保険料を負担しなくても国民年金に加入している扱いになる点にあります。費用は厚生年金制度の全体で負担する仕組みですから、配偶者個人の保険料が上乗せされるわけではありません。加入の手続きも本人ではなく、配偶者の勤務先を通じて行われます。

該当する人の多くが女性である背景には、日本の就業構造が関わっています。【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説で整理されている厚生年金・国民年金の平均受給額にも、その差がはっきりと表れています。

2.1 第1子出産のあとも働き続ける人が53.8%|就業継続が過半数を超えた背景

厚生労働省が公表する「令和7年版厚生労働白書」からは、第1子の出産をめぐる女性の就業状況の移り変わりが読み取れます。

かつては第1子の出産を機に仕事を離れる「出産退職」が多数派でしたが、2015〜19年のデータでは53.8%が就業を継続しており、過半数を超えました。

ただし、仕事を離れずに済んだとしても、育児との両立のためにパートや派遣といった非正規の働き方を選ぶケースは今も多く見られます。これが、将来受け取る厚生年金額が伸びにくい要因や、第3号被保険者にとどまる要因の一つになっています。

共働きに切り替わったからといって、世帯の収入がそのまま2倍になるわけではない、ということでもあります。積立の金額を決めるときも、いまの収入がこの先ずっと続く前提で組むと、働き方が変わった時期にきつくなりやすいところです。

長井 祐人
共働きのご家庭では、家計をひとつにまとめている場合と、それぞれで管理している場合とで、収入が下がったときの見え方がかなり違ってきます。片方の収入が減っても世帯全体では回っているのに、積立をしている側の口座だけが苦しくなる、という形になることもあります。世帯の収入で見るのか、個人の収入で見るのかを先に決めておくと、金額を調整するときの判断がしやすくなります。

3. 育児・家事の時間は妻が夫の約4倍|共働きでも残る家庭内の偏り

共働き世帯が増えたとはいえ、家庭内の分担には依然として偏りが残っています。令和7年版「厚生労働白書・日本の1日」によると、6歳未満の子どもがいる家庭では、夫の家事・育児時間が1日平均で1時間54分であるのに対し、妻は7時間28分でした。

妻が夫の約4倍の時間を家庭に充てているという状況は、働き方を維持し、厚生年金に長く加入し続けるうえでの壁になりやすいところです。年金制度の側の見直しだけでなく、こうした家庭内の分担が変わっていかない限り、老後資金の差は埋まりにくいと考えられます。

そして、この偏りは家計の面にも表れます。働く時間を減らした側は、収入が下がるだけでなく、自分の名義で続けてきた積立まで止めるかどうかの判断を迫られやすくなります。相談の場でも、この局面で手が止まってしまうというお話は少なくありません。

長井 祐人
働く時間を減らす時期があること自体は、珍しいことではありません。ご相談を受けていて感じるのは、その時期に「続けるか、やめるか」の二択で考えてしまうと、結論が出ないまま数カ月が過ぎてしまいやすい、ということです。金額を動かすという選択肢を間に置いておくと、判断の幅が広がります。

世帯の収入と積立の関係についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
新NISA、実は「年収300万円未満」が4割?利用者のリアルな年収割合と人気の投資銘柄を解説【2026年最新】

4. 【独自試算】収入が下がる時期に積立を「止める」「下げて続ける」「そのまま続ける」で20年後はどう違うか

育児や介護、働き方の切り替えで世帯の収入が一時的に下がる時期は、共働きの世帯にも訪れます。そのときに毎月の積立をどう扱うかで、20年後の到達額はどのくらい違いうるのか。「止める」「金額を下げて続ける」「そのまま続ける」の3つに分けて、目安として並べてみます。

4.1 置いた前提

  • 毎月3万円を20年間(240カ月)積み立てることを基本の形とする
  • 6年目からの3年間(36カ月)を、世帯の収入が下がる時期と仮定する
  • ケースA=その36カ月は積立を止め、それまでの残高はそのまま運用を続ける
  • ケースB=その36カ月は毎月1万円に下げて続け、そのあと毎月3万円に戻す
  • ケースC=その36カ月のあいだも毎月3万円のまま続ける
  • 想定年利は3%とし、月利は「(1+年利)の12分の1乗-1」で求める
  • 毎月末に積み立て、複利で運用が続くものとする。税金・手数料・インフレの影響は考慮していない

4.2 20年後の到達額(年利3%・目安)

  • ケースA(止める):積立元本612万円 → 約819万円(増えた分は約207万円)
  • ケースB(下げて続ける):積立元本648万円 → 約873万円(同 約225万円)
  • ケースC(そのまま続ける):積立元本720万円 → 約980万円(同 約260万円)

4.3 差はどこから生まれるか

ケースAとケースBの差は、積み立てた元本で36万円、20年後の到達額では約54万円です。ケースBとケースCの差は、元本で72万円、到達額では約107万円となりました。どちらも、到達額の差のほうが元本の差より大きくなっています。積み立てた金額そのものに加えて、その金額が運用される時間の長さが効いてくるためです。

言い換えると、収入が下がる時期に金額を下げて続けるという形は、止めた場合と続けた場合のちょうど中間ではなく、条件によっては止めた場合の側から少し離れた位置に着地しうる、ということになります。

ただし、これは一定の利回りが続いたと仮定した場合の計算であり、将来の運用成果を保証するものではありません。実際の運用では価格が上下しますし、受け取るタイミングの相場によっては、積み立てた元本を下回る、いわゆる元本割れが起きる可能性もあります。

そして、この3つのどれが正解というものでもありません。収入が下がっている時期に無理をして続けた結果、生活のための資金まで削ってしまえば、別の負担が生まれます。手元にどれだけ置いておきたいか、いつまでにどのくらいの金額を用意したいのかによって、選び方は変わってきます。数字は、その判断の材料の一つとしてご覧いただければと思います。