金相場が再び高騰を見せています。春以降、やや落ち着いていた金価格は、2026年8月現在、1グラム2万5000円台(※純金・店頭買取価格 参考:田中貴金属工業)を突破。「タンスの奥に眠る喜平ネックレスや指輪を売って、老後資金の足しにしようか」と考える方も多いのではないでしょうか。

しかし、勢いに任せて売却してしまうと思わぬ「落とし穴」にはまるリスクがあります。

「年金は減らされる?」

「翌年の医療費窓口負担が増えるって本当?」

「子どもに遺すならどうする?」

この記事では、金の売却で損をしないための税金の仕組みや翌年の社会保険料への影響、保有形態(現物・積立・投資信託)ごとの違い、さらに賢い相続の工夫まで、シニア世代が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

ココがポイント
  • 金の売却益は年金の支給額自体には影響しないが、年間50万円を超えると確定申告が必要になり、翌年の社会保険料に影響することがある
  • 現物・金CFD・金ETF/投資信託など、保有形態によって税金の分類や社会保険料への影響が大きく異なる
  • 金のアクセサリーも相続税の課税対象であり、「現物ならバレない」は誤解。生前の整理も選択肢のひとつ

1. 金相場が再び高騰、「昔買ったアクセサリー」は今いくら?

まずは、金相場がどれくらい上昇しているのかを確認します。

金の小売価格(年平均)の推移1/2

金の小売価格(年平均)の推移

出所:田中貴金属工業「年次金価格推移」の公表データをもとにLIMO編集部作成

田中貴金属工業が公表している年次データ(税抜ベース)によると、金の小売価格は1998年の年平均1287円から、2010年に3477円、2020年に6122円、2025年には1万7302円まで上昇しました。さらに2026年8月26日時点の店頭小売価格(税込)は1グラム=2万6339円となっています。

この価格を単純に当てはめると、たとえば100グラムの金地金(インゴット)であれば、2万6339円×100グラムで約263万円の価値がある計算になります。ただし、これはあくまで小売価格をもとにした目安であり、実際の買取価格は業者や商品のデザイン・純度によって異なります。買取額を正確に知りたい場合は、複数の業者で見積もりを取ることをおすすめします。

和田 直子
たとえば100グラムの喜平ネックレスであれば、もしそれが「18金(K18・純度75%)」のものであれば、純金価格の75%(1グラムあたり約1万9,754円)が基準となり、約197万円前後の価値が目安になります。(もし純度99.99%の純金製であれば、約263万円の計算になります)。

2. 金を売っても年金支給額は減らない、ただし「翌年の保険料」に注意

「金を売って利益が出ると、年金が減らされるのでは」と心配する方もいますが、この点はまず整理しておく必要があります。

2.1 年金本体への影響はない:在職老齢年金の対象外

厚生年金に加入しながら働く方の年金が減額される「在職老齢年金」の仕組みは、給与や賞与といった報酬が対象であり、金の売却で得た譲渡所得はその対象に含まれません。金を売って利益が出ても、年金の支給額そのものが減らされることはありません。

なお、高齢者の就労を後押しする観点から、在職老齢年金の支給停止基準額は令和8年(2026年)4月に月51万円から月65万円へ引き上げられています。これは働きながら受け取る年金と給与の合計額に関する基準の見直しであり、今回取り上げている金の売却益とは別の制度改正ですが、あわせて押さえておくとよいでしょう。

2.2 落とし穴は「翌年の社会保険料」:譲渡所得が合計所得金額に算入される

一方で注意したいのが、翌年度の社会保険料です。国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料はいずれも、前年の総所得金額等をもとに算定されます。この総所得金額等には、給与所得や年金の雑所得だけでなく、金の売却で生じた総合課税の譲渡所得も含まれます。

また、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度や、70歳から74歳までの高齢受給者証の仕組みでは、所得水準に応じて医療費の窓口負担割合が1割・2割・3割に分かれています。金の売却益を確定申告すると、この判定に使われる所得も増えるため、翌年度の窓口負担割合が上がる可能性があります。

和田 直子

金の売却益や投資による利益によって、公的年金の支給額そのものが減らされることはありません。

本当に注意したいのは、翌年の「社会保険料」や「医療費の窓口負担」への影響です。国民健康保険料や後期高齢者医療保険料は前年の所得をもとに計算されるため、売却の翌年に届く「保険料決定通知書」を見て驚くケースも珍しくありません。金を売る際は、こうした翌年の負担増まで見越して計画を立てることが大切です。

2.3 対策:年間の譲渡益を50万円以下に抑える「年をまたいだ分割売却」

金地金やアクセサリーなどの現物を売却したときの譲渡所得には、年間50万円の特別控除があります。ここでいう50万円は「売却額」ではなく、売却額から取得費や譲渡費用を差し引いた「利益」に対する控除です。この利益部分が年間50万円以下であれば、課税される譲渡所得はゼロになります。

そのため、まとまった量の金を保有している場合は、1年で一度に売却するのではなく、年をまたいで複数回に分けて売却し、1年あたりの譲渡益を50万円以下に抑えるという方法が、税負担や翌年の保険料負担を抑えるうえで有効です。なお、同じ年に金以外の資産(ゴルフ会員権など)で総合課税の譲渡益がある場合は、それらと合算して50万円の枠を判定する点には注意が必要です。

3. 保有形態で変わる、金の税金と保険料への影響

ひとくちに「金を持っている」といっても、現物のほか、証券会社などを通じた金CFD、金ETFや投資信託といった保有形態があり、それぞれ税金の扱いが異なります。

金の保有形態による税金・社会保険料への影響の違い2/2

金の保有形態による税金・社会保険料への影響の違い

出所:国税庁「No.3161 金地金の譲渡による所得」等をもとにLIMO編集部作成

現物の金地金・アクセサリー・純金積立を売却した場合の所得は「譲渡所得」として総合課税の対象になり、5年を超えて保有していた場合は、特別控除後の譲渡所得がさらに2分の1に軽減されます。

金CFDの利益は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税(税率20.315%)の対象となり、利益が出れば原則として確定申告が必要です。

一方、金ETFや投資信託を特定口座(源泉徴収あり)で保有している場合は、譲渡所得等として申告分離課税の対象になるものの、確定申告をしない(申告不要制度を利用する)ことを選べます。申告をしなければ、その所得は社会保険料の算定にも含まれません。

なお、上場株式等の配当や譲渡益についても、確定申告をしていなければ社会保険料や後期高齢者医療の窓口負担割合の判定に反映されない仕組みでしたが、2026年6月に公布された「健康保険法等の一部を改正する法律」により、将来的にこうした申告不要の金融所得も反映される見込みです。ただし、この見直しの対象は上場株式等(ETFを含む)に限られており、現物の金地金や金CFDの取扱いに直接の変更はありません。

また、この新しい仕組みが実際に動き出すのは、公布から5年以内とされる施行日を待ってからです。金融機関や自治体側のシステム整備に時間がかかるため、早くとも2029〜2030年頃に生じた金融所得が、その翌年度以降の保険料等に反映される見通しとされています。今すぐ保険料が上がるわけではありませんが、金融所得と社会保険料の関係を巡る制度改正の流れとして、押さえておくとよいでしょう。

和田 直子

同じ「金」でも、現物で持つか、証券口座を通じて持つかで、税金の申告のしかたも保険料への影響も変わってきます。特定口座で源泉徴収ありを選んでいる金ETFは、申告しない限り保険料の算定に影響しにくい一方、現物の売却は利益が50万円を超えると自動的に申告対象になります。ご自身がどの形で金を保有しているかを、一度確認しておくとよいでしょう。