3. シミュレーションで比べてみる

ここでは、住宅ローンの残高2000万円・残存期間20年、元利均等返済・期間短縮型で繰上返済するケースを例に、100万円を「繰上返済に回す場合」と「新NISAで20年間運用する場合」を比較します。

100万円を繰上返済 vs 新NISAで運用、20年間の効果を比較3/3

100万円を繰上返済 vs 新NISAで運用、20年間の効果を比較

出所:日本銀行、三菱UFJ銀行の公表金利データ、金融庁のNISA制度概要をもとにLIMO編集部試算

まず繰上返済の効果です。現行水準に近い変動金利0.945%のままだと仮定すると、100万円の繰上返済で減る利息は約20万2000円です。今後、変動金利が2.0%まで上昇すると仮定すると約47万5000円、3.0%まで上昇すると仮定すると約78万7000円まで、繰上返済の効果は大きくなります。つまり、今後の金利がどこまで上がるかによって、繰上返済の「お得度」は変わってきます。

次に新NISAの運用効果です。100万円を20年間、複利で運用したと仮定すると、想定利回り0%であれば当然増えませんが、3%であれば運用益は約81万円、5%であれば約165万円、7%であれば約287万円になる計算です。新NISAで運用した場合、この運用益には通常かかる約20.315%の税金がかからないというメリットもあります。ただし、これらの利回りはあくまで仮定の数字であり、実際の運用成果を予測したものではありません。市場環境によっては、想定通りの利回りが得られないことも、投資額を下回ることも十分にあり得ます。

この2つを並べてみると分かるのは、「今の低い変動金利のまま20年続く」と「新NISAの運用が年率5%前後で回る」という組み合わせでは新NISAの方が有利に見えますが、「変動金利が3%まで上がる」と「新NISAの運用が0%近辺で低迷する」という組み合わせになれば、繰上返済の方が確実に得だったということになります。どちらのシナリオが実現するかは、この記事を書いている2026年8月時点では誰にも分かりません。

和田 直子

このシミュレーションを見ると「結局どっちがいいの?」と思われるかもしれませんが、正直なところ、今の時点で正解を出すことはできません。繰上返済の効果は「今後どこまで金利が上がるか」次第ですし、新NISAの効果は「実際の運用成果」次第だからです。どちらも未来のことなので、答え合わせができるのは何年も先になります。

大切なのは、どちらか一方に全額を投じるのではなく、ご自身の資金の性格(当面使わないお金か、いつか使う予定があるお金か)や、リスクをどこまで受け入れられるかに応じて、配分を考えることだと思います。

4. 「5年ルール」「125%ルール」も押さえておきたい

変動金利で住宅ローンを組んでいる場合、金利が上昇したときの毎月の返済額の変わり方にも注意が必要です。多くの金融機関では、元利均等返済を選んでいる場合に「5年ルール」「125%ルール」と呼ばれる仕組みが採用されています。

5年ルールとは、金利が変動しても毎月の返済額を5年間は変更しないというルールです。125%ルールとは、5年ごとに返済額を見直す際も、新しい返済額は見直し前の1.25倍を上限とするというルールです。これらのルールにはメリットとデメリットの両方があります。

メリットは、金利が急に上昇しても、目先の毎月の返済額が急激に増えないため、家計への影響を緩やかにできることです。デメリットは、返済額に反映されなかった金利上昇分の利息が「未払利息」として積み立てられ、最終的にまとめて支払う必要が生じる場合があることです。返済額が変わらないからといって、支払うべき利息の総額が減っているわけではない点には注意が必要です。

なお、これらのルールは元利均等返済を選んだ場合に適用されるもので、元金均等返済を選んでいる場合には、そもそもこうしたルール自体がありません。また、金融機関によって採用状況が異なり、ソニー銀行やSBI新生銀行、PayPay銀行などは5年ルール・125%ルールを設けておらず、金利が変動すればその都度、毎月の返済額に反映される仕組みです。一方、住信SBIネット銀行やauじぶん銀行、楽天銀行、三菱UFJ銀行などは、こうしたルールを設けています。ご自身の住宅ローンにこれらのルールがあるかどうかは、契約時の書面や金融機関のホームページで確認しておくとよいでしょう。

和田 直子

5年ルールや125%ルールは「返済額が急に増えない安心感」がある一方で、未払利息という形で先送りされているだけの負担でもあります。「毎月の返済額が変わっていないから大丈夫」と思い込まず、金利が上がっているときは、返済予定表や金融機関からの通知で、実際にどれくらいの利息が発生しているのかを確認する習慣を持っておくと安心です。

ご自身の契約にこれらのルールがあるかどうかを知らないまま、変動金利で借りているという方も意外と多いので、この機会に契約書を確認してみることをおすすめします。

5. 判断のポイントをどう考えるか

ここまでの内容を踏まえて、新NISAと繰上返済のどちらを選ぶか考える際のポイントを整理します。

1つ目は、そのお金をいつ使う予定があるかです。当面使う予定のないお金であれば、新NISAで長期運用する選択肢が視野に入りますが、数年以内に使う予定がある資金(教育費や住み替え資金など)であれば、価格変動リスクのある投資よりも、確実な効果が見込める繰上返済の方が向いている場合があります。

2つ目は、価格が変動することへの心理的な耐性です。投資した資産が一時的に元本を割り込んだときに、落ち着いて持ち続けられるかどうかは、人によって大きく異なります。繰上返済は市場の値動きに影響されないため、こうした心理的な負担を避けたい人には合っている方法です。

3つ目は、現在のローン金利がどのくらいかです。金利がすでに高い(あるいは今後上がりそうだ)と感じるのであれば、繰上返済による「確実な効果」の割合が相対的に大きくなります。逆に、金利が低い水準にとどまっている場合は、新NISAで運用する余地も相対的に大きくなります。

4つ目は、5年ルール・125%ルールの有無です。これらのルールがない契約の場合、金利上昇の影響がすぐに毎月の返済額に反映されるため、金利動向への感度をより高めに持っておく必要があります。

繰り返しになりますが、どちらを選ぶのが「得」だったかは、今後の変動金利の動向と、実際のNISAの運用成果が分かってからでなければ答え合わせができません。この記事の内容は、その判断のための材料として活用していただき、実際に大きな金額を動かす前には、金融機関の窓口やファイナンシャルプランナーなど専門家にも相談しながら、ご自身の状況に合った判断をすることをおすすめします。

6. まとめ

2026年8月時点、日銀の段階的な利上げを背景に住宅ローンの変動金利も上昇傾向にあり、繰上返済の効果は以前より大きくなりやすい環境です。一方で、新NISAは非課税というメリットがあるものの、実際の運用成果は市場次第で変動します。実質金利・資金の流動性・リスクの大きさという3つの観点、そして5年ルール・125%ルールの有無を踏まえたうえで、ご自身の資金の使う時期やリスク許容度に応じて配分を考えることが大切です。どちらが正解だったかは、将来の金利動向と運用成果が判明してから初めて分かるものだということを念頭に置きながら、無理のない判断をしていただければと思います。

参考資料

和田 直子